神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

アカルベの宮へ   57

2015年05月03日 | 幻想譚
 目が覚めた者たちが周りに集まって来て、ウマシ国には夜が無くなったというイトフの話に耳を傾けた。
 「初めて聞く話だ」海人猛をはじめ和邇猛、都賀里、於爾猛、於爾加美毘売がそれぞれ顔を見合わせている。左母里にも美美長族にもそれに似た伝えはないらしい。
 「先代王は昼はテルタヘ姫が、夜を弟のツキユミ王が治めるように言い残したわけか。それがワルサには気に入らなかったんだ。それをきっかけにアダシ国を造り、更にウマシ国を征服して仙郷ハバの略奪を考えたわけか」
「そのための武器の調達・・、下都国のツヌギリの太刀を見て、くろがねの存在を知った」クエビ神がそう言ってスクナビ神とタニグの神を見た。
 「神たちの国だけでなく、大元神の祝さんたちが探している民の事も分かるかも知れない。俺はそう期待してる」飛がそれを忘れてはいないという思いを込めて言い放った。

 「なるほど、そういえば昼間しかなかったな。しかも遮光器がなければまぶしくていられなかった」
 「ここへ来てからは驚くことばかりだったので眠気に襲われるまで、夜の訪れに関心がなかった」
 「夜の訪れはないのか~・・? 白夜という事ですかね、先生?」龍二が本宮に問いかけた。
 「白夜そのものと同じかどうか私にもわからんが、この地に来てからというもの、今の所は同じ明るさのようだ」
 その時、入り口の扉が開いてアカタリがドカドカと入って来た。
 「使いの者が戻りました」とイトフに告げた。
 「それでは後は宮殿へ行って直にご覧頂きましょう。お許しが出たようです。皆さんお支度を! 目を保護する遮光器をお忘れなきよう」
 「都賀里、於爾、皆に服装を正すように言ってくれ。いよいよ宮殿へ行く。前の庭に集まれ」久地が声をかけた。
 「承知!」

 一行は部屋を出て、官舎の庭へ集合した。
 そこへ麒麟に騎乗したイトフが一団を従えて現れた。
  「久地の尊、これより宮殿へ出発いたしますが、アカタリは津に帰りますので、津に残られておるご一行に指示をお伝えください。アカタリ、指示を承り伝達し、また移動の手配、連絡法を伝えてください」
 「かしこまりました、イトフ殿」
 「アカタリ殿、よろしくお願いします。海人猛と和邇猛、都賀里と於爾猛、耶須良衣と美美長比古それぞれアカタリ殿に指示を託してください。特に集合する停泊地は距離、時間、場所を把握しておいてください」
 「承知!」


 「建部のナルト、前へ。皆さんこの者は吾れの配下のナルトと申します。建部の一隊の長で、神たちを御案内する隊の長を務めさせます」
 一頭の麒麟が前に進み出て来て一人の青年が下乗し、一行に向かって丁寧にお辞儀をした。
 ーここの人達は皆礼儀正しい。お辞儀ひとつとっても三種類を使い分けるー久地は心の中でそう思っていた。
 
 「では、ナルト先導せよ」
 「心得ました。これより宮殿へ出発いたします」と、ナルトが麒麟を前に進めた。
 「神たちを中にして隊列を作る。乗車!」
 各自が来た時の麒麟車に分乗した。
 ナルトが高々と緑色の旗を掲げた。ここへ来るときの白旗から今度は緑色の旗になった。
 ナルトの後ろの都賀里と於爾が乗った麒麟車の御者が細長い鞭のようなものをくるくると回し、その風切音で合図を送ると、隊列は滑るようにいっせいに走り出した。

 隊列は官舎を出て右に折れ、宮殿のある丘に向かって真っ直ぐに進んだ。大路の人通りは少なくなっていた。しかも、皆坂を下ってくる。人々は隊列が掲げる緑の旗に気づくと、皆立止して隊列に一礼して再び小走りに下っていく。服装や持ち物から、なんとなくこの人たちは官吏のような気がした。役所が引ける時間なのだろうか。そういえば官舎から外に出て思ったのだったか、辺りは少しライトダウンしてたような気がしたが・・。
 丘のふもとに来るとそこからは道がつづら折りになっていた。急な勾配の登りだ。
 その道を進み、ひとつターンすると反対側に建物の大屋根の端らしきもの見えてきた。またひとつターンすると高さが上がり、反対側に建物の大屋根の端らしきものが見えてくる。幾度となくターンを繰り返してかなり上まで来たとき、その大屋根は城壁の屋根であることがわかった。
 仙都アカルタエへ続く道の丘で眺めたときは霞がかかっていてよく見えなかったが、あの時の円形状の建物は城壁とその上に乗っている瑞垣のでかいやつだったんだ。真下まで来ると、その屋根は裾が若干上に反り上がっているのがわかった。
 「アカルタエへ続く道の丘で遠望したときは確かに霞んでいたようだったが、その中心にある建物は上に向かって開いているような感じだったが・・。私にはそう思えた」クエビの神が言った。
 「さすがクエビの神、遠目も利くな~。そのとおりだ、花が咲いたように上に向かって開く。そのとき、周辺は輝きでその有様は見えない。まるで光のもやがかかったようなんだ。だ
から遠目には霞がかかったように見える」スクナビの神がかって自分が見た様を説明してくれた。
 「それが明るさの元、光源らしいように私には思えるが、物知りのクエビもその仕組みを観察するのが楽しみだろう」タニグの神も手をかざして見上げている。
 つずら折の坂を登りきり、城門の前に出た。さしずめ大手門というところか。確かに今までにはなかった立派な造りの城門であった。これが後の世の和の原型になったのであろうが、歴史的にはずーっと後のことだと本宮は感じ取っていた。
  
 門を守る番守が杖を横にして高く掲げて止まれをしている。
 「イトフ殿と神たち御一行である」とナルトがよく通る声で呼びかけた。
 城門が少し開いて、そこから番匠だろうか、待ちかねていたかのように前に進み出てきた。
 「宮迫の長がお出迎えいたします。お待ちしておりました。直接にアカルベの塔へご案内せよと仰せです」と言って、宮迫の長は一向に向かって深々とお辞儀をした。
 宮迫の長がナルトから緑の旗を受け取り大きく振ると、城門はさらに大きく開いた。

 城門をくぐったとき、「オ~、なんという美しさなの~!」身を乗り出していた於爾加美毘売が感嘆の声を上げた。目の前に絶景が広がった。光り輝く草木の花が咲き誇って、美しい幾何学模様を描いていた。一向は息を呑む思いだった。
 「なぜ花なんだ。ここへ着てからというもの何処もかしこも花・花だ。なぜなんだろう?」海人猛が和邇猛にささやいている。
 「吾れらも驚かされるばかりだが今にきっと分かるさ」都賀里と於爾猛が振り向いて言った。
 右手の巨大な石垣を迂回して進むと、女王テルタヘの居城アカルベが忽然と姿を現した。
 宮殿の上部はドームになっている様だったが、眩しくて遮光器をつけていても直視できない。きっとまだドームは上に向かって開いているのだろう。いったい光源は何なんだ。
 城壁の中へと通じる次の中門の前へ来た。宮迫の長が緑の旗を城壁の上の番匠に向かって大きく振りかざした。
 内門が静かに開いていく。

 中から一人の男が出てきた。
 「下乗!」ナルトがこちらを見て叫んだ。
 一行はそこで麒麟から降りた。
 その男は更に前に進み、一向にお辞儀をした。
 「白髪部のミマロと申します。私が神々をお出迎えし、ご案内いたします」
 「ミマロ様がわざわざお出迎えとは・・」あわててイトフが歩み寄って腰を低くして恐縮している。

 城内の道は鍵の手に曲がりながら登っていく。
 「どこかの城を見学したときを思い出すな~」龍二がつぶやくと、「姫路城だったっけ?」飛が立ち止まりながら答える。
 「修学旅行か~、今からしばしそんな気分にさせてくれるといいんだがな~」本宮が笑いながら後ろから歩を詰める。
 「これからまた何が現れるかも知れん。宮殿では束の間のひと時と願いたいものだ・・」前を行く久地が歩を緩め後ろを振り返った。
 ここまで登ってくると、後ろの下方一帯は建物の模様と花々とが混じって全体が白っぽく見えた。
 そうこうしてる中にアカルベ宮殿の中心の部分が見えるところへ出た。
 そのとき、また少し明るさが落ちた。
  
 つづく
 
 
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