天空に浮かぶ仙境ハバはますます大きさを増した。
近づくにつれ、飛は玉ねぎを逆さにしたようにも見えると思った。
一里手前になったのか、スクナビの神が手を挙げた。
飛はゆっくりと七重雲を止めた。
眼下の雲の橋を見ると、ここから勾配の緩やかな下りになっている。しかし、かなりのスピードで前方に流れている。
ここからだとハバの正面を見ながら、およその全体像が把握できる。
久地は単眼鏡を覗きながらつぶやいた。
「これは話に聞くおとぎの国としか言いようがないな~」
「神と人とが住む吾れらが国とは違う。神や人の形をしているが、それらは全て魂だ。善とか悪とか、美とか醜とが物や人の姿を借りてそこに宿ると、我々の目に映り、見えるのだ」
クエビの神が久地の疑問に応えた。
眼下の正面には白い砂浜とエメラルドグリーンの海らしきものが見える。だが波は無い。水は浜と平行に、右方向に流れている。左回りなのか?
浜の先に木々の林が見え、その奥に村か街があるのか? その中を道らしきものがぬっている。そこを抜けると平原でその先に山が迫っている。ここから見ても高い山だ。まるで裏側を隠す屏風のようだ。箱庭? そんな言葉を思い出させる。
「何かが違う、何なんだろう?」久地の口から独り言が漏れた。
「先生、やたら目がチカチカしますね」飛がしきりに目をこすっている。
「ときどき二重にも見えるね」
その時、飛の端末から、勢いよく於爾の声が聞こえた。
-たしか爾田の族長はヲチコチハナスウツハと言ってたな、於爾や都賀里たちも上手に使えるようになったものだ。龍二君が持ってきた機器はうまい具合に雲に馴染んでる。これも辰
のおかげか・・-
「飛の猛、そちらの七重雲が近くなりました。真下より少し手前で停戦します」
「了解した。そこで後続の船を待ってくれ。船が揃ったら、次の指示がスクナビの神からでる」
「わかりました、お待ちしてます」
前方を注視していたスクナビの神が飛びを招きよせた。
「飛の猛、下を見よ。雲は下に向かって滑り降りてる。ここから船が滑り降りる。そこで、船を雲の橋の中央から左寄りに進めて降りる。それから海への着水寸前に面舵をとる。海流
が左回りに回ってるので、流れにうまく乗るためだ」
「わかりました。スクナビの神、船長たちに伝えます」
「それから注意してもらうことがもう一つある。海には、五色の亀がいる。ワダツミの神の使いだからぶつけないように」
「了解です。それも伝えます」
やがて和邇の船が到着した。
次々と船が七重雲の下に集まった。
飛が、ゆっくりと七重雲を船の真上まで降ろし、どの船にも伝わるように拡声器を使った。
「各船の長たち、ここから橋の雲が下に流れています。ここで海に下り降ります。船を橋の中央から左寄りで進めてください。海への着水寸前に面舵で斜めに着水します。海流が左回りに回ってるので、うまく流れに乗ってください。また、海には五色の亀がいるそうです。ぶつけないでください。では、よろしくお願いします」
下を見ると各船の長が鉢巻を振って合図を送ってくれていた。
「よし、吾れらは下の海で待とう」スクナビの神が飛を見てうなずいた。
「龍二に連絡。俺たちは海の方で待つ。耶須良柄の船を見届けてから来てくれ」
「こちら龍二、了解した。それにしても興味深い所だなぁ。本宮先生はすでにソワソワ・ワクワクしてる!」
七重雲は、いったん上昇してから海に向かって下降していった。
近づくと海はエメラルドグリーンの宝石のようだ。水は透明で、海中の視界はかなりききそうだ。砂浜は雪のように白く、光を反射してキラキラと輝いていた。
海岸線は円周を描いているのだろう、左右の先が見えない。海岸の木立ちは新緑だ。まさに目に青葉だ。今は何月? クエビの神は、常春の国と言っていたが・・。
それにしても明るい所だ、明るすぎて目が痛い。これがチカチカの原因なのか? 眼底検査の時に瞳孔を広げる目薬を点された時のような眩しさだ。
海人衆の船が勢いよく海に着水した。海人の猛がこちらを見上げて、また鉢巻を振っている。上手く着水したという合図だ。
ーあれ!猛の顔が変だぞ?ー 着水を見ていた飛はそう思った。
「飛、もう少し雲を上にあげてくれ、もっと周辺を見たい。スクナビの神、津の浜はどこですか?」久地は眩しさをこらえながスクナビの神に訊ねた。
雲は、スーッとエレベーターのように垂直に上昇した。
「久地の尊、この流れに沿って一里ほど行ったところに上陸地点がありる。そこへ集結する。それから、吾れらと尊たち一行でウマシ国に上陸し、仙都アカルタヘの居城に住む女王テルタヘに謁見する。アダシ国の仙都アラタヘへの通行の許可をもらう」
「わかりました。それでは海衆たちの船を津の浜に先導しましょう」
その時、飛が海人衆の船から小箱を引き上げていた。
つづく
http://www.hoshi-net.org/
近づくにつれ、飛は玉ねぎを逆さにしたようにも見えると思った。
一里手前になったのか、スクナビの神が手を挙げた。
飛はゆっくりと七重雲を止めた。
眼下の雲の橋を見ると、ここから勾配の緩やかな下りになっている。しかし、かなりのスピードで前方に流れている。
ここからだとハバの正面を見ながら、およその全体像が把握できる。
久地は単眼鏡を覗きながらつぶやいた。
「これは話に聞くおとぎの国としか言いようがないな~」
「神と人とが住む吾れらが国とは違う。神や人の形をしているが、それらは全て魂だ。善とか悪とか、美とか醜とが物や人の姿を借りてそこに宿ると、我々の目に映り、見えるのだ」
クエビの神が久地の疑問に応えた。
眼下の正面には白い砂浜とエメラルドグリーンの海らしきものが見える。だが波は無い。水は浜と平行に、右方向に流れている。左回りなのか?
浜の先に木々の林が見え、その奥に村か街があるのか? その中を道らしきものがぬっている。そこを抜けると平原でその先に山が迫っている。ここから見ても高い山だ。まるで裏側を隠す屏風のようだ。箱庭? そんな言葉を思い出させる。
「何かが違う、何なんだろう?」久地の口から独り言が漏れた。
「先生、やたら目がチカチカしますね」飛がしきりに目をこすっている。
「ときどき二重にも見えるね」
その時、飛の端末から、勢いよく於爾の声が聞こえた。
-たしか爾田の族長はヲチコチハナスウツハと言ってたな、於爾や都賀里たちも上手に使えるようになったものだ。龍二君が持ってきた機器はうまい具合に雲に馴染んでる。これも辰
のおかげか・・-
「飛の猛、そちらの七重雲が近くなりました。真下より少し手前で停戦します」
「了解した。そこで後続の船を待ってくれ。船が揃ったら、次の指示がスクナビの神からでる」
「わかりました、お待ちしてます」
前方を注視していたスクナビの神が飛びを招きよせた。
「飛の猛、下を見よ。雲は下に向かって滑り降りてる。ここから船が滑り降りる。そこで、船を雲の橋の中央から左寄りに進めて降りる。それから海への着水寸前に面舵をとる。海流
が左回りに回ってるので、流れにうまく乗るためだ」
「わかりました。スクナビの神、船長たちに伝えます」
「それから注意してもらうことがもう一つある。海には、五色の亀がいる。ワダツミの神の使いだからぶつけないように」
「了解です。それも伝えます」
やがて和邇の船が到着した。
次々と船が七重雲の下に集まった。
飛が、ゆっくりと七重雲を船の真上まで降ろし、どの船にも伝わるように拡声器を使った。
「各船の長たち、ここから橋の雲が下に流れています。ここで海に下り降ります。船を橋の中央から左寄りで進めてください。海への着水寸前に面舵で斜めに着水します。海流が左回りに回ってるので、うまく流れに乗ってください。また、海には五色の亀がいるそうです。ぶつけないでください。では、よろしくお願いします」
下を見ると各船の長が鉢巻を振って合図を送ってくれていた。
「よし、吾れらは下の海で待とう」スクナビの神が飛を見てうなずいた。
「龍二に連絡。俺たちは海の方で待つ。耶須良柄の船を見届けてから来てくれ」
「こちら龍二、了解した。それにしても興味深い所だなぁ。本宮先生はすでにソワソワ・ワクワクしてる!」
七重雲は、いったん上昇してから海に向かって下降していった。
近づくと海はエメラルドグリーンの宝石のようだ。水は透明で、海中の視界はかなりききそうだ。砂浜は雪のように白く、光を反射してキラキラと輝いていた。
海岸線は円周を描いているのだろう、左右の先が見えない。海岸の木立ちは新緑だ。まさに目に青葉だ。今は何月? クエビの神は、常春の国と言っていたが・・。
それにしても明るい所だ、明るすぎて目が痛い。これがチカチカの原因なのか? 眼底検査の時に瞳孔を広げる目薬を点された時のような眩しさだ。
海人衆の船が勢いよく海に着水した。海人の猛がこちらを見上げて、また鉢巻を振っている。上手く着水したという合図だ。
ーあれ!猛の顔が変だぞ?ー 着水を見ていた飛はそう思った。
「飛、もう少し雲を上にあげてくれ、もっと周辺を見たい。スクナビの神、津の浜はどこですか?」久地は眩しさをこらえながスクナビの神に訊ねた。
雲は、スーッとエレベーターのように垂直に上昇した。
「久地の尊、この流れに沿って一里ほど行ったところに上陸地点がありる。そこへ集結する。それから、吾れらと尊たち一行でウマシ国に上陸し、仙都アカルタヘの居城に住む女王テルタヘに謁見する。アダシ国の仙都アラタヘへの通行の許可をもらう」
「わかりました。それでは海衆たちの船を津の浜に先導しましょう」
その時、飛が海人衆の船から小箱を引き上げていた。
つづく
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