90年代・パチンコドラマ「グッドラック」
(日本テレビ、主演:松本明子)レビュー
第3話「駅前パチンコ戦争」
・放映日…1996年(平成8年)7月17日(水)
・放映時間…22:00~22:54
・スタッフ
脚本:寺田敏雄
演出:倉田貴也
チーフプロデューサー:小杉善信
プロデューサー:田中芳樹
演出補:羽住英一郎 プロデューサー補:土井かおり 製作補:藤本一彦
・音楽…BIG HORNS BEE(オープニングテーマ…「GOOD LUCK」)
・主題歌(エンディングテーマ)…氷室京介「SQUALL」
・挿入歌…鈴里真帆「もっと静かに」
・撮影協力…パチンコ「平和」(代々木駅東口) 「FRESCO」(新宿西口) (株)SANKYO
ほか
・番組提供(スポンサー)
大塚製薬、日産自動車、象印、黄桜酒造、花王、国内信販
・出演
松本明子(飛鳥鈴子) 佐野史郎(藤堂竜作) 豊原功補(高原俊輔)
原田龍二(高原祐二) 勝村政信(佐藤年男) 秋本祐希(飛鳥友利)
網浜直子(栗原妙子) 金田明夫(松岡恵一) 宮地雅子(木村緑)
伊藤俊人(長谷川義彦) 原田泰造(杉本真) 西田健(黒部辰吉)
真梨邑ケイ(吉川美沙子) ドン貫太郎(園田満吉) 山田明郷(村瀬和則)
徳井優(鬼頭清十郎) 高木孝子(川村芳江) 桑原貞雄(野崎邦夫)
吉村美紀(黒部栞) 槇ひろ子(老婆)
・あらすじ
「飛鳥球殿」の店員の大半を、駅前の新しいパチ屋に引き抜かれた鈴子。その「黒幕」の
俊輔に、「人情だけで人はついてこない。昔カタギの店など、客も従業員も離れていく」と、
言われる。さらに、偶然居合わせた竜作にも、「OLあがりの素人に、パチンコの経営は
無理だ」と、追い打ちを喰らう。
落ち込んだ鈴子が飛鳥球殿に戻ると、入口で一人の老婆(槇)が出てくる。常連の
八百屋(ドン)の話では、この老婆、玉を100円分だけ打つと、すぐ帰ってしまうらしい。
鈴子が店に入ると、見事に客付きゼロ。カウンターの妙子と緑は、閉店前でもないのに、
モップで床を掃除中。父が亡くなった上、ライバル店まで現れて、経営は火の車だった。
焦った鈴子は、表通りから見える台の釘を、全部アケるよう祐二に指示。素人同然の
鈴子でも、「客寄せ台」くらいは知っていた。祐二は、「最近はこんなセミナーもある」と、
オーナー向け「パチンコ経営セミナー」のチラシを、鈴子に見せる。
さっそく会場に出向く鈴子。だが、「特別ゲスト」として紹介されたのは、何と竜作だった。
かつて、凄腕のプロ「ブッコミの竜」で鳴らした彼は、オーナー連中も一目置く存在だった。
登壇した竜作は、「今どき、客寄せ台くらいで客を呼べると考える、マヌケな経営者は
いないと思いますが…」と、皮肉タップリに言う。バカにされ、逆上した鈴子が竜作に
反発すると、「俺は、飛鳥球殿の敵だ。オヤジさんの釘に惚れて、挑んだジグマだ」と、
冷たく鈴子を突き放す。
怒って会場を飛び出した鈴子だが、去り際、竜作に言われた「こんな所に来るより、
社会見学でもしろ」との言葉が気になる。社会見学…他のホールを観察しろという
意味だろう。そこで、鈴子はもう一度、駅前のライバル店に出向く。
派手な内装、ズラッと並んだ新台、最新の設備、華やかな制服に身を包み、テキパキと
働く若い店員達、バニーガールのコーヒーレディ、店内のおしゃれなカフェ…どうみても、
古臭い飛鳥球殿とは比較にならないほど、時代の最先端を行くホールであった。
空き台に座った鈴子は、小銭入れから100円を取り出して玉を買おうとするが、台間に
玉貸機は見当たらない。そこにあるのは、見慣れないCR機の「カードユニット」である。
混乱する鈴子の背後に立ち、スッとパッキーカードを差し込んだのが、俊輔であった。
「敵情視察ですか?」と、俊輔が余裕の笑みで玉貸ボタンを押すと、玉が上皿に
ジャラジャラ出てくる。直後、鈴子の台が大当りすると、店員達が背後にズラッと並び、
「おめでとうございます!」と頭を下げる。店員教育も完璧だ。ウチに、勝ち目はない…
鈴子は、心底そう思い知らされた。
(鈴子が当てたのは、奥村のCR権利モノ「CRサーカス3」⇒「モナコサーカス3」のCR版)
タップリ景品を持たされて、自宅に戻った鈴子。父の遺影を前に、「あの店、凄いよ。私も
そう思う…」と、素直に「敗北」を認めるしかなかった。
翌朝、鈴子は店隅のテーブルにポットを置き、「お茶、ご自由にどうぞ」と書いた紙を貼って、
お茶の無料サービスを始める。資金が少ない飛鳥球殿なりの、精一杯の対抗手段だった。
開店と同時に、いつもより少ない客が、パラパラと入店。すると、あの佐藤の賑やかな
マイクパフォーマンスが聴こえる。まだ雇ってもいないのに、すっかり店員気取り。だが、
彼の実況は実に淀みなく、祐二も「立て板に水」と絶賛。「私だって出来るわよ」と鈴子は
マイクを奪うが、完全にグダグダ。「洗濯板にマヨネーズ…」と、祐二に冷やかされる。
一方、シマでは、先日見かけた老婆が、相変わらず、一発づつ玉を打っている。それを見た
祐二は、「そんな打ち方じゃダメだ」と、老婆のハンドルを強引にヒネる。「何するの?」と
うろたえる老婆だが、100円分の玉はすぐ無くなり、老婆は肩を落として店を出る。
「変則打ち」をする不審な老婆を、祐二は「ジグマ(プロ)」ではないかと疑う。
鈴子が事務所に戻ると、飛鳥球殿を裏切り、駅前のパチ屋に鞍替えした、憎い松岡がいた。
帳簿をジッと見ていた彼は、「このままじゃ、店は持たない」と、有能な店長を雇うよう進言。
だが、鈴子には、それが嫌味にしか聞こえない。ならば、黒部興産に店を売るべきだ…と言う
松岡を、鈴子は「黒部の差し金」と思い込んで、聞く耳持たない、
松岡は、誤解を覚悟で出向いた事、これが長年勤めた飛鳥球殿に対する、自分なりの
「愛情」である事を、鈴子に告げる。「愛情があるなら、なぜ店に残らないの?」と訴える
鈴子に、「自分にも、守る家族がある」と言って立ち去る。鈴子の傍らには、その松岡と
不倫関係にあった、カウンターレディの妙子がいた。鈴子と目が合うと、妙子は寂しげな
笑みを浮かべて、その場を去る。
その夜、鈴子は、誰もいない原宿陸橋に立っていた。悲しい時は、いつもここに来るのだ。
父が亡くなった日も、雨の降りしきる中、ここで泣いていた。すると、橋の向こう側から、
常連の八百屋と易者(徳井)がやってくる。「戦利品」の景品袋を、両手一杯に抱えて。
「バニーガールはいいよなぁ。飛鳥球殿は、もうダメだな!」と軽口をたたく八百屋だが、
鈴子と鉢合わせになって、バツが悪い。だが鈴子は、精一杯の笑顔で、「よかったら、
ウチにも来て下さいね」と、健気に声をかけた。
鈴子が従業員寮に行くと、佐藤が部屋に荷物を運んでいる。正式採用もしていないのに、
住み込みで働く気マンマンだ。その傍らで、一升瓶を片手にクダをまく、鈴子と祐二。
祐二は、「無理してでも、新台を入れるべき」と言うが、鈴子は、父が残した店のまま、
立ち直らせると啖呵を切る。だが、本音は、自信など全くなかった。
その頃、黒部興産の俊輔は、社長の黒部辰吉(西田)から、突き上げを喰っていた。
遅々として進まぬ、飛鳥球殿の買収。そこに巨大ショッピングビルを建てる…「社運」の
かかった大プロジェクトだ。苛立った黒部は、コップの水を俊輔にぶちまける。そこへ、
黒部の愛娘、栞(しおり)が訪れる。途端に、黒部の表情が柔らぐ。そして、俊輔に
「ハナタレも良い所だ。俺も栞も、お前に期待している」と、買収工作を急がせる。
翌日、俊輔は鈴子のもとを訪れて、ある「勝負」を提案。明朝、飛鳥球殿が開店して
1時間以内に客が一人も来なければ、店と土地を黒部興産の言い値で買い取る。逆に、
一人でも来たら、飛鳥球殿から手を引くという。どう考えても、鈴子に有利な条件である。
「卑怯な手は使わない」という俊輔の言葉を信じた鈴子は、その勝負を受ける。
翌日、事務所の鈴子のもとに、カウンターレディの緑が駆け込んでくる。例の老婆が、
また来ているらしい。行ってみると、八百屋が打っている台に、老婆が強引に座ろうと
してトラブッている。「他の台が空いてるでしょ!」「それはこっちの台詞だ!」押し問答の
挙句、八百屋が逆ギレして、「もう、来ねえ!」と出て行ってしまう。それを見た鈴子は、
老婆を「出入り禁止」にする。「これには、理由があるの…」と必死に抵抗する老婆だが、
鈴子は聞き入れない。トボトボ店を去る姿を見て、「とんだ疫病神だわ…」と溜息をつく。
俊輔との勝負を控えた鈴子は、竜作のバー「グッドラック」に出向く。彼の姿は無く、
カウンターに黒部の愛人、美沙子がいた。美沙子に、「あの人、恋人?」と聞かれて、
「何で、あんなナスビの妖怪みたいなのと…」と、ムキになって否定する鈴子。
と、店のドアが開き、食材を抱えた竜作が、「何か用かい?(註:ダジャレ)」と入ってくる。
慌てた鈴子は、俊輔との勝負のいきさつを話すが、竜作は「お前は、負ける!」と断言。
その理由を問われると、「ナスビの妖怪には、予知能力があるんだ」とチクリ。
同じ頃、祐二は兄の俊輔から、駅前のパチ屋が、明朝全台に「モーニング」を仕込み、
朝から100回転以内に当る事、さらに、すでに店が客に情報を流した事を知らされる。
「汚い手を使わない」というのは、真っ赤な嘘だった。これでは、誰もが駅前の店に朝から
並ぶ。閑古鳥の飛鳥球殿に行く客など、現れるハズがない。祐二は、兄の計算ずくで卑怯な
やり口に怒りを覚えて、部屋を飛び出す。
飛鳥球殿に出向いた祐二は、まんまと黒部興産の「罠」にハマった事を、鈴子に伝える。
だが、鈴子は「まだ、勝負は始まってない」と強がって、一人で宣伝のチラシを手書きする。
彼女は、そのチラシに願いを込めて、こう大きく書いた。
「娯楽の殿堂 飛鳥球殿をつぶさないで!いつも真心の飛鳥球殿は、あなたの御来店を
心よりお待ち申し上げております。緑茶、無料サービス!」
(鈴子がチラシを書くシーンのバックでは、挿入歌「もっと静かに」が流れる)
翌日、鈴子は駅前でチラシを配り、店が「存亡の危機」だと、道行く人に必死に訴える。
だが、その横で、ライバル店もプラカードやバニーガールを使って、派手に宣伝を
かけており、自然と注目もそちらに集まる。それにもめげず、チラシを配る鈴子だが、
通行人に突き飛ばされ、水溜まりに突っ伏すと、ズブ濡れの泥まみれになってしまう。
失意の鈴子が半ベソで家に戻ると、妹の友利が出かける所だった。鈴子のあまりに
みすぼらしい姿に、かける言葉も見当たらない友利は、無言で出ていく。一方、
鈴子も恥ずかしいやら、情けないやら、哀しいやらで、何も言えずに妹を見送る。
勝負当日、佐藤がライバル店を偵察すると、開店前に長蛇の列。飛鳥球殿の常連も、
みな並んでいる。それを聞いた鈴子と祐二は、ガックリと肩を落とす。そこへ、俊輔が
勝ち誇らしげに現れて、「客は勝つ為にしか来ない。1時間待っても無駄だ」と、早くも
勝利宣言する。
すると、緑が慌てて事務所にやって来て、「お客が来たよ!」と告げる。まさかの展開に、
祐二と佐藤は、喜び勇んで店に向かう。鈴子も、その後を追う。一方、絶対の自信が
あった俊輔は、「まさか…」の表情。
入口前に出てみると、あろう事か、やってきたのは、あの老婆…「疫病神」だった。だが、
そんな事など言ってはいられない。佐藤も緑も、たった一人の「客」として来てくれた
老婆を、丁重にお迎えして、店に招き入れようとした。祐二も、「勝ったぜ」と兄に得意顔。
だが、鈴子だけは、「この人は、私が出入り禁止にしたから、客とは認められない」と、
老婆に「お引き取り」を願う。この期に及んでカッコをつけるな、と妙子に言われても、
「つけるわよ!こんなので勝っても、嬉しくないわよ!」と意地を張り、頑として、
老婆を客扱いしない。
「あなたの負けになりますよ?」と言う俊輔に、ヤケ気味に「店は、今ここで閉店します」
と吐き捨てる鈴子。と、そこへ松岡が突然現れて、「このお婆ちゃん、ジグマでも何でも
ないですよ」と切り出す。
松岡がいうには、老婆の旦那さんが大のパチンコ好きで、飛鳥球殿の常連だったが、5年前
亡くなってしまった。だが、老婆は身寄りも蓄えも無く、葬式さえ出せなかった。そこで、先代の
光太郎が、代わりにささやかな葬式を出してあげた。以来、光太郎の恩に感じ入った老婆は、
夫の命日を挟んだ一週間、毎日100円持って飛鳥球殿を訪れては、夫の「指定席」だった台で
玉を弾いて、「供養」をするようになったという。
事情を知った鈴子は、亡き父の温情と、自分の浅はかさに気付き、老婆の入店を認める。
一方、俊輔は「余計な事を…」といった顔で、鈴子に「助け船」を出した松岡を睨みつける。
「他意はありませんから…」と言い残すと、松岡は静かに立ち去る。
カド2の「81番台」に座り、「ハンドルを捻っては戻し、捻っては戻し」で、丹念に一発づつ
玉を打つ老婆。その表情は、柔和で穏やかだ。鈴子が「お婆ちゃんにとって、パチンコは、
勝つ為ですか?」と尋ねると、老婆は「ううん、年に一度、お爺ちゃんに会う為」と答える。
それを聞いた鈴子は、涙を浮かべて「ご来店、有難うございます…」と頭を下げる。
すると、老婆の台にリーチが掛かり、見事大当り。亡きお爺ちゃんも、天国で喜んでいる…
そう思わせるようなフィーバーだ。店員一同も、「バンザイ、バンザイ」と、涙で老婆を祝福。
(老婆が大当りしたのは、SANKYO「フィーバービューティフルII」)
その様子を見て、憮然とした表情で店を出る俊輔。表にいた竜作とすれ違いざま、「いつ、
タオルを投げてやるんですか?彼女は、最終ラウンドまで戦うつもりだ」と吐き捨てる。
竜作に気付いた鈴子。彼の傍に駆け寄って、「勝ちました!」とキッパリ。だが、竜作の
口から出たのは、「遂に、地獄の入口に立っちまったな…」という、非情な一言だった。
(エンディングテーマ「SQUALL」が流れて、スタッフロールに切り替わる)
(C)日本テレビ
第3話で、「100円だけ打つ老婆」の役を好演した、女優の槇ひろ子さん