経営コンサルタントの知見

経営に役立つ知見をgoo blogで

「私の本棚2019.5.28」

2019-05-28 17:19:28 | 経営コンサルタント

■         今日のおすすめ

 『未来年表「人口減少危機論のウソ」』(高橋洋一著 扶桑社新書)

 

■         著者が解き明かす「人口が減少しても何も問題はない」(はじめに)

 私達は、「2065年には日本の総人口が8800万人まで減少する。加えて2.5人に一人が高齢者となる。」と言う数字と、それと同時に発信される「人口減少危機論」を受け入れ、悲観的な危機意識を強く持っているのではないでしょうか。

 しかし、紹介本の著者は、「人口が減少しても何も問題はありません」「その理由を解き明かします」と宣言し、主に統計学的・数理的・論理的な根拠を示すことにより、本質的な真実を明らかにすると同時に、人口減少時代にこそ、私達が、正しい認識を持ち、「何を為すべきか」という前向きな姿勢で、様々な事態に対処するよう求めています。

 私達は、紹介本に巡り合えたことを「好機」と捉え、今まで持っていた「人口減少危機論」を白紙に戻し、著者の主張に耳を傾けると同時に、真剣に人口減少時代に向き合い、「何を為すべきか」問い直してみようではありませんか。

 卑近な話ですが、先日、千葉市立中央図書館に行って「人口減少」をキーワードに所蔵図書を検索してみたところ、6か月以内に出版された数冊の図書はすべて貸し出し中でした。紹介本もやはり貸し出し中でした。如何に「人口減少」課題への関心が高いかがわかります。唯一、図書館の書架に在庫としてあったのは、貸出禁止の「総務省平成30年版ICT白書『人口減少時代のICTによる持続的成長』」だけでした。

 この「白書」は、GDPの需要面から見た構成要素を「消費」「投資」「政府支出」「輸出入」と定義した上で、「人口減少時代」に国内市場が縮小していく中で、ICTによる需要・供給両面が増加する要因を二つ挙げています。一つ目は産業・業種を超えたICT「プラットフォーム」によって、データのやり取りが容易になり、BtoB、BtoC、CtoCの関係が変化し、新たな価値や仕組みが生み出され、「市場」が広がるとしています。二つ目はICT輸出・海外展開・インバウンド需要といったグローバル需要に対応した、態勢整備、グローバル需要の取込みへの創造的対応等により、「市場」が広がるとしています。「白書」の例は一例にすぎませんが、「人口減少危機論」に手をこまねいているのではなく、大きな構造変革・仕組み変革・新たな価値の創造への道を歩むことで、「人口減少時代」を前向きに乗り越える道があることを示しています。紹介本の主張する意義もそこに有ると思われるのです。

 それでは、著者が語る「人口が減少しても、問題の無い根拠」を、次項で、その一部をご紹介します。

 

■         「人口が減少による懸念事項」について「問題ない」と解き明かします

【人口がGDP成長率に影響を与える割合】

 著者は、「GDP=みんなの平均給与×総人口」と定義し、2065年に人口が8800万人まで減少した場合の、GDPの変化率を、微・積分的な計算式で、△0.7%程度との解答を出し、「この程度は、影響はほとんどなし」と結論付けます。つまり、この程度の減少は、前述の「白書」を例に上げ、ICTの活用等による生産性の向上等でカバーしてお釣りが出ると主張するのです。

【人口増減率と一人当たりGDP成長率は相関が無い】

 著者は、世界208か国の人口増減率と一人当たりGDP成長率(2000~2017年)をマトリックス(縦軸に一人当たりGDP成長率、横軸に人口増減率)上にプロットすると、△0.22の相関係数になるとの結果を示しています。つまり世界全体でいえば、人口増加は不味(まず)いが、人口減少は不味(まず)くないとの結論を導くのです。同様の手法を先進国に限って行うと、一人当たりGDPは、人口増減率と無相関との解答・結論を導き出すのです。要は、人口減少はマクロ的に見ると、全く問題ないと結論付けるのです。

【インフレ率と人口増減率、通貨増減率の相関関係】

 インフレ率と人口増減率の関係については、世界銀行のデータを使い、世界173か国の人口増減率とインフレ率(2000~2008年)をマトリックス(縦軸にインフレ率、横軸に人口増減率)上にプロットすると、0.1程度の相関係数で、ほぼ無相関との解答を示しています。一方、世界各国の通貨増減率とインフレ率(2000~2009年)をマトリックス(縦軸にインフレ率、横軸に通貨増減率)上にプロットすると、0.7の相関係数になるとの解答を示しています(相関が強い)。つまり、「人口減少=デフレ論」は統計手法・高等数学に弱い官僚・学者の主張であり、デフレは金融政策で対処できることに、これらの官僚・学者は、目を向けるべきだと著者は主張します。

【人口減少で社会保障は破綻しない】

 著者は、この問題について「破綻しない」という数理的に説明できる根拠を持ちながら、敢えて紹介本に示さず(ページが足りない)簡単に説明しています。現役世代が高齢者一人を支える人数は、「高齢社会白書2018年版」によると(単位:人)、2000年3,9、2017年2,0、2025年1,9、2065年1,3とされていますが、著者は『年金を支えるのは人数ではなく「人口×所得」の金額こそが年金数理上大切なのだ』と主張し、『人口が減少しても「人口×所得」の金額が減少しなければ、何ら問題は生じない。その様な政策・経営をしていく事で破綻を回避できる。』と主張するのです。

 

■         「人口減少」を「チャンス」と捉えよう(むすび)

 今こそ「人口減少」を梃子に、今まで旧態依然と流れていた日本経済には、大企業病による「エンゲージメント」の低さと、それに伴う生産性の低さ等、改める点は山ほど有るのではないでしょうか。

 例えば3・6K(きつい、危険、汚い、給料が安い、休暇が少ない、カッコ悪い)職場を、新3K(給料がいい、休暇がとれる、希望が持てる)職場にAI・ICT等を用い変えていく事で、女性が働ける職場すなわち労働人口を増やして行く対応・変革をしている企業が増えています。「特定技能1級」の外国人労働者を受け入れる安易な法改正により、労働集約型職場を温存させる政策は、ポピュリズム政策ではないでしょうか。むしろ、労働集約型職場は淘汰され、資本集約・知識集約型職場が主流となっていく時代ではないでしょうか。それは「人口減少」を「チャンス」と捉え改革した企業が生き残り、従来の流れを温存した企業が淘汰・買収される時代に成っていくのではないでしょうか。

 

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html 

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2019-05-15 09:54:00 | 経営コンサルタント

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「私の本棚2019.4.23」

2019-05-06 19:04:49 | 経営コンサルタント

 

■         今日のおすすめ

 『組織の未来は「エンゲージメント」で決まる』(新居佳英 松林博文 著 英治出版)

 

■         日本企業の驚くべき現実!やる気のない社員が7割!(はじめに)

 私の日本企業観は、細かい処まで行き届く、品質的には世界のトップクラスを行き、日本企業(日本人)に対する、世界の信頼感は圧倒的に高いと思っていました。その考えは今も基本的には変わっていません。しかし、ここ1,2年の間に起きた、余りにも多い、しかも優良企業の、品質検査データ改ざん事件(旭化成建材、日産、スバル、神戸製鋼所、三菱マテリアル、KYB、日立化成等)を目にして、何故という疑問が答えのないまま、頭の中に残っていました。

 しかし、紹介本を読んで、最近の日本企業の現実を理解し、一つの答えが出てきたように思いました。紹介本が紹介する日本企業の現実とは、米国ギャラップ社が2017年に世界各国の企業を対象に実施した「従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査」結果に現れている事実です。日本は、「熱意溢れる社員」は6%、「やる気のない社員」は70%、「周囲に不満を撒き散らしている無気力な社員」は24%と驚く数字が出ているのです。調査対象139か国の中で132位と最下位クラスに属しているのです。

 著者は、『日本企業も高度成長期時代は、エンゲージメントは高かった。しかし、バブルが崩壊し「失われた30年」と言われる時代は、欧米の「事業」に関する指標が取り入れられ、それを基に「事業」の再構築が図られ、「事業」の指標に目が向けられる一方で、「組織」の状態を測る指標が存在しなかった。つまり経営者が「エンゲージメント」の側面を意識してこなかった結果が調査結果として現れている』と説きます。

 この結果、労働生産性(GDP/就業者数)国際比較においても、OECD32か国中22位(GDPでは18位)と、アメリカの労働生産性の6割程度に留まっている現実となっているのです。

 ここで、誤解の生じないよう、従業員満足度とモチベーションとロイヤリティーとエンゲージメントの違いに簡単に触れておきましょう。『「エンゲージメント」は、従業員相互の対等の関係に基づき、主体的・意欲的に取り組んでいる状態を言う。これに対し、従業員満足度(ES)は組織が与えるもので、ESは必ずしも業績や生産性の向上に結び付かない。モチベーションは個々人の動機付けであり、必ずしも組織としての生産性の向上とは結び付かない。ロイヤリティーは上下関係が生み出すもので、相互の対等の関係による「エンゲージメント」とは異なる。』と著者は記します。詳細は紹介本をお読みください。

 それでは、エンゲージメントが経営上どの様な成果を上げているか、次項で実例を参考に見てみたいと思います。

 

■         ポテンシャルは高い日本企業。エンゲージメント経営で変革できる。

【JAL再生成功の本質】

 著者は、日本企業と日本人のエンゲージメントのポテンシャルとても大きいとし、その象徴的事例として、JAL再生成功を挙げています。

 JALは2010年1月に会社更生法の適用を申請。申請直後の2010/3期の営業利益は▲1,337億円。2012年9月に再上場。再上場直前の2012/3期の営業利益は2,049億円の黒字。約2年余りの再生期間で、3,349億円の採算改善を成し遂げました。

 かかる奇跡的な再生は何故できたのでしょう。再生に当たり、世界中から航空会社を再生させたと称するコンサルタント会社が売り込みに来ました。しかし、最終的には、JALの再建に携わった企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)委員長の瀬戸英雄弁護士(瀬戸氏自身も倒産企業の再建のベテラン弁護士として、JAL再建成功のもう一つのカギと評価されている)が、京セラの名誉会長稲盛和夫氏を再生会社JALの会長に招聘することに成功したからです。

 稲盛和夫氏は、経営について次のような公式を持っています。『人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力』。JAL再生に当たってもこの公式を全面的に導入しました(「アメーバ経営」の導入)。その中でも特に「考え方」が大切と稲盛氏は主張します。特に、JALで実現すべき経営的「考え方」は、従来の組織構造を革命的に変革し、全社員との家族のような関係の構築、経営者意識を持った人材の育成、独立採算意識を浸透させるためのアメーバ組織と収益状態を管理するツール(「京セラ会計」)の導入、アメーバ組織間の利害対立の解消、全社員の会社経営への参画であると主張します。

 この様な思考を背景に、「考え方」を具現化したもの(手帳)が「JALフィロソフィー」です。JALフィロソフィーは、経営理念を指針化したもので40項目に亘ります。JALフィロソフィーは、社員メンバーを集め、自ら作り上げたのです。しかも、JALフィロソフィーの基本となる経営理念は、『≪全社員の物心両面の幸福を追求し、≫≪お客様に最高のサービスを提供します。≫≪企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。≫』でした。「公的支援を受けた企業」の経営理念には相応しくないと批判を浴びながら、あえて導入したのは、社員一人一人の幸福なしに、何事も進まないことを、稲盛氏はよく理解していたからでした。

 JALの再生成功を振り返ってみて、正にそれは『「エンゲージメント」経営』であると理解できるのではないでしょうか。米ギャラクシーの「従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査」で最下位クラスの日本でも、立派に出来ることの証ではないでしょうか。

【外国企業は先を走っている】

 ここ数年前から、グーグルは新しい幹部役員として「CHO(Chief Happiness Officer」という役職を置いています。又マイクロソフトでは、2014年にCEOに就任したサティア・ナダラ氏は「コンパッション(思いやり)」や「エンパシー(共感)」を重視した経営を行うと公言し、「私たちは、満たされていない、明確にされていない顧客ニーズを展開している。深い共感力、つまり他者の視点を持つ力なしには、この目的を果たし続けることはできない」と語り自らを「CHO」と称しています。両社ともニューヨーク株式市場の時価総額のトップクラスを競う企業に成長しているのです。

【日本の企業も『「エンゲージメント」経営』を導入し始めている】

 日本企業でも、大企業から中小企業に至るまで、著者の会社が売出す「WEVOX」(「エンゲージメント」の見える化のSaaS)を利用している会社が、リリース1年半で約500社に上ると著者は言います。紹介本にも幾つかの導入成功事例が紹介されていますが、これからの時代、「エンゲージメント」経営が注目されるのではと思います。

 

■         成長企業が新たな経営手法「エンゲージメント経営」を導入(むすび)

 前項で記しましたように、「エンゲージメント経営」が、世界では既述2社の他、アップルやディズニーなど多くの企業で導入されています。日本でも既述の如く多くの企業がトライをしています。

 これからの時代、「共創」「共感」「協働」「生産性の向上」「品質の向上」等、人・組織の行動を重視し持続的成長を目指す企業において、「エンゲージメント経営」が注目されて来るのではないでしょうか。

 

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。 

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「私の本棚2019.3.26」

2019-05-06 18:47:02 | 経営コンサルタント

 

■         今日のおすすめ

 『2019~世界と日本経済の真実「米中貿易戦争で日本は果実を得る」』(高橋洋一著 悟空出版)

 

■         日本を取巻く世界の政治・経済情勢のメタを知ろう(はじめに)

 著者の高橋洋一氏は、自らを「数量政策学者」と称しています。著者は「2019~世界と日本経済の真実」を、数量的分析と著者の経歴で積み上げた人脈からの情報により、他の著書では得られない、メタ情報として紹介本を通して発信しています。紹介本により、私達が持っている常識的な情報が、より深い新たな発見として見出す事が出来たり、全く違った認識に変えられたり等、新たな知見を与えてくれます。

 紹介本には、アメリカ、EU・イギリス・ロシア、中国・北朝鮮・韓国、日本について貴重な知見、しかも、それは著者独自のデータに基づいた知見をベースとした「世界と日本の真実」が書かれています。紹介本を読むことで“エッ!そうなのか”と新たな気付きを見出すことができます。

 紹介本の中で語られている“真実”のいくつかを次項でご紹介しましょう。

 

■         これだけは知っておきたい「2019~世界と日本経済の真実」

【紹介本の題名「米中貿易戦争で日本は果実を得る」とは何?】

 アルゼンチンで行われたG20財務相・中央銀行総裁会議で議論するための参考資料として、2018年7月にIMFから発表された「The Global Impact of Escalating Trade」をもとに、著者は、米中貿易戦争の日米経済への影響を試算しています。それは、「①鉄鋼、アルミへの関税及び2018年6月と7月に実行された対中輸入関税と中国による同額の報復関税による影響」「②2018年9月に追加された対中輸入関税2,000憶ドル(10%)と中国による同規模の報復関税による影響」「③自動車輸入関税:米国が全自動車輸入にかける追加関税(25%)と、各国の報復措置による影響」の3つの点に於いて1~5年後の日米両国のGDPへの影響比率を試算・算出しています。

 この試算は、米国が全ての項目において、GDPの減少の影響を受けるのに対し、日本は、③の自動車関税により、若干(最初の2年間は若干のプラス。5年後にマイナス0.1%程度のGDPの減少。)のマイナス影響があるものの、①②の項目ではGDPの若干の増加(プラス1.5%程度からプラス0.25%程度)と示しています。

 一方、自動車については、日本はアメリカに174万台(約360億ドル)を輸出する一方で、アメリカ国内で377万台(アメリカからの輸出・国内販売を含め757億ドル)を生産し、150万人の雇用を生み出していると著者は指摘します。

 この様な観点から、著者は、米中貿易戦争に関しては、『日本は「高みの見物」でいい』と主張するのです。

【米中貿易戦争の根底にあるもの(中国の主張する「自由で公平な貿易、公正な国際秩序の継続」の矛盾)】

 昨年の12月のアルゼンチンで行われたG20の最中に行われた米中首脳会談では、米中貿易戦争の90日間の休戦とその間の交渉で合意した。しかし、米中貿易戦争の根底にあるものは、「資本の自由化」「公正な知的財産の保護」「公正な競争」です。

 著者は、その点について、『中国は一党独裁の社会主義国であり、自らが主張する「自由で公平な貿易、公正な国際秩序の継続」は、中国国内での「資本の自由化」「情報の自由化」引いては「司法の民主化」を求められる。しかし中国が一党独裁を続ける限りそれはできない。中国の主張(「自由で公平な貿易、公正な国際秩序の継続」)は口先だけである。米中貿易戦争の長期化は避けられない。』と言います。

 90日間の休戦の期限(2019年2月)の翌月に、中国では全人代(中国全国人民代表大会)が開かれます。その時までに中国の政治情勢がどの様になっているかによって、米中貿易戦争の方向性が見えて来るのではないでしょうか。

【日本財政が破綻しないワケ】

 著者は、この点について同様の主張(「日本の財政は破綻しない」)を、その他の著書でも、繰り返しています。著者の主張は、会計論的に見れば当たり前の主張です。具体的には、「国の連結貸借対照表(日銀を連結。2017年度。)において、純債務は100兆円以下になる。加えて、国の徴税収入50兆円は、一つの資産であり、将来的には資産価値が増加し600兆円以上(根拠は書かれていないが、将来のインフレ率等を勘案か)となり、日本国の財政は破綻しない」と主張します。

 【中国に飲み込まれる韓国】

 「韓国の対中国輸出は2003年には、アメリカを上回り最大の輸出国になった。2017年には対中国輸出が1244億ドルと、韓国全体の輸出額の25%(韓国GDPの11%)を占め、更には、対中輸入額870億ドルを差し引いた対中貿易黒字は374億ドルとなっている。米中貿易戦争の影響で中国の景気が悪化すれば、韓国経済にとっては大きなダメージになる」と著者は言います。また政治的にも、『2017年5月に就任した文大統領も同年10月に訪中し「アメリカ主導のミサイル防衛システムには参加しない。日米韓の安保協力を軍事同盟に発展させない。THAADを追加配備しない」と合意した。文大統領が北朝鮮の金委員長との米朝会談に貢献したことは事実だが、その背景には常に中国と連絡を取り合っており、中国の意向を受けていることは間違いないだろう』と著者は付け加えています。

 この様な事実から、韓国も北朝鮮も中国の傘下にあると考え、今後の朝鮮半島情勢の動向には注目する必要があると思います。朝鮮半島がアメリカの傘下になるか、中国の傘下になるか、いずれにしても、もし、実現した場合には日本に大きな影響をもたらす事になります。

【その他の注目したい真実】

 紹介本には、上述以外にも注目すべき「真実」が記述されています。

□     EUとロシアと日本の今後を読む。

□     EPA(経済連携協定)とFTA(自由貿易協定)の違い。共産党支配の中国は、資本の自由化を認めるわけにはいかず、絶対にEPAを結べない。

等です。それぞれ示唆に富んだ「真実」がデータに基づき説明されています。是非紹介本を手に取って読んで下さい。

 

■         「真実」追い求め、冷静に対応して行こう(むすび)

 2019年も世界と日本の経済・政治は一見波乱に富んだ年になりそうです。そのような環境の中で、「真実」は何かを真剣に追い求め、そして分析し、それに基づいた冷静な判断を行い、対応していくべき年と思います。

 その場その場の情報に惑わされずに、『世の中の「真実」を見る目』を常に養いつつ、その「真実」に対応する中で、経営のレベルの向上を計る年にしたいものですね。

 

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

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「私の本棚2019.2.26」

2019-05-06 18:44:45 | 経営コンサルタント

 

■         今日のおすすめ

 『日経大予測2019「これからの日本の論点」』(日本経済新聞社編 日本経済新聞出版社)

 

■         2019年の「日本の論点」に注目してみよう(はじめに)

 新しい年のスタートの時期に当たり、新年のPESTに係る本をご紹介します。

 紹介本は毎年日本経済新聞社から出版される恒例の本であり、表題の「2019『これからの日本の論点』」が出版されると、「もうそんな時期になったか」と思うと共に、新年はどんな年になるのだろうと、胸をどきどきさせながら読みます。

 2019年版は、「経済・金融のこれから」「産業・企業はこれからどうなる」「政治・国際情勢・世界経済はこれからどうなる」の3Chapter、22項目に亘って日本経済新聞の記者が書き下ろしたものです。

 日頃からPEST(政治・経済・社会情勢・技術)に関心を持ち、新聞やテレビなどから情報を取集しておられる方にとっては復習的になるかもしれませんが、改めて22のテーマについて読みますと、意外と新たなメタな情報の発見があります。

 22のテーマの中には、日頃のニュースではあまり報じられていないもの、報じられても表層的で、深く分析的に報道されていないものがあります。そのような中から「注目したい日本の論点」を、次項でご紹介します。

 

■         2019年の「日本の論点」の特徴は

【2019年は国際情勢が懸念の中心に】

 紹介本は、2018年を総括して、『トランプ大統領の「やりたい放題」の政策が現実の姿となって現れたのが、2018年という1年の特徴だった』と表現しています。更に『米前大統領のオバマ政権の時から、「もはや世界の警察官ではない」と公言し、世界のリーダー役から退く構えを示してきた経緯があったが、「世界秩序の破壊者」と称されるトランプ政権の時代になり、世界のリーダー役の不在が現実となってしまった。中国もロシアも強権国家であり、リーダーの代替にはなりえない。結局トランプ政権がもたらした国際的な混乱に世界は揺さぶられ、国際秩序は当面リーダーとなる調整役が不在のまま不安定な状況が続くとみるべきであろう』、と強調しています。

 崩れた国際秩序の中で、2019年はどんな懸念があるのでしょう。紹介本は22項目の内7項目を割いて国際情勢の懸念を予測しています。それは日本の政治・経済情勢が、国際情勢の影響を受けやすい年である事を特徴づけています。

 それでは、どんな国際情勢の懸念があるのか、重要と思われる幾つかを以下で採り上げてみましょう。

【米中貿易戦争と日本】

 米中貿易戦争は、米中が世界の政治・経済・技術での覇権争いです。米国と中国の競争状況を数字で拾ってみると、特許出願数では中国は日本を抜いて2位(1位は米国)、スーパーコンピューターの計算速度では中国は米国に次いで2位、スパコンの保有台数では中国が米国を抜いて1位、AIを手掛ける企業数では僅差で中国は米国に次いで2位となっており、米国としても中国の脅威を感じざるを得ません。

 加えて、トランプ、習近平の背景には、それぞれの国の政治情勢が深く絡んできます。習近平の権力も盤石とは言えません。北京の近くの保養地で毎年8月に開催される「北載河会議」、2018年は引退した江氏、胡氏等の長老と現指導部からは李克強など4名が出席したと報じられています。その会議で、江氏と胡氏が手を組み習近平に、外交・経済政策の見直しを求める1万字を超える意見書を提出したとの噂も出ていることから、盤石に見える習政権に何か変化が起きる可能性を否定できません。

 この様な米中の深い対立があって、日本と中国の外交的改善や協力関係の推進が持ち上がって来ていますが、米中の板挟みの中での日本の判断は悩ましいものとなりそうです。

【世界に広がる「ナショナリズム」と「ポピュリズム」】

 2018年に蒔かれた、トランプの「アメリカ・ファースト」が世界に多くの「ナショナリズム」と「ポピュリズム」の国家を生みました。「ナショナリズム」とは国家主義と訳せばいいのでしょうか。「ポピュリズム」とは大衆迎合政治と訳せばいいのでしょうか。ドイツの「ドイツのための選択肢」の躍進、オーストリアの極右・自由党政権の成立、イタリアの「五つ星運動」「同盟」の連立政権の成立、チェコ、ハンガリー、メキシコなどでの政権交代等世界は大きく変わってきています。

 今までの世界秩序を維持してきた、「普遍的・公正なルール」が通用しなくなるのではと懸念されます。G7、G20、APEC等の国際秩序を作ってきた同盟組織・機構が機能を果たせなくなる事態が起こるのではないかと懸念されます。そこから生じる地政学リスクに注意を払う必要のある年になりそうです。

【目を離せない中東情勢】

 アメリカの、核合意離脱によるイランへの制裁強化は、これからどのような影響を世界に与えていくのでしょう。まさかホルムズ海峡の封鎖には至らないでしょうが。

 あれだけ結束の固かった「湾岸協力会議」が、現在はメンバーの一員であるカタールがサウジアラビアと断交しています。ジャーナリスト、ジャマル・カジョギ氏の殺害から明らかにされつつある、サウジアラビアの非民主主義・強権国家・恐怖政治体制が中東の秩序にどのような影響を生じさせるのでしょう。中東からも目を離せません。

【まだまだ沢山ある国際情勢の懸念】

 以上述べてきた以外にも多くの、国際情勢の懸念が多くあります。字数の関係もあり、上記に留めますが、ご興味をお持ちの方は、紹介本をお読みください。

 

■         2019年は課題満積の年。PESTの動きから目を離すな(むすび)

 「日本の論点2019」から読み取れる特徴は、既述いたしました様に「国際情勢からくる懸念に基づくPESTの動きに注目」と言えるのではないでしょうか。

 経営に係る私達は、見通しと対応の難しい年にどう対処したらよいのでしょう。私見ですが、『スピーディーな「メタ(表に必ずしも現れない事態の原因となっている真の事実)」情報の収集、分析、仮説、検証、実行』をしていく事でしょうか。

 

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。 

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

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