12月13日は“事始め”、
老舗旅館俵屋では餅をつき、
桃色と白の餅花を、50本の
柳につける。
これを従業員全員で行う。
無病息災を願いながら、一見
古めかしい心の結晶が、やがて
氷の結晶という幻想的な花傘と
して開花する・・・・・
やがて玄関に餅花が飾られる。
私は、紅白の餅を飾るのはいか
にも京都らしい習慣だと思った
が、京都にはもともとこんな習
慣はなかったそうだ。
商社勤務の頃、染め依頼で長年
京都に通っていたが、俵屋オリ
ジナルの発想だそうだ。
約三十年前、東北地方で一月
十五日に行われる、農耕の栄を
祝う花正月という風習からヒン
トを得て発案し、それを「俵屋」
の正月に取り入れた。
独自のアイデアだったのだ。
いまや、京都の料亭の初春を
飾るしつらいとして定着してい
る観のある餅花は、それまでの
京都には影もかたちもなかった
といいうのである。
つまり、「俵屋」が京都における
餅花飾りの元祖というわけだ。
おそらく、餅花飾りにごく自然
に京の正月らしい雰囲気を感じ
るのは、私だけではあるまい。
その当たり前と感じるほどに
普及している“京の美”が、
実は「俵屋」さんの独創性に
よる産物だ。
伝統と新しさを柔軟に取り入
れる魅力を京都に感じた。