板前さんたちの仕事は、一日のうちでも忙しい時とそうでない時の波がとても多い職業だった。
予約の宴席が重なり、予約なしのお客さんも来て客席がいっぱいになった時などは、短時間に八面六臂の大活躍をしなければならない。
頭(かしら)は、自分の仕事をこなしながら、部下の仕事、配膳の段取り、客席の食事の進行具合などを、超人的な千里眼で察して指示を出す。
当然ながら、緊張とストレスが頂点に達する瞬間が訪れるのであろう。
そんな時に普段辛口の軽口ばかり言っているYさんが、毅然とした顔つきになって声を出すのである。
「落ち着け!落ち着け!落ち着け!」
誰に向かって言うわけでもなく、自分に言い聞かせるように声を出すのだが、おそらく近くにいる二番手三番手の板前さんたちにも聞こえるように演出していたのだと思う。
日常、仕事が込んで焦りを感じる時に、Yさんのことを思い出すことがある。
職人刈りで、ごま塩アタマだったYさんも、すでに古希を過ぎたお爺さんになっていることだろう。
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