背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

映画女優、入江たか子(その5)~『良人の貞操』(2)

2012年07月13日 22時06分53秒 | 映画女優入江たか子
 良人の信也(高田稔)は、医薬品会社の技術開発の研究員で、几帳面でやや神経質。妻の邦子(千葉早智子)は良家のお嬢さんらしく、おっとり型で親切で人を信じやすいタイプ。邦子には小うるさい姉(清川虹子)とお転婆な妹(高峰秀子)がいる。
 信也と邦子の夫婦には子供がいない。結婚して数年らしいが、邦子は家事も料理も苦手らしく、信也はそこが気に入らず、邦子をあまり愛していない。
 さて、未亡人になった加代(入江たか子)は、邦子の親友で、深川生まれのおきゃんな性格だという設定だが、大震災で両親を亡くし身寄りのない孤独な女性であるのはいいとしても、入江たか子が下町のおきゃんな女というのはどうだろう。正反対ではあるまいか。
 しかも、どうやら邦子と加代は未婚時代はレズ的関係だったらしく(この頃の大衆小説では女同士のこうした関係はよく出て来る。吉屋信子は実際レズビアンだったとも聞く)、邦子は加代に良人のいとこの民夫を紹介し結婚させたのだった。が、加代は、娘一人を生んだものの、民夫に虐待されて不幸な結婚生活を送ったという。だから夫が死んでも悲しまず、幼い娘をかかえてどう暮らしていくかだけを悩んでいる。
 加代と娘は、一時的に北海道の帯広にある夫の父親・兵助(丸山定夫)のもとに引き取られるのだが、偏屈な兵助に邪魔者扱いにされ、結局東京の信也と邦子に呼び寄せられて、東京で暮らすことになる。信也は自分の会社に加代の勤め口を見つけ、邦子は加代を不幸にした自責の念から親身になって加代の面倒を見る。実家に帰って留守の間は加代に信也の世話を任せるなど、信也と加代が心を寄せ合っていることに邦子は疑いを持つことすらない。


『良人の貞操』入江たか子、高田稔
 
 こんなストーリー展開で、ドラマは進んでいくのだが、登場する男がみんな男尊女卑で、女を道具扱いする封建的暴君なのには驚く。なんと類型的なのだろう。丸山定夫が演じた父親などその最たるもので、馬鹿馬鹿しくさえ感じた。信也の会社の専務で白石という男(御橋公)も加代の意思も確かめずに妻にもらってやろうという傲慢な態度だったし、映画には姿を現さないが、加代の亡夫の民夫というのも、踏んだり蹴ったりする暴力亭主だったというが、原作の描き方がそうだったとすれば、レベルの低い三文小説としか言いようがない。
 良人の信也にしても、男性的魅力のない人物で、ただ加代と娘に対しては親切なだけで、何を考えているのか分らない男であった。 
 
 さらに言えば、千葉早智子が演じた邦子が上品な美人でしかも気立ての良い明るい女性であるため、つまり入江たか子の加代と似た感じで、どちらも美人で魅力的なため、信也が一方的に加代になびく必然性が今一つ弱く感じられた。妻が地味で暗い冴えない女性なら、男が愛人を持ちたくなる気持ちも分らなくないのだが。
 それに、邦子と加代は性格が対照的だという設定であるが、千葉早智子と入江たか子の二人を比べると、陰と陽で言えばどう見ても入江たか子の方が陰なのに、彼女の方が明るく振舞っていたことに違和感を覚えた。邦子と加代のキャスティングを入れ替えてもいいのではないかと感じてしまう。
 
 後半はズタズタに切られていたため、話の辻褄が合わず、ラストもこれが本当にラストなのかというほど要領を得ない終わり方だった。結局、信也は妻の邦子のもとに帰り、加代は実家の父親に娘を奪われ、一人寂しく北海道の極寒の地で命果てるのだろうか。

<データ> *注
『良人の貞操』前篇 春来れば
(P.C.L. 入江ユニット作品)
提供:東宝映画配給株式会社
製作:P.C.L.映画製作所
録音現像:写真化学研究所 *タイトル上は「寫眞」は旧字
共同製作:入江ぷろだくしょん
原作:吉屋信子 東京日日新聞・大阪毎日新聞連載
演出:山本嘉次郎 *P.C.L.および東宝映画では「監督」ではなく「演出」
応援演出:東坊城恭長
製作主任:村治夫
現場主任:谷口千吉
脚色:木村千依男、山本嘉次郎
撮影:三浦光雄
録音:鈴木勇
装置:久保一雄 *「装置」とは「美術」のこと
編輯:岩下広一 *「編輯」=「編集」
音楽監督:清田茂
演奏:P.C.L.管絃楽団 *「管弦」ではなく「管絃」
主題歌:A「邦子のうたへる」B「加代のうたへる」
    *Aの歌唱は千葉早智子、Bの歌唱は江戸川蘭子
 作詞:吉屋信子 作曲:中山晋平 ビクターレコード
出演者:(*俳優の顔に一人ずつ役名と名前がクレジットされ、以下の順に)
加代:入江たか子、信也:高田稔、邦子:千葉早智子、照子:堤眞佐子、
兵助:丸山定夫、白石:御橋公、安子:清川虹子、義三郎:三島雅夫、
丸尾:杉 寛、睦子:高峰秀子
*「後篇 秋ふたたび」のタイトルはビデオにない。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画女優、入江たか子(その4... | トップ | 映画女優、入江たか子(その6... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画女優入江たか子」カテゴリの最新記事