神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

仙境ハバの海      52

2014年08月24日 | 幻想譚
 天空に浮かぶ仙境ハバはますます大きさを増した。
 近づくにつれ、飛は玉ねぎを逆さにしたようにも見えると思った。
 一里手前になったのか、スクナビの神が手を挙げた。
 飛はゆっくりと七重雲を止めた。
 眼下の雲の橋を見ると、ここから勾配の緩やかな下りになっている。しかし、かなりのスピードで前方に流れている。
 ここからだとハバの正面を見ながら、およその全体像が把握できる。
 久地は単眼鏡を覗きながらつぶやいた。
 「これは話に聞くおとぎの国としか言いようがないな~」
 「神と人とが住む吾れらが国とは違う。神や人の形をしているが、それらは全て魂だ。善とか悪とか、美とか醜とが物や人の姿を借りてそこに宿ると、我々の目に映り、見えるのだ」
 クエビの神が久地の疑問に応えた。
 眼下の正面には白い砂浜とエメラルドグリーンの海らしきものが見える。だが波は無い。水は浜と平行に、右方向に流れている。左回りなのか? 
 浜の先に木々の林が見え、その奥に村か街があるのか? その中を道らしきものがぬっている。そこを抜けると平原でその先に山が迫っている。ここから見ても高い山だ。まるで裏側を隠す屏風のようだ。箱庭? そんな言葉を思い出させる。
 
 「何かが違う、何なんだろう?」久地の口から独り言が漏れた。
 「先生、やたら目がチカチカしますね」飛がしきりに目をこすっている。
 「ときどき二重にも見えるね」 

 その時、飛の端末から、勢いよく於爾の声が聞こえた。
 -たしか爾田の族長はヲチコチハナスウツハと言ってたな、於爾や都賀里たちも上手に使えるようになったものだ。龍二君が持ってきた機器はうまい具合に雲に馴染んでる。これも辰

のおかげか・・-
 「飛の猛、そちらの七重雲が近くなりました。真下より少し手前で停戦します」
 「了解した。そこで後続の船を待ってくれ。船が揃ったら、次の指示がスクナビの神からでる」
 「わかりました、お待ちしてます」

 前方を注視していたスクナビの神が飛びを招きよせた。
 「飛の猛、下を見よ。雲は下に向かって滑り降りてる。ここから船が滑り降りる。そこで、船を雲の橋の中央から左寄りに進めて降りる。それから海への着水寸前に面舵をとる。海流

が左回りに回ってるので、流れにうまく乗るためだ」
 「わかりました。スクナビの神、船長たちに伝えます」
 「それから注意してもらうことがもう一つある。海には、五色の亀がいる。ワダツミの神の使いだからぶつけないように」
 「了解です。それも伝えます」 
 
 やがて和邇の船が到着した。
 次々と船が七重雲の下に集まった。
 飛が、ゆっくりと七重雲を船の真上まで降ろし、どの船にも伝わるように拡声器を使った。
 「各船の長たち、ここから橋の雲が下に流れています。ここで海に下り降ります。船を橋の中央から左寄りで進めてください。海への着水寸前に面舵で斜めに着水します。海流が左回りに回ってるので、うまく流れに乗ってください。また、海には五色の亀がいるそうです。ぶつけないでください。では、よろしくお願いします」
 下を見ると各船の長が鉢巻を振って合図を送ってくれていた。
 「よし、吾れらは下の海で待とう」スクナビの神が飛を見てうなずいた。
 「龍二に連絡。俺たちは海の方で待つ。耶須良柄の船を見届けてから来てくれ」
 「こちら龍二、了解した。それにしても興味深い所だなぁ。本宮先生はすでにソワソワ・ワクワクしてる!」
 七重雲は、いったん上昇してから海に向かって下降していった。

 近づくと海はエメラルドグリーンの宝石のようだ。水は透明で、海中の視界はかなりききそうだ。砂浜は雪のように白く、光を反射してキラキラと輝いていた。
 海岸線は円周を描いているのだろう、左右の先が見えない。海岸の木立ちは新緑だ。まさに目に青葉だ。今は何月? クエビの神は、常春の国と言っていたが・・。
 それにしても明るい所だ、明るすぎて目が痛い。これがチカチカの原因なのか? 眼底検査の時に瞳孔を広げる目薬を点された時のような眩しさだ。

 海人衆の船が勢いよく海に着水した。海人の猛がこちらを見上げて、また鉢巻を振っている。上手く着水したという合図だ。
 ーあれ!猛の顔が変だぞ?ー 着水を見ていた飛はそう思った。 

 「飛、もう少し雲を上にあげてくれ、もっと周辺を見たい。スクナビの神、津の浜はどこですか?」久地は眩しさをこらえながスクナビの神に訊ねた。
 雲は、スーッとエレベーターのように垂直に上昇した。
 「久地の尊、この流れに沿って一里ほど行ったところに上陸地点がありる。そこへ集結する。それから、吾れらと尊たち一行でウマシ国に上陸し、仙都アカルタヘの居城に住む女王テルタヘに謁見する。アダシ国の仙都アラタヘへの通行の許可をもらう」
 「わかりました。それでは海衆たちの船を津の浜に先導しましょう」
 その時、飛が海人衆の船から小箱を引き上げていた。

つづく


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確かにコマだ!     51

2014年08月17日 | 幻想譚
 風の流れに任せているとはいえ雲の中は五里霧中状態、流れの速さも半端ではなかったはずだ。眼下の船の甲板で背伸びしている海衆を見てるとそれが分かる。
 「飛、前方に何か見えたらすぐに教えてくれ」久地はそう云ってクエビの神が広げた革地図をスクナビの神と共に覗き込んだ。
 「久地の尊、眼下に見える天橋立の行きつく先に天空に浮かぶ仙境ハバが見えてくる、それがこれだ。そこからはスクナビの神の指示に従う」地図を指さしてクエビの神が言った。
 「見えたらそこで一旦減速する。ハバまでの距離はおよそ一ヒロだ。それからその速度で端まで進んで、仙境ハバの海に進水する。天橋立は陽が高く上ると消えてしまうのでそれまでに向こうの海に船を渡しておかなければならない」スクナビの神が久地に言った。
 「分かった、連絡しよう。飛、このことを本宮と於爾に伝え、船長たちに連絡させてくれ」
 飛はまず操舵室のモニターに龍二を呼び出して、スクナビの神の話を伝えた。それから、あらかじめ於爾に持たせたモチハコブコトヅテノウツハに同じ事を連絡した。
  七重雲は心持ちスピードを上げた。海人の船が七重雲を追って前に出た。
 天空の青さの中に一本の真っ白い雲の筋が果てしなく続いている。青はどこまでも青く透き通って、白はどこまでも白くときおりキラッと輝いた。

 「はるか前方に何か見えます」
 飛びが叫んだ。
 目を凝らすと前方にコマのようなものが現れた。
 「飛の猛、伝えよ」スクナビの神が叫んだ。
 飛は再び龍二と於爾を呼び出して減速の指示を出した。
 久地は飛から渡された単眼鏡を覗いた。
 -なんという奇妙な形をしているのか? しかし、まさしくコマだ!-
 正面、やや上から見ているが、まさしく丸い円盤の上に陸地が乗っている。円盤の下は逆さ円錐形だ芯のところが根っ子のように下方にぶら下がってる。久地はクエビが指さした地図の押絵通りだと思った。
 
 「於爾の猛、そちらからも見えるか? 速度はこのままで、やがて仙境の海に進水する。船は滑り降りるが、前方に海を目視できるそうだから衝撃に備えさせよ」
 「飛の猛、今の距離は一ヒロを切った。一里手前から下り、海に進水する」再びスクナビから指示が出た。
 「わかりました。龍二、於爾、すでに一ヒロを切った。七里進むと下りになる。下る距離は一里だ。船達に伝えてくれ」
 「飛、仙境の海に入るのはウォーターシュートの感じか?」龍二の声が弾んでる。
 「そうらしい。龍二、お前からも船の長たちに説明してくれ。七重雲を一里手前で止めておく。そこが下りの目印だ」
 九重雲が高度を下げて船に向かうのが見えた。
 飛は七重雲のスピードを上げた。
  一ヒロは八里か。一里はどのくらいか? あの地図の見当からすると約2キロかな? 下りの勾配は?海が目視できると言ってたな~。
 久地はモニターに龍二を呼び出して、このことを伝えた。彼なら見当を付けてくれるだろう。
 
 龍二の返事は久地の思いと同じだった。また、下り勾配は高速道路の降り口と大体同じだろうという事だった。
 -よしこれで仙境に入れるだろう。果たしてどんなところか?ー 
 コマがどんどん近づいてくる。陸地の上のものが見え始めた。 

 つづく
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