春一番の思いよ届け
青空はあなたに続く
色の段階
なぜ今まで気づかずに
いたのだろう。
なぜ時間は過ぎ去って
いくものだということ
を速くキャッチしなか
ったのか。
夏が永遠に続きそうに
感じるのに似て、若い
ということに甘えきっ
ていたのだ。
ありのままの自分で
いられる時間と場所が
いつまでも目の前に
あると錯覚していたの
だ。
中学一年の夏。カナズチ
の私は次の日の遠泳に死
ぬと思った。
レコードはお墓に埋めて
くれとか、実は本棚の裏
にお年玉が隠してあると
か、そんなことを書いた。
その日めちゃくちゃに晴れ
ていた。すっかり死ぬ気
だから食欲のない私に、
母は朝食に出した赤い
タコの形をしたウイン
ナーを無理やり食べさせた。
過ぎ去っていく時間に
人が哀惜(あいせき)の
想いを抱くように、
私は去ろうとしているこ
の場所、人々のことを
思うとたまらなく淋しい。
すべてを体と心に刻み
つけたいのに、今この
瞬間のすみずみの美しさ
にとても追いつかない。
あと一年しかないと思って
何もしない人は、5年あって
も10年あっても何もしない
と思います。
『僕の生きる道』ドラマより
余命一年と宣告された教師・
中村秀雄が生徒に語る言葉
より。
ここに一冊の本があるが、
今度読もうと思いつも随分
と年月が経ってしまった。
しかし本当のところは、
読めなかったのではなく、
読もうとしなかった結果
だと語る。
このことに気がつかない
限り、この本を読むことは
ないのだ。
そしてこれはあらゆる事柄
にあてはまる。
人は時間があとわずかしか
ないと嘆き続け、結果的に
何もしないということが
どれだけ多いことか。