背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

チャーリー・パーカーの半生(9)

2019年08月03日 17時53分55秒 | チャーリーパーカー
 アディ・パーカーが夫と別居して、カンザス・シティ(ミズーリ州)の黒人居住地区、オリーヴ通り1516番地に借家を見つけて、チャーリーと二人だけで暮らし始めたのは1932年の夏であった。二階建ての古い木造家屋だが、一階は居間と2部屋と台所、二階にも3部屋ある広い家で、アディは、家計の足しにしようと考え、二階を全部、人に又貸しした。
 チャーリーはこの家から1年間小学校へ通って卒業し、1933年9月、13歳でリンカーン・ハイスクールへ入学した。(パーカー研究者の近年の調査でハイスクール入学の時期は1933年9月にほぼ確定したようだ。また、卒業した小学校は、クリスパス・アタックス校なのか、チャールズ・サムナー校なのかで、1980年代半ばからずっと論議されてきたようだが、これも近年の調査で、オリーヴ通りへの転居時期も含め、結論に近いものが出ている。これについてはまた回を改めて、書きたい)
 チャーリーはハイスクールに入って初めのうちは真面目に勉強していたが、次第にやる気をなくしていった。良い先生がいなかったからだというが(母アディの話)、小学校の高学年の時からサボり癖がついて、学校の集団生活にも嫌気がさしていたのだろう。リンカーン・ハイスクールは、ミズーリ州側のカンザス・シティでは唯一の黒人限定のハイスクールであり、一学年に数百人いるようなマンモス校で、老朽化した校舎と教室の中に、生徒たちはすし詰め状態だった。また、校則も厳しかった。無断の遅刻・欠席はきつい注意を受け、出席日数が足りなければ、進級できなかった。チャーリーは、教室での勉強に興味を失くし、ただ音楽の授業とバンドの練習だけを楽しみに登校していた。
 母アディは、昼間の仕事が終わって夕方帰ると、夕飯を作ってチャーリーと食事をし、夜8時過ぎになると、電信電報局の清掃の仕事へ出て行った。夜勤で帰宅するのは早朝だった。チャーリーは、独り家に取り残されたが、そのうち夜な夜な、街へ出て、映画を見たり、ナイト・クラブやダンス・ホールの店先に佇んで、中から流れて来る音楽に耳を傾けていた。


<チャーリー・パーカー10代半ばの頃>

 そんな頃、家の二階にいた間借り人が引っ越して、それと入れ替わるように、近所に住んでいた黒人の家族が引っ越してきた。ラフィン一家で、その次女がレベッカがであった。
 レベッカ・ラフィン Rebecca Ruffin は、チャーリーに初めて会った引っ越しの日のことを、50年近く経った後でもはっきり憶えていて、後年、インタビューでこのように語っている。
1934年の4月10日、14歳の時でした。両親が離婚して、母が子ども全員を連れて、近所にあったアディ・パーカーの家の二階へ引っ越したんです。母のファニー、兄と姉と、私と、妹が三人いました。その日、私たちが家財道具を二階へ運び上げるのを、アディとチャーリーは階下で、階段の手すりにもたれながら、眺めていました。チャーリーはニッカーポッカ―をはいていて、なんだか子どもっぽかった。女の子とあんまり接したことのない、うぶな子みたいで、私の方をじっと見ているのね。その時、私に惹かれてる感じがして、そのうちきっと私を選ぶんだろうなあ、って直感しました
 ただ、その時レベッカは、荷物運びを手伝おうともしないチャーリーに腹を立て、「お母さん子の甘ったれ」で「ひどい怠け者」だという印象を持ったという。
 一方、チャーリーは、女の子が5人も二階に住むことになって、当惑と期待が入り混じった気持ちになったにちがいない。なかでもレベッカを一目見て、気に入ってしまったようだ。
 レベッカは、黒人なのに肌の色が小麦色で、顔立ちも可愛く、瞳はきらきら輝き、艶のある髪を二つ分けにして、両側を束ねて留めていた。彼女は、肉体的にも少女期から一人前の女にさしかかる頃で、思春期を迎えたチャーリーに、異性への目覚めを急に起こさせる結果になった。


<レベッカ15歳の頃>

 レベッカの家族が二階に住むようになって、チャーリーの日常生活は一変した。レベッカは、チャーリーと同じリンカーン・ハイスクールの生徒だった。チャーリーは1年生、レベッカは3年生だった。妹が3人いて、13歳のオフェリアはチャーリーと同じ1年生、11歳のネオマと7歳のドロシーは小学生。それで、チャーリーは、毎朝レベッカと妹たちと集団登校するようになった。これで、遅刻も欠席もなくなり、学校へ行くことが楽しみになっていた。
 そのうち、学校が終わると、チャーリーはレベッカと二人で寄り道をして帰ることも多くなった。フード・ショップで買い食いしたり、ウィンドー・ショッピングをしたり、映画館へ入って西部劇を見たり、半年も経たないうちに二人はすっかり恋人同士になってしまった。


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