神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

仙都へ         54

2014年11月30日 | 幻想譚
 津守の長アカタリが白い装束に着替えて現れた。
「では、女王の宮殿に案内するが、まずは武部の長イトフのところへ参ろう。外へ出たら、先ほどの遮光器はしておいた方がよかろう。慣れるまではまだ時間がかかる。それから衛士達と4隻の船集は上陸の許可が出たら迎えをよこそう」
 「わかった。於爾猛、海人猛、衛士頭とそれぞれの船頭にその旨を伝えてくれ。それで出発する」
 久地が立ち上がって、皆を見回して言った。

 後で聞いたのだが、仙都アカルタヘでは宮殿に参内する時は白い装束がルールなのだそうだ。先ほどまではグレーの衣装であった。また、革のベルトのようなものから織物のベルトをたすき掛けにしていた。

 津を囲む森を抜けるまで一行は舟で運河を進んだ。かなり奥へと進んでから一気に視界が開けた。そこで舟を下りると一本の道が前方の丘に向かって伸びている。いたる所、花・花・花だ。草花や低い木花で埋め尽くされている。上から鳥瞰したときには一つ一つが見えなかったが、こうやってその中にいると、写真などと違って花はやけにリアルだ。道はまるで網代を敷き詰めたように見える舗装がしてあった。
 背が高い横長の建物が数棟見えてきたが、近づいて驚いた。建物が模様で装飾されているのだ。そういえば、津の建物は地味な縦じまであった。ここにある建物は人家ではないようだがめくら縞で見事に装飾されている。それ以外は、ただただ一帯は花・花・花だ。見渡す限り人の姿はない。
 「ピユゥ~」、アカタリが指を口に当て口笛を吹いた。建物の扉がゆっくりと左右に開いて、2~4人乗りの馬車が5台出てきた。
 馬が2頭ずつ・・、いやこれは驚いた。馬ではない。確かこれは麒麟といったな! 確かにそう呼ばれていた伝説上の生き物のはずだ。
 「早く乗ってくれ」アカタリが後ろから一行をうながした。
 馬車の扉を閉めると、御者が細長い鞭のようなものをくるくると回し、その風切音で合図を送ると滑るようにいっせいに走り出した。
  
 前方の丘を一気に駆け上がったところで麒麟車が止まった。
 眼下に広がる花の平原の遥か奥に、小高い丘を中心とした扇状に広がる都が見えた。その小高い丘の上には、ひときわ大きな多角形の建物があり、その建物を中心に半円を描きながら山裾に向かって都は広がってるようだ。ここから見ると、まるで円形劇場のようだ。
 アカタリが指さして言った。
 「真中の建物が宮殿だ。役所と官舎が宮殿を取り巻いており、その外側が仙衆の住まいだ。宮殿には神たる女王テルタヘと妖精がおられる」
 「あれが仙都アカルタヘか」久地がひょいと車を降りて手をかざし、前方を見据えて言った。
 「後方は樹海に覆われていて、さらに後方には壁のようにそそり立つ連山が見えますね。先生」飛が身を乗り出して指さしている。
 「中央には、山頂が霞のベールで被われているひときわ高い山がそびえています」龍二が応えた。
 「山の様相が吾れらがところとはまるで違う」都賀里の言葉に於爾がうなずいた。
 「何もかにもが違っている」本宮が今来た方を振り返りながらつぶやいた。
 「皆の衆、先を急ぐ乗ってくれ」アカタリが御者に合図を送った。
 麒麟が引く5台の車は隊列を造って丘を駆け下り、常盤木の並ぶ一本道を進んだ。

 城壁に近づくと、アカタリが腰に挟んでいた白い旗を大きく振った。
 城壁に人の姿が見えると、都に入る城門の扉がゆっくりと開くのが見えた。
 門をくぐり中に入ると景色は一変した。
 街路はモザイクとなり、建物という建物は色遣いの美しい模様で飾られていた。一層目が痛い。しかし、遮光器の隙間から見える景色は美しい。
 御者が細長い鞭をくるくると回すと、麒麟が駆け足から速足になりスピードを落とした。
 この大路の幅は広い、どの位だろうか。麒麟車でゆうに6車線はありそうだ。まっすぐに伸びて宮殿のある丘に向かっている。まさに都大路だ。
 城壁の外では縞模様が多かったが、都に入るといろいろな模様が見られる。特に四弁花模様が多いが住宅なのだろうか。模様によって何か区別がありそうだ。
 行き交う人の服装は男女の差はあまりなさそうに見える。男はズボンをはき、女はスカートといったところだ。女でもズボンというのも散見できた。上は皆、環頭衣だ。襟がついたものもあるが襟なしもある。皆、無地の生成りか灰色だ。脚には靴を履いている。髪型は長髪で、結い上げている者もいれば、鉢巻で止めている者もいる。男女とも似たり寄ったりだ。
 
 宮殿の外側が近くになった。

つづく

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