徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

Lost Memory Theatre (ネタバレあり)

2014年08月28日 | 舞台

≪東京公演千秋楽メモ≫




さすが千秋楽、ほぼ満席の劇場に活気あふれる客席。ところどころ空いている通路脇の席には、実は芝居中に白井さんや美波さんが座ったりするのですね(笑)知らずにきた人は驚いただろうなあ!長塚さん演出の『マクベス』ほどじゃなかったけど、客席を平気で使うのは白井さんの十八番、そして観る側の気持ちを試す、とは友人談。逆に言えばそれだけ「観客をもひとつの舞台装置として操る」演出家としての自信の表れでもあるのかと思います。
観客ひとりひとりもまた上演される舞台空間の一部、と思っている私はこの「良いように翻弄されるドキドキ感」が結構好きです。そして今日の座席は上手10列目あたり&通路すぐ脇(!)なので、前回よりもはるかに全体が見渡せる好位置でした。舞台に集中していて、ふと肩が触れそうな距離で白井さんや山本さんがそっと通り過ぎていくのに気づくドキドキ感は「さすが!!!」同じ舞台でも違う意味で数倍楽しめる、まさしくプライスレスな瞬間!(≧▽≦)

照明の当たり具合が「高さ」「位置」とも前回の座席とは違うので、受ける印象も全然違ってきます。3列目からはあれほど傲然と聳え立つように見えたバンド雛壇はより遠め+下のほうに見えて威圧感が消え、逆にリサさんが歌ったり森山さんが踊ったりする位置が目の高さに近くなってシーンごとの「絵」としてはまったく別物に。
そして森山さんがヴォーカルポジションで踊る二幕の見せ場は、照明が真後ろ(やや上手側?)からしか当たらないせいか、あの美しい影絵のような効果が半分も見えない!(泣)スポットがちゃんと当たらない側から見ると、ほぼ影になってしまって、特に黄金色に輝く長い髪の麗しく流れる様子が~~~…見えない…orz ←今日ものすごく残念だったこと。

とはいえ、ヴィジュアル的には前回が「ミニマム」なところを観察できて、今回が「全体」を堪能できたという点で理想的だったと思います。歌詞がわかったらもっと立体的なストーリーを楽しめたに違いないとも思いました。残念ながらフランス語は守備範囲外ですので…(英語歌曲がもうちょっと多いと良いのだけどwあの独特の雰囲気がなくなってしまう)。

カーテンコールは会場総立ちのスタンディング・オベーション。最後まで「音楽」が主役の舞台らしく、演者やスタッフからのコメントはなし。でも、それで正解だと思いました。私自身カテコで中の人が出て来るよりは舞台の余韻に浸りたいと思っているクチですし、何よりここまで一貫した「アルバムのための、音楽のための3次元空間」を作り上げている以上は、最後までビシッとその美意識のまま貫いていただきたい、と。
白井さん初プロデュース公演がここまで挑戦的な内容だったことにも驚きましたが、会場からの熱くて温かい拍手こそ、この公演が観た人々に与えた「インパクト」の大きさや価値を証明していたのではないでしょうか。

三宅さんの音楽世界を堪能できたのも幸せでした。期待していたアンコール(そう、これはライヴショーであって、芝居ではないのだ、と確信!)、リサさんのハスキーな歌声+ミドルテンポの曲に合わせて艶やかに舞うバレリーナ4人…本当に楽しそうに踊る姿が素敵!そしてそれを脇で見ながらウズウズ?してる雰囲気wの森山さんがラストは「風と炎の精霊のような」軽やか&切れ味のある踊りで鮮やかに締めくくり…「ブラヴォー!」と声をかけたくなるほどに興奮も最高潮♪(海外だったら絶対歓声が飛んでたはず!)ただただ夢の続きのようなアンコール、素晴らしかったです!

最後は照明や音響などのKAATスタッフにも「出てきて!」と白井さんが身振りで合図、それこぞ裏方も含めた全員に大きな拍手が!それでも遠慮がちな「主役」三宅さんと白井さんを「さあ、挨拶してください!」と笑顔でちょいちょいっと前に押し出していた森山さんに「GJ!!!」(笑)そして山本さんがそんなカンパニーを一歩引いて見守っている、そんな雰囲気もまた面白かったです。(^^)

ところで、この舞台は日本でやるよりもむしろ海外公演のほうが反響は大きいのではないかと思いました。ちょっと日本にだけ留めておくにはもったいない、とも。最近では日本の舞台作品の海外公演も増えてきているようですが、台詞のハンデや設定の説明が要らない「音楽が主役」の舞台なればこそ、世界どこの国でも一流の観客を楽しませることができるはず、と感じました。是非三宅さんのホームグラウンドのパリで、そしてできればホールなどではなく、ライヴハウスのような息遣いの聴こえる距離で、ゆったりと贅沢な夜を堪能できたら最高だなあ…と夢想しました。

終幕後に友人と美味しいベルギービールを飲みながら他にもいろいろ(ツッコミどころも含めて)語っていたのですが、それは「ナイミツニナ!」ということでw

9月6日(土) ~7日(日)には兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールでの公演が予定されています。是非お近くの方はあの音楽の魅せる不可思議で艶やかな夢を味わいに、足を運んでいただきたいと思います♪(^^)



例の幕間での「大騒ぎ」のもとになった?ロビーのソファー。
あの演出は兵庫公演でもやるんですかねえ…?




≪8月27日≫

KAATの『Lost Memory Theatre』(以下LMT)を観に行ってきました。8月21日(水)から開幕していたのですが、帰国直後だったり、先週末は他の予定を入れていたりで、休演日明けのこの日が初見です。

公式HP
http://www.kaat.jp/d/l_m_t




<スタッフ・キャスト>(敬称略)
原案・音楽:三宅純
構成・演出:白井晃
テキスト:谷賢一
振付:森山開次
出演:山本耕史、美波、森山開次、白井晃、江波杏子 (+バレリーナ4名)
演奏/三宅純、宮本大路、伊丹雅博/今堀恒雄、渡辺等、
ヤヒロトモヒロ、赤星友子ストリングス・カルテット
歌手/リサ・パピノー、勝沼恭子

<上演時間>
第一幕50分、第二幕60分、休憩15分

※9月に兵庫公演あり。





昨年から『ヴォイツェク』『9days Queen』と続けて観てきた白井晃さん&三宅純さんのコンビの最新作。この4月にKAAT(神奈川芸術劇場)のアーティスティック・スーパーバイザーに就任した白井さんの「プロデュースデビュー作」なのです…が!4月末ごろのLMT制作発表以来、開演までほとんど情報が入ってこなかった不思議!(笑)まあ白井さんも『テンペスト』とか『アダムスファミリー』とか超!お忙しかったですからね。いつ舞台作るんだろうって思っているうちに開幕してしまった、というのが正直な所です。


e+の記事より
「白井晃がKAAT神奈川芸術劇場の芸術参与に就任!
山本耕史、美波、森山開次らが出演するプロデュース第一作『Lost Memory Theatre』制作発表会見をレポート!」



http://etheatrix01.eplus2.jp/article/395433555.html

そしてこのコンビ(+山本さん)の作品について…昨年の『ヴォイツェク』が作品としては素晴らしいと思ったものの、内容が個人的に肌に合わなくて、ややトラウマ化しておりました。緻密な演出や作風というのは、受け止める側の心理や状態によって「繊細で芸術的」と思うか「神経質で緊張する」と受け取るか、差があると思うのですが、どうも昨年の秋はダメな方に転がって行ってしまったようです。

↑ そんなわけで、観る前から微妙に腰が引けていたというのもアリ…(^^;;;

その不安の余り、ネタバレを極端に嫌う私が禁を破って親しい友人(先に観に行っていた)に「で、どうだった?」と聞いたところ「大丈夫だと思うよ~!まあ話は後で、とにかく早く観てほしい^^」と言われて、ようやくちょっと安心してKAATまで出かけたのでした。





結論。

今回の舞台はとても不思議で贅沢な「意識と記憶の浮遊空間」でした。
考えるより感じる時間と空間です。こればっかりは感想や描写の言葉が野暮に思えるほど!(笑)

完全に「音楽がメイン」で、それを引き立たせる舞台装置や役者の芝居、台詞…という感じです。数少ない役者はみんな素晴らしくプロフェッショナルだと感じる人ばかり。もちろん文句なしに上手いのですが、それより何よりやはり音楽が美しい。アルバム『Lost Memory Theatre』の世界観そのままです、それを可視化しました、としか表現できないと思います。

一方で「事前に情報が出ないはずだ!」と納得も。
見事に「音楽」と「歌」、「役者の肉体表現」の融合した「他の何でもない、何にも似ていない」ステージでしたから。
どうにも、表現しようがない。


あの空間は、「あれ」でしかないのです。


そして私は「あれ」を表現する十分な言葉を持っていません。
…というか、表現する努力を放棄してしまったようです。←やってみるだけムダっぽい(笑)





タイトルのLost Memory Theatreは、「失われた記憶の劇場」とでも訳せばいいのでしょうか。

記憶を失ったらしい一人の若い男が、仮想未来のようでいて19世紀的な退廃感が漂う「劇場」らしき場所に迷い込み、そこで少女や踊り手、謎の男、老婆の「記憶」「現在」「過去」をオムニバスのように見たり、彼らと話をしたり、果ては交じり合う「記憶」の中に巻き込まれたりしていく…敢えて書くなら、シナリオはこんな感じで始まります。

舞台上には鏡台やトルソー、舞台衣装のかかったハンガーラック、テーブル、椅子、ワイングラス、高々と聳える柱…前方9列を潰して作り上げた広い空間は、さしづめ観客自身が迷い込んだ舞台裏。ホンモノの舞台袖や舞台裏」とあえて区分けをなくしているので、客席の私たちはまるで自分たちが舞台裏に迷い込んだような錯覚をリアルに味わいます。

そして圧倒的な存在感で舞台の中央奥に君臨しているのが、全編で生の演奏を披露するバンドと歌手たち。作曲家としての三宅さんでなく、ピアノやトロンボーン、シンセサイザーを操る演奏家としての三宅さんの姿も堪能できます。
仰ぎ見るような雛壇の高さ、葉のレリーフで飾られた巨大な馬蹄型の「フレーム」額縁のように舞台を区切りながら、異界への門にも見える「そこ」にかかる真紅のカーテン、豊かなドレープの描く美しさ、最背後で映像や視覚効果を映し出すスクリーン、非現実感そのものです。


しかし。キャストには名前がありません。
(うち2人は「ミリアム」と呼ばれるが、それも混沌としている)

彼らが「何者であるか」すら、明確ではありません。


主人公らしき「記憶喪失の男」(=山本さん)は、観客の戸惑いや驚きをそのまま再現しているような不思議な近さでした。芝居をしない山本さんってこういうふうなんだ、と新鮮な驚き。そして舞台上で同時進行していく複数の物語は美しい歌や音楽に彩られて、何とも不思議な「浅い眠りの中で見る不思議な夢」のようです。夢であれば、設定が曖昧でも、話の流れが突飛でも気になりません。観る側はただひたすら五感を豊かな音と奇妙で美しい舞台上の光景にあずけて酔えばいい、そう思いました。

先程まで踊り手であった男が、次には天使の翼を持って高く舞い、白塗り紫スーツの妖しい男は、次の場面でバレエのチュチュを纏いメガホン片手に奇妙な歌を歌う。少女は老婆になり、老婆は少女に語りかける…彼らの登場も、時に客席の通路であったり、時に2階であったり、あるいはバンドのただ中であったり…そもそもここはどこなのか。劇場、と名がつくのは舞台上でもあり、私たちのいる場所でもある。まさしく「驚き」や「カオス」を意図的に舞台に作り出し、不明確なストーリーは曖昧なまま進行していきます。


でも「これは何?」「それはどういう意味?」と、突き詰めて考えないほうが良いと思います。
観ているものが全てで、そこから感じるものを無理に「理解」しようとしないほうが良いとも思います。

ただ感じるのみ、です。 (←書いてて思ったwそれってブルース・リーかい!)


不明確で曖昧で、確たる流れもないのですが、芝居には随所に(こちらの記憶を刺激する)何かがちりばめられています。例えば第二幕の男と踊り手の交錯するシーンは、旧約聖書の「ヤコブ(イスラエル)と大天使の徹夜の格闘」を私に思い起こさせました。舞台上で表現されていたのは「光と影」のレンブラント的イメージでありながら、天使そのものはギュスターヴ・ドレの描くそれのような、モノクロの静謐さを備えていて、何とも不思議な光景でした。



ただ居るだけ、が芝居として成り立っていたりする不思議。フランス語やポルトガル語で、ちょっと肩の力を抜いて歌う山本さん、あんなに声質がああいう曲に合うとは!これまた素晴らしい発見。これ見よがしのドヤ顔で圧倒的歌唱力を披露する山本さんもステキですけど、白井さんって(『ヴォイツェク』でもそうでしたが)私たちの知らない役者の一面/可能性を引き出すことが本当に天才的なまでに上手だなあ…と友人と感嘆していました。
美波さんのフランス人形のような非現実的で両性的具有的な美しさ。長い髪の先端にまで細やかに神経が行き届いているかのような森山さんの踊り。強烈な存在感とコケティッシュな魅力が可愛い江波さん。バレリーナたちは公演イメージビジュアルそのままに鏡台の前で静かに動きを止める…誰も彼もが魅力的で、目を奪われること間違いなしかと。


そして「私は夢でも見ているのかな?」と自問する…。

この舞台には、夜の気配がとても似合います。
まさしくソワレの為に生まれた空間ではないでしょうか。


2時間ちょっとは長いようでもあり、あっという間でもありました。いやはや…70年代くらい?の、パリの路地裏にある小さな劇場か、古い古~い映画館にポツンといるような「タイムトリップ感」!モヤモヤしていても、その非現実感を楽しんでしまえる、理屈抜きで面白がってしまえるのも、不思議な感じではありました。
終わってから隣にいた方と思わず「これで2時間7800円は安い!素晴らしく贅沢な舞台!」と頷きあってしまったほどでした。


どんな舞台作品にも言えることですが、好き嫌いは分かれると思います。
ですが、私は意外なほどゆったりと寛いだ、甘美で幻想的な時間と空間を楽しむことができました。





ふわふわと不思議な夢遊病(笑)的感想を少し「言葉」と「理屈」で補強したい方は、是非パンフレットをご一読ください。白井さん三宅さん山本さん他インタビュー&コメント読み応えあり、舞台稽古写真など。A5サイズで40ページ、700円はお値打ち&お買い得かと。最近パンフ2000円とか3000円とか高いのばかりなので、「良心的な値段」だと思います。←分かる人には分かるネタw(分からない人は休憩時間にロビーに行こう!)

27日は映像を収録していました。DVD化されるならそれも「良い記憶の断片」になりそうですが、無理ならせめてライブCDで音源を残してほしいなあ、とも。ただナマ舞台とDVDを比べると「100%フレッシュフルーツジュース」と「果汁1%未満清涼飲料水」くらいの差があるので、やはりこれはナマで観て頂くのが一番の贅沢であり、相応しい味わい方だと思います。


次回はKAAT千秋楽を観劇予定。
それまでしばらく贅沢な余韻に浸れそうです。