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「私の本棚2022.7.26」

2022-07-26 08:10:08 | 経営コンサルタント
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『「コトラーのマーケッティング5.0」Technology for Humanity』

(フィリップ・コトラー ヘルマン・カルタジャ イワン・セティワン著 

                       恩蔵直人監訳 藤井清美訳 朝日新聞出版)

  • COVID-19で加速したデジタル化とマーケティング5.0(はじめに)

【マーケティング1.0~4.0の歴史を振り返る】

 「マーケティング」の言葉の起源ですが、イギリスで18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命により、工業製品の大量生産が可能となったことに起因します。

 アメリカでは大量生産が可能になっても、植民地があるイギリスと違い、気候も風土も価値観も違う広大な国内に販売する方法や計画が必要となりました。つまり、効率よく大量生産し、市場や消費者を分析し、効率よく消費者に届ける戦略や戦術を立てる必要があったのです。この様な背景の中で、アメリカ由来の「マーケティング」の言葉が生まれたのです。1937年にはアメリカ・マーケティング協会(AMA)が設立されています。

 その様なマーケティングが、理論としてどのように進化してきたかを、コトラーの定義に従い1.0~4.0を見てみましょう。

 「マーケティング1.0」(1900~1969)は、製品志向・製品販売を目的とする製品管理に重点を置いた製品中心のマーケティングです。コトラーの先輩であるエドモンド・ジェローム・マッカーシーが1960年に、マーケティングの基礎知識である「4P戦略(Product、Price、Place、Promotion)を発表し、さらに、3P戦略(Personal;現場スタッフ重視戦略、Process;業務、販売プロセス戦略、Physical Evidence;顧客に安心感を与える証明書などの可視化戦略。併せて7P戦略。)を提唱しています。

 「マーケティング2.0」(1970~1989)は、買い手の「ニーズは何か」を探る顧客中心のマーケティングです。戦略的に顧客満足を探る顧客管理が中心テーマで、コトラーの提唱する「STP分析」がフレームワークとして登場した時代です。1980年代、ロバート・ラウターボーンはプロダクトアウトの4Pとは異なった、顧客視点戦略である、マーケットインの「4C;Customer Value、Customer Cost、Communication、Convenience」を提唱します。

 「マーケティング3.0」(1990~2009)は、インターネットの登場やSNSの発達を起因とする社会の変化に伴い、消費者が商品に関する様々な情報にアクセスできる「市場の成熟」と社会問題・環境問題の顕在化に伴い「企業の社会的責任」を問われる時代が到来します。マーケティングの視点では、顧客は商品の機能的・感情的満足に加え、商品が社会的責任に応えているかという倫理的・精神的満足をも求めるようになったのです。まさに人間中心のマーケティングの時代になったのです。また、商品・ブランドを3つの視点から評価する「3ⅰモデル;Brand Identity、Brand Image、Brand Integrity」というフレームワークが生まれました。この様な時代背景の下、2009年コトラーのシリーズ第一作の「コトラーのマーケティング3.0;From Products to Customers to the Human Spirit」が出版されました。

 「マーケティング4.0」(2010~)は、2016年出版されたコトラーのシリーズ第二作、「コトラーのマーケティング4.0;Marketing from Traditional to Digital-スマートフォン時代の究極法則-」にある通り、スマートフォンに代表されるデジタルによる接続に加えてオフラインのチャネルも使うオムニチャネル・アプローチのマーケティングの時代と定義します。製造業におけるフィジカルとデジタルを融合させたシステムが使われる「インダストリー4.0」からヒントを得たものでした。

 シリーズ第二作では、STP分析と共に、顧客理解を深め、的確なマーケティング戦略に繋げるツールとしてのカスタマー・ジャーニーについて、サミュエル・ローランド・ホールの「AIDMA;Attention、Interest、Desire、Memory、Action」、デレク・ラッカーの「4A;Awareness、Attitude、Action、Act again」に替わる、フィジカルとデジタルのハイブリッドな顧客との接点による枠組み「5A;Aware、Appeal、Ask、Action、Advocate」を提案したのです。

 マーケティング・ミックスについては上記「4P」「4C」に替わるコトラーの「4C;Co-creation(共創)、Currency(通貨・ダイナミックプライシング)、Communal activation(共同活性化)、Conversation( カンバセーション・会話によるコミュニケーション)」が提案されました。

【マーケティング5.0の出番が来た】

 COVID-19の影響により社会のデジタル化が加速しました。この結果4.0のオムニチャネルの構築を超えて、ネクスト・テクノロジーがマーケティングのやり方を一変させる可能性が顕在化してきたのです。まさに、内閣府が示す「Society5.0」に対応するマーケティング5.0の時代が来たのです。この様な時代を反映し、シリーズ第三作である紹介本が出版されたのです。

 それでは、これから主流となるネクスト・テクノロジーを活用するマーケティング5.0とはどの様なものか、次項で見てみましょう。

  • 次の10年で主流になるネクスト・テクノロジー・マーケティング5.0とは

 マーケティング5.0のスタートは、カスタマー・ジャーニーにおいて、ネクスト・テクノロジーがどこで価値を生み出し、伝え、提供し、高め、マーケターのパーフォーマンスを引き上げることが出来るかのマップを作成することから始まります。加えてこのマップはデータ・エコシステム(相互に連携するシステム)の構築により実現されねばなりません。

 マーケティング5.0を可能にするネクスト・マーケティング・テクノロジーとしては、人工知能・機械学習(AI)、自然言語処理(NLP)、センサー技術、モノのインターネット(IOT)、ロボティックス、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、ブロックチェーンなどがあります。

 ネクスト・テクノロジー・マーケティング5.0のエコシステムは、データドリブンのプラットフォームの下で、予測マーケティンを行いあらゆるマーケティング投資の利益予測を推定し、売り場での顧客へのパーソナライズされたコンテクスチュアル・マーケティングを提供し、営業・店頭販売などの現場に於ける顧客とのシームレスなインターフェースを拡張マーケティングの活用で希少な人的資源の効率的・効果的な活用を設計します。

 このエコシステムは市場の変化にリアルタイムで対応出来るように、アジャイル(俊敏性)とインテレーション(短期間の繰り返しで完成度を高める)が求められます。詳細は紹介本(8~12章)をお読みください。

  • マーケティング5.0の時代に備えよう(むすび)

 マーケティング5.0は始まったばかりです。今から、データドリブンで、アジャイルなネクスト・テクノロジー・マーケティングを、インテレーションし乍ら取り組んでいきましょう。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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