熊本県などで相次ぐ地震。いまだ10万人規模の被災者が住み慣れたわが家に帰れないでいる。夜ごと続く揺れを恐れ、駐車場などで車中泊をする人々も含めれば、避難者の実態は行政も把握しきれていない。予断の許さない状況が続くなか、多くの被災者に共通するのが風呂の問題だ。自衛隊が用意した仮設の露天風呂には長蛇の列ができ、全国的に有名な歓楽街で3万円以上かけて汗を流す人も。群発地震の恐怖が覆う被災地を歩いた。 (報道部・宇都木渉)
熊本市内からの約10キロの道を、支援物資を積んだ車や一般車両とともに数珠つなぎになること1時間。19日午後、14日に最大震度7を記録した「前震」の町、益城町(ましきまち)に車で入った。車線の両側にはペシャンコにつぶれた住宅が次々と姿を現した。
災害対策本部が置かれる町の保健福祉センターでは陸上自衛隊が「火の国の湯」と名付けた仮設の野外風呂を開設。15日から被災者に開放され、この日の夕方も心待ちにした人々が行列を作っていた。
10万人以上の被災者を悩ませる風呂問題。日本人の生活には欠かせないものだけに、多くの人が切実に望んでいるものの1つだ。ただ、被災者全員にこうした支援が行き渡っているわけではない。
熊本市内は19日現在、都市ガスが停止したままで、熊本市内で避難生活を送る50代の男性は「避難所生活以降、4日間お湯に入れてない。夏でなかったのがせめてもの救いだけど、早くガスが復旧してくれないと」と疲労の色がみえる。
同市内のタクシー運転手は「市の中心部から少し離れたところにスーパー銭湯が2カ所ある」と話し「さっきも駐車場をみたけど、えらく混んでましたね」と続けた。
それぞれ電話を入れてみたが、話し中でつながらない。問い合わせが殺到しているのだろう。
そんななか、人気のうせた繁華街の中でにぎわいを見せていたのが、ソープランドが連なる風俗街「中央街」だ。スポーツ選手や芸能人も訪れる会員制の高級ソープ店があることで全国的に知られる。
ある店の男性店員は「14日の前震のときも営業していましたよ。さすがに本震があった16日と翌日はお休みしましたけど、昨日と今日(18日~19日)は営業しています」と話す。都市ガスの影響を受けない給湯用のボイラーが設置されている店が多く、“早期復興”を実現させたという。
深刻なお湯不足の被災地では、風俗店本来のものとは別の需要が生まれ、「2日間で40人程度がいらっしゃいましたが、半分ほどは(女性と)遊ぶというより、お風呂に入りたいというお客さんでした」(店員)。
料金は60分で総額3万5000円。安い金額ではないが、それを補ってあまりあるのがお湯のありがたさか。街に目を転じると、中年男性が別の店から笑顔で出てくるところだった。