「岡崎正義のかわら版」

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時代小説「お幸と辰二郎」最終章・・・時代を超え、再会した二つの魂

2017年04月19日 13時09分18秒 | 小説・物語

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 時代小説「お幸と辰二郎」最終章・・・「時を超え」

「・・・ん・・・。」

 ご飯の支度途中に転んでしまい、頭を打ち意識を失ったお幸が、ゆっくりと目を開けました。
その目に最初に映ったものは、吸い込まれそうに綺麗な、澄み切った空でした。

 「フフ♪、本当に私はそそっかしいわね笑 こんな姿見られたら、辰さんどころか巳之吉にまで馬鹿にされるわ笑」

 お幸は寝っ転がったまんま、一人でクスクス笑っておりました。

 「いけない! 早く支度しなきゃ!!」

 お幸は急いで立ち上がると、その辺に転がった里芋を集めようとしてました。

 その時、土間に続く入口に、大変懐かしい姿を見つけたのです。

 「・・!!座長!!」

 「久方ぶりだね♪ あれから幸せに暮らしていたみたいだね♪」

 座長は、お幸を慈しむような眼差しで、満面の笑みをたたえておりました。

 お幸は、二度と会えないと思っていた座長と再会し、嬉しさのあまり泣きながら座長に抱きついておりました。

 「座長!泣 もう会えないかと思ってました・・・泣」

 「何言ってるんだい♪ 今こうして会えているじゃないか♪」

 「はい・・・泣 本当に嬉しいです♪泣 座長のお蔭で、私は本当に幸せな毎日を送れました・・泣」

 「うんうん♪ 分かっているよ♪ お前を見りゃ一目瞭然だ♪」

 「座長・・・!泣」

 お幸は、小さな女の子に戻ったように泣きじゃくり、座長に優しく抱擁されていました。

 「そうだ♪お幸♪ もう一つびっくりさせることがあるんだよ♪」

 座長は、お幸をゆっくりと自分の身体から離し、お幸の身体をくるりと裏庭の方へ向けてあげました。

 すると!そこにはありえない人の姿が・・・!

 ・・・・・!

 「お!お!おっかさん!!??」

 なんとそこには、辰二郎の母「お吉」が立っていたのです。

 「お幸ちゃん!!久しぶりだねぇ♪」

 お吉は生前と変わらない笑顔で、お幸に言葉を掛けたのです。

 「な・な・何!!? ど、ど、どうなってるの・・・?」

 お幸は、今目の前で起きている出来事が、にわかに信じられませんでした。

 「お幸♪ お前はよく頑張ったんだよ♪ 最後はそそっかしいところが出てしまったけどね・・・笑」

 座長は、まだ困惑しているお幸の肩を、後ろからやさしく両手で包み込みながら、言葉を掛けました。

 「お幸ちゃん、信じたくはないだろうけど・・、あそこを見てごらんよ」

 自分をじっと見つめているお幸に、お吉はそっと井戸の方へ指を差しながら、穏やかに話しかけました。

 促されるように目を移したお幸は、今にも目を開けそうなくらい、まるで眠っているような、透き通った肌をして横たわる自分の姿を見つけたのです。

 「わ、わ、わたし・・・、死んだの・・・?」

 自分の手を、顔を、身体を触り、生きている時と何ら変わらない感触を確かめるお幸に、二人はそっと近づき、寄り添っていました。


 「お幸♪ こうなってしまったら仕方がないんだよ・・・♪ 大事なのはね♪ 想いを残さない事だからね…♪」

 座長がそう言うと、お幸はハッとして聞き返しました。

 「じゃあ・・、もしかして座長も・・・」

 「ははは♪ とっくにお迎えは来たよ♪ だから今度は♪ 大事なお前をお吉さんと一緒に迎えに来たんだよ♪」

 「そうだよ!♪ 親代わりの二人が来なきゃ、誰が来るというんだい♪笑」

 昔と変わらぬ豪快な笑顔で、お吉がお幸に言葉を掛けました。


 その時です。表の入口から辰二郎と巳之吉が帰ってきました。

 「おーい! 今帰ぇったぞ!! 幸! 飯だ飯!!」

 相変わらずの大声で、辰二郎が足袋を脱ぎながら茶の間に上がってきました。

 「おーい!聞えねえのか!? 幸! いるのか~!?」

 辰二郎は返事をしないお幸にいぶかりながら、半纏を鴨居に掛けようと立ち上がり、ふと裏庭に目を移した瞬間でした・・・。
そこに変わり果てたお幸の姿を見つけたのです。

 「!!!! ゆ、ゆ、幸~!!!!!」

 茶の間から縁側沿いに飛ぶように裏庭に降り、幸の身体を揺すったのです。

 「な!な!なんで!! こんなことに・・・!!!!」

 お幸の身体は冷たく、血の気は失せ、もはやピクリとも動きませんでした。

 「幸~!! なんで・・・、なんで一人で行っちまうんだよ~!!! う、う、う・・・泣」

 辰二郎は全身を悔しさと悲しさで震わせながら、お幸をギュッと抱きしめていたのです。

 「辰二郎さん・・・泣、ごめんなさい・・・・泣」

 お幸は、自分の存在がもはや辰二郎からは見えなくなった事を忘れ、辰二郎の身体をそっと包み込んだのでした。

 「俺は・・、これからどう生きていくって言うんだ!! ちくしょう!!!!!」

 辰二郎の泣き声に気付いた巳之吉と、遊びから帰ってきた吉五郎が井戸に駆け寄り、変わり果てた姿になった母お幸の姿を見て、呆然と立ち尽くしておりました。

 「お、おっ母!!泣 おっ母!!泣」

 二人の息子は、まだ現実を受け入れきれませんでした。

 「ごめんなさい! ごめんなさい!! もっと側にいたかった・・・!泣」

 その光景を一部始終見ていたお幸は、申し訳なさそうに、三人に謝っておりました。

 「お幸ちゃん・・・、こればかりはしようがないんだよ・・・。宿命というものさ・・・」

 お吉は、辰二郎たちに必死に謝るお幸を慰めるように、後ろから抱きしめてくれました。

 「さあ、悲しいだろうけどさ・・・。上に行く準備をしょうかね・・♪」

 お吉はお幸を促すように立ち上がらせ、座長と共に、裏庭に降りてきた「白い光の筋」の中へお幸を導いたのです。

 すると、お幸の目の前に光の白い幕が拡がり、そこにお幸の一生が映し出されました。

 
 産まれた時。
 座長と出会った日。
 稽古に励んだ日々。
 そして、辰二郎と出会い、共に過ごした日々・・・。
 
 その幕の中に繰り広げられる「自分の人生物語」に、お幸の心はまるでもう一度体験したかのように、様々な想いが蘇ってきたのです。

 「・・・はぁ、こうして見ると、本当に私はいろんな人に助けてもらった・・・。幸せだった…♪」

 見終わったお幸は、心の底からしみじみそう感じておりました。

 「そうだよ♪ お幸ちゃんは頑張ったんだよ♪ ほら♪見てごらん♪ あのバカ息子が、ちゃんと大事な人が誰かを分かっているんだからね♪」

 息子の辰二郎が人間的な成長を遂げたのはお幸のお蔭と言わんばかりに、母としての眼差しを辰二郎に向けながら、お幸にそっと囁いておりました。

 「お幸♪ だから、あの三人の為にも憂いなく上に登るんだよ♪」

 座長もお幸に対し優しく語り掛けながら微笑んでおりました。

 「・・・分かりました♪ 上に行って、しばらく休んで、また再び巡り合えるように願います・・♪」

 お幸は決心したように上を見つめ、光が導くままに身体を任せ、お吉と座長と共にゆっくりと上がっていきました。


 「・・・いつか、必ず・・!辰二郎さんと、もう一度・・・、逢えますように・・・。」

 「いつか・・、必ず・・・」

 「いつか・・」

 「必ず・・・」

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・
 完。


 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 
 2017年3月、一人の女性が、生まれ故郷を離れ、大都会東京に上京してきました。

 慣れない都会に戸惑いつつ、新たな職場のドアを、彼女は今まさに開けようとしてました。

 「ふぅ、落ち着け~! 落ち着け~! ・・よし!! おはようございます!!♪」

 フロアにいた皆が一斉に彼女の方を見つめ、一瞬止まったかと思うと、また何事も無かったかのように、仕事を再開しました。

 「あちゃ~、メッチャ恥ずかしい・・・。気合い入れ過ぎた~・・・。」

 その女性は、顔を赤くしながら、玄関で縮こまっていました。

 「おぅ!おはよう! 今日からの新人さん♪?」

 そんな女性に、馴れ馴れしそうでいて、どこか憎めない態度で声を掛けてきた男性社員がおりました。

 「は、はい! よろしくお願い致します!!」

 女性は慌てて、その男性社員に深々とお辞儀をしたのです。

 「いやいや♪ そんなにかしこまらなくて良いの♪ 俺はアフターファイブ専門だから♪笑」

 その男性はケラケラ笑いながら、話しかけておりました。

 「こらー!! 森口! なに新入社員をからかっているんだ! ちゃんと仕事しろ!!」

 上司と思しき男性が、その「森口」らしき男性に怒鳴っておりました。

 「はいはい♪ 分かってますよ♪ あ、俺森口っす♪ 森口辰雄です! 皆から辰って呼ばれているから、よろしく!!」

 「あ、私、山畑です・・。山畑幸恵です!よろしくお願いします!!」

 「OK♪ 幸ちゃんね♪ 覚えとく笑 あ、美味しいもんじゃ食べに行く?」

 「こら~!森口!! 何度言ったら!!」

 「はいはい♪ 耳は聞こえてますよ! まだ若いんで!」

 「なんだと~!!」

 「幸ちゃん、また後でね♪」

 そう言うと、辰雄はフロアの人垣に溶け込んでいきました

 出社初日から賑やかなこの会社を、幸恵は不安は残りつつも、何となく気に入り始めました。

 「ふぅ、なんか・・、分からないけど、楽しく働けそうだな♪」

 幸恵は気を取り直し、人事部のドアを叩いておりました。

 数百年の時を超え、かつて寄り添った魂が、今再び巡り合った事には気付かずに・・・。

 魂がこの場所を選択したという事を・・・。

 巡り合うために東京に出てくることを決断した事に気付かずに・・・。 
 
 でも、きっといつか気付くであろう・・。

 
 それが「魂の選択」ならば・・・。

 だって、既に「再会」したのだから・・・。
 時代を超え・・・、二つの魂が・・・。 


 完。

コメント (2)
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4月18日(火)のつぶやき

2017年04月19日 03時15分43秒 | つぶやき(Twitter)
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