キタカゼとタイヨウ

「意識不明の重体」「重症びまん性脳損傷」から奇跡的に回復、社会人になった息子のこと。母の読書記録などなど。

1036日目

2018-04-20 16:16:08 | 交通事故・高次脳機能障害
まだまだ先は見えませんが、
保険屋さんに今の気持ちを綴って郵送しました。


私共家族は、今の息子を100%受け入れようと、以前の息子とは比べない、そんな風に過ごしてきました。 小さな違和感のようなものを見ぬふりしてきた、そんな3年間です。
息子は主治医に奇跡とまで言われるほどの回復を見せ、高校に復学し、大学生にもなりました。 以前の息子を知らない人はもちろん、知っている人にさえ『普通の大学生』と見てもらえるほどの回復ぶりです。
 
復学後の送り迎えの車の中で、「数学ができないと思われるのは嫌だ」と何度も泣かれました。人生で初めての追試を受けたのも、復学後のことでしたし、数学の追試はその後も
何度か受けることになりました。
息子にも行きたい大学や学びたいことがあったと思います。てんかんの発作の後遺症がありますので、病院とも相談して「家から通える大学」に進学させました。 入学前に学校の健康相談室の看護師さんにお電話し、「特別の配慮はいらないが、気にかけてほしい」と
お願いもしました。 息子の受ける講義の先生方には息子の状況を理解していただき、
先日、学校で発作が起きた時も素早い対応をとって頂けました。

 日々、回復していると信じてはおりますが、短期記憶はなかなか回復いたしません。
服薬に関して、飲み忘れも怖い事ですが、飲んだことを忘れての過剰摂取も少なくはありません。 通学中の電車や、学校から「薬飲んだよね」と言うLineがよく送られてきますし、「薬飲んだ?」とばかり聞く私に、「他に言うことないの? 顔見ればそればかり」と
ふてくされた様子も度々です。

友人との大きなトラブルはないようですが、周囲の状況に合わせて、話すことは苦手です。『KY』と言われるそうですが、他人の顔色を見たり、雰囲気で判断したりはできません。
隠し事もできません。幼くなったということなのかもしれません。

 小学校に入学した頃のように、なんでも話してくれます。 親は安心な面もありますが、
19歳の男の子としては・・? とも思います。 
周りの友人が免許を取って、車に乗り始めました。 先日発作を起こしてしまった息子は、免許取得はまた先延ばしとなりました。免許が欲しくて、羨ましくて仕方ないようです。

 薬を飲んでいたにも関わらず、起きてしまった今回の発作は、息子だけじゃなく家族をも打ちのめしました。 駅のホームや階段だったらと思うとゾッとします。 発作のあとは
寝入ってしまうので、搬入先の病院まで車で迎えに行って連れて帰りました。 親は一日がかりです。


大好きだったテニスは止めました。薬を飲んでいながらテニスコートで発作を起こしたことが原因です。 テニスしかない中学、高校時代でしたし、退院後の息子の学校生活を
支えてくれたのもテニス部の仲間だったので、息子が遊びでもテニスをしないことは、家族にとってもとても寂しく残念なことです。

 今は精神状態も落ち着いていて、優しい息子ですが、受験期のクラスの中で「取り残された気持ち」になることもあったようで、その頃は「死にたい」とか「死ねばよかった」と口にすることもありました。 いつか「生きていてよかった」と言ってもらえる日まで、
支えていかなくちゃ、長生きしなくちゃと思う毎日です。

 私共には3人の子供がおります。 息子は末っ子の長男、家族の宝物です。
正直、3人の中で一番できがよかっただけに、期待もしておりましたし、会社の3代目として頼りにもしておりました。
「もし、事故がなかったらどこの大学へ行っていたかなぁ」とか、
「他の高校へ行っていたら、事故に合わなかったかなぁ」と話すときの息子の心の中が
みえればいいのにと思います。 息子のように口にすることはありませんが、私共もそう思ったり、考えたりもします。

起きてしまったことをなかった事にはできません。失ったものをよみがえらせる事も
過ぎてしまった日々を取り戻すことも。 だから、私たち家族は『できることだけ数えて
行こう』と決めました。 身体の傷はさほどではなかったのに、脳のダメージは大きく、
時計も読めず、掛け算九九もできない、それでも数学が大好きと言う息子、リハビリの
点つなぎのプリントのわずか20個の点を繋ぐことすらできなかった息子、そんな息子と
時間を過ごすことは大変つらい事でしたが、1つずつ少しずつできることが増え、なお、
回復途上の息子です。
 いつもスマホを探していた息子が、いつの間にか探さずに出かけるようになった、
大学の微積の単位が取れた、そんな些細な回復状況が大きな喜びとなります。

 私たち親はいつまでも一緒にいられるわけではありません。 そう思うと不安です。
息子の笑顔がその不安をやや和らげてはくれますが、決してゼロにはなりません。
てんかん患者専用のアプリを家族で入れて、息子からのSOSに家族総出で駆けつける、
この日々の心配から、解放される日が来るのでしょうか? 息子もちょっと眩しかったり、ふらっとすると身構えてしまうと言います。 

生命保険に入れないこと、就職のこと、心配は尽きません。
平穏な日々を返してください。