板橋文夫さんのライブ演奏の場で、涙を流す経験を持つ人は多い。
私も、その一人である。
しかし、二十数年板橋さんの音楽に接しているけれども、新作のアルバムを聞いて、即座に落涙ノックアウトされたのはこれが初めてである。
ウイ 11
メンバーのスケジュールが合うまで「年」の単位で録音を待ったという。
どうりでメンバーの心と気と技が、苔むしながらも堅固な城壁の上から放たれる熟達の武士が放つ矢のように、的確に聞く者の胸を射る。
5曲目のCycling Bluesは、愛用の自転車に捧げるとのことだが、格闘の日々ともいえる音楽家人生を歩んできた自身に捧げるかのような優しさを感じさせる。板橋さんが自身の人生を、納得し、肯定している、一服しながら遠くの景色に目をやるような男の心が放つ匂いを感じる。
11曲目の、ファンにはおなじみのFor Youの、ふだんよりややスロー気味に、また低音を強めて重厚に演じられる様子に、板橋さんとメンバーの思いが伝わって来る。
アフリカやモロッコを近年旅行された時につくられた曲も力強いアレンジで展開され、「ジャズミュージシャン」の枠では語れない板橋ワールドを展開して楽しませてくれる。
また、ジャケットの絵とライナーノーツを画家の堀越千秋さんが手がけられていて、楽しさを増幅してくれており、内容を象徴するような、自由な精神への賛歌となっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/f2/9bd90b1feedaa857a2583531026883da.jpg)
それにしてもどうだろう。ジャケット裏面の写真のなかのメンバーたちの表情は!
大きな仕事を真剣にやり終えて、その成果に満足している様子がじんじんと伝わってくる。