クラウド化する世界
著者:ニコラス・G・カー
~抜 粋~
マイクロプロセッサの機能が進化し、データ記憶システムの容量が増大したことを利用して、誕生したばかりのユーティリティは巨大で極めて効率的な情報処理プラントを建設し始めている。
そして、サービスを顧客に供給するための地球規模のグリッドとして、何百万マイルもの光ファイバーケーブルを備えたブロードバンドインターネットを利用している。かつての発電所がそうだったように、新たなコンピューティングユーティリティは、企業が自前のシステムで達成できるレベルをはるかに超えて、「規模の経済」を達成しつつある。
ユーティリティモデルの経済効果を見て、企業は情報技術を購入・使用する方法を再考している。コンピューターとソフトウェアプログラムに大金を使うのではなく、新しいグリッドにアクセスし始めている。こうした変化は、企業のIT部門の性格を変えるだけでなく、コンピューター業界全体を大きく変革させることになるだろう。
マイクロソフト、デル、オラクル、IBMその他の巨大な技術系企業は、同じシステムを何千もの企業に売ることで、莫大な利益を上げてきた。コンピューティングがより統合化されるにつれて、そうした売上は減少していくだろう。企業がハードウェアやソフトウェアに費やす金が年間1兆ドルを超えていることを考えれば、その波及効果は世界経済全体に及ぶだろう。
しかし、これは単なるビジネス上の現象ではない。最も高度なユーティリティコンピューティングは多くの場合、企業ではなく、ごく一般の人びと----そう、私やあなたのような----をターゲットとしているのだ。一番よい例が、グーグル検索エンジンだろう。
このグーグルについて考えてみよう。グーグルこそ、まさに巨大な情報ユーティリティだからだ。インターネットを検索する人は、それぞれのウェブブラウザを介して、グーグルが世界各地に極秘裏の建設した巨大なデータセンターに接続する。
キーワードを入力すると、何十万ものコンピュータを結んだグーグルのネットワークは、何億ものウェブページのデータベースをソートして、キーワードと最も合致する数千のデータを引き出し、それらを関連順に並べて、通常は一秒とかからないうちに、その結果をインターネットを介して利用者のコンピュータ画面に返送する。
この驚くべきコンピューティングの離れわざは、個人のパソコン内部で起きているのではなく、グーグルが一日に何億回も繰り返して行っている作業だ。というより、個人のパソコンでは処理できなかったのだ。それは、何百キロも離れた、国の最果てどころか地球の裏側で行われている。
あなたの直近のグーグル検索を処理したチップは、どこにあるのだろうか。そんなことはわからないし、気にする必要もない。机を照らす電球の電力がどこの発電所で作られたかを知る必要がないのと同じことだ。