神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

コヒトの国      62

2016年02月28日 | 幻想譚
 崖下左面のイトフ隊は、イトフとナルトの戦闘車を先頭にして、美美長がしんがりに付けた遊軍の美美長族の小隊と共に戦っているものの、防戦一方を強いられていた。駆け付けた耶須良衣と都賀里の戦闘車が、外側からコヒトを挟み撃ちにして攻撃したが、イトフ隊は戦闘になれていないので攻撃に無駄が多く彼らに押され気味であった。アカタリと於爾加美毘売も駈けつけ徐々に押し返しているところへ天駈けの5頭が舞い降りてきた。久地たちが雷の剣で稲妻を発射すればよいのだが、イトフ隊にも当たる危険がある。そこで打ちと両方を使い分けた。
 ようやく五分に戻したところでコヒトの撤退が始まった。すかさず美美長族の小隊と、その後をアカタリと於爾加美毘売が追跡し、しんがりの一団の中の者を何人か捕縛した。
 「逃げる者を深追いするな!先がまだ分からんぞ」
 押し返して勢いづいたイトフ隊が更に追いかけようとするのを久地が制した。
 やがて右面方向からタニグを先頭に本宮たちもやって来た。
 久地がトカゲを落とした威力が効いているのか、それともコヒトの策略か。久地は何となく策略に富んだ面構えから後者を選んでいた。
 それにしても、あのオオトカゲを操るコヒト達はいったい何者か?この異郷ハバの一部族なのか?

 ウマシ国の仙都アカルタエを出て緑の樹海を縦断、水路を横断して上陸してアダシ国へ一歩を踏み出した。更に不毛の平原を進み目指す霧魔山が眼前に迫るところまでたどり着いた。 そこから山岳地帯へ入るところでコヒトに遭遇したのだ。ここを越えなければ霧魔山にある仙都アラタエにはたどり着けまい。
 「妖精の住むウマシ国から妖怪の住むアダシ国への遠征でまず異形の小人族に遭遇したわけだ。はたして彼らは?」
 本宮がイトフの方に向き直って尋ねた。
 「カムサビの伝えの中にもありませんか?」 
 さすがに物知りのクエビも想定外だったのだろう、何か情報がないか思案顔になっている。
 「とにかく前に進むしかない。誰もが知らない地だ、出会ったことを一つ一つ解釈しながら進もう」  
 久地はそう言って先導のクエビの神を促した。
 進むに際して左右に別れてゆくことをスクナビが提案した。リスク回避と左右の側道の偵察を兼ねた。
 正面左の側道から都賀里と於爾が進んだ。その後をスクナビとイトフ隊、於爾加美毘売と補足したコヒトたちを乗せた車両をアカタリが誘導し、しんがりを美美長と耶須良衣に頼んで先発させた。
 クエビの神は右の側道へと向かった。久地と本宮が飛と龍二を伴って伴走した。その後ろを海人と和邇の小隊が続いた。

 久地たちが進む右の側道の両側は切り立った岩壁で、その高さは数十メートルはあるだろうか、片方の壁が覆いかぶさり上が見えない。
 すぐ上り坂になった。入り口付近は三列で進めるが、やがて平坦になる中心部は二列になってしまう。しかし、隊は支障なく進める幅で、赤足りの車両はギリギリ大丈夫だった。
 後で聞いた話であるが、スクナビが先導した左の側道もおおむね同じようだったそうだ。ただ岩壁は垂直に切り立っており道もほぼ直線だったので、上部から狙い定めて岩石を落とされる危険もあったが、こちらの側には補足したコヒトたちを乗せた車両を見せるように伴っていたので、上からの石落としは免れたのかもしれない。
 久地たちは、山一つぐらいの距離を進むと前方が明るくなった。明るいと言っても陽射しがあるわけではない。灰色が薄まっただけで、前方が開けたということだ。そこは広い高台で眼下を見下ろせる踊り場のような場所だった。左右の側に斜め下に降りていく道が付いていた。ただそこから見る眼下の景色はやはり異景だ、草木がない。岩また岩。岩盤の国だ。岩盤の所々が窪んでいる。左右にそそり立つ岩盤の中央の窪みは幅広く広場のようだが、この台の真下で曲がってから真っ直ぐ前方に続いている。道か? いや、それは水が亡くなった川の跡のようにみえる。にたしき地とは到底言えない景観の所だ。
 久地たちが眼下を見渡していると、驚いたことに岩盤から水がしみ出してくるようにコヒトの群衆が出てきたのだ。溢れ出て来たと言った方がいいだろう。更に、目を凝らして広場の左右にそそり立つ岩盤は、よく見ると建造物のようだ。岩盤をくり貫いて作られている巨大な建物になっているではないか。そこからいわゆる小人の群衆が広場に溢れ出てきたのだった。
 その時、左手の切通からスクナビとイトフの一行が姿を見せた。
 それを待って久地がスクナビの神とイトフに歩み寄って「スクナビの神イトフ殿、ここをご存知か?
 「いやー、コヒトはもちろんの事このような所があるとは考えてもみなかった」 イトフはそのまま絶句していた。
 スクナビの神もただ首を振るばかりだった。
 「この高台からなら下方の小人達には吾れらが見える。ここで、補足した者たちを前に立たせて反応を見よう」
 
 於爾加美毘売がアカタリの車両から補足した者を降ろし前へ連れてきた。
 一瞬、小人たちのざわめきが起こった。
 久地は、補足した数人の中に衛士頭らしき者がいると於爾加美から聞いていたので、その者を前に連れてきてもらい、礼を尽くしてから話しかけた。
 「汝は名を何と申されるか?」
 「・・・」
 「吾れらはアダシ国へ、吾れらの国人を救出に向かう者。アラタエの都に行く道なら通して頂きたい。この地を通らずに行けるのならその道をお教え願いたい。もとより吾れらは汝たちと争う意図は持ってはおらん。しかし、汝たちが闘いを望まれるなら受けて立つ。如何か」
 小人草の衛士頭らしき者は上目遣いにチロリと久地を見た。相変わらずふてくされたようなずる賢い顔つきだ。
 傍らのイトフが黙ってゆっくりと剣を抜いた。
 台近くに集まって来ていた群衆が一瞬静まり返った。
 スクナビの神が「イトフ殿、久地殿が問うた事を下に集まった小人草たちにも語り掛けてくださらんか」

 「吾れらは、ワルサ国の仙都へ国人を救出に向かう者である。ウマシ国の仙都アカルタヘから来た・・」
 イトフの声は大きくよく通り、威厳がある。イトフは久地が衛士頭に問うた内容を群衆に向かって語り掛けた。ひととおり話し終えると群衆のざわめきがあちこちから起こった。しかもそのざわめきは一行を非難するようなものとは思えなかった。そこでイトフは剣を腰の鞘に戻しながら話をさらに進めた。
 「ここにおわす神たちは遠き下都国の尊たちである。吾れはウマシ国は仙都アカルタヘより参った建部の頭イトフと申す。神たちに従ってここまで来た」
 イトフが話し終わった時、広場左手の塔のある建物の前の群衆が左右に大きく割れた。大きな岩の陰から一団のコヒトが現れこちらに向かってくる。近くの大きな岩のデッキにも群衆の一部がおり、現れた十数人の一団に手を振ったり、両手をあげたりしている。
 現れたその一団は中央の大きな窪みの道の中央に出てきた。

 つづく 
 


 
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