京子がドアを押し開けた。
「さ、コーイチ君、行きましょ」
京子はコーイチを支えたまま(と言うより押さえつけたまま)ドアからロビーに出た。ロビーには誰もいなかった。
「おい、コーイチ!」
どこにいたのか、岡島が現われて、コーイチのスーツの裾をつかんだ。京子は足を止め、うんざりした顔で岡島を睨んだ。岡島は京子の視線を無視してコーイチを睨んだ。
「何だ、あの不必要なまでに目立ったパフォーマンスは!」岡島の目が血走っていた。「空中を飛んで見せるなんて、下品な手品で客にこびるなんて、見下げ果てたヤツだ!」
「京子ぉ……(おいおい、自分はまた棚に上げっぱなしかよ!)」
「あら、悪かったわねぇ」京子がこわい顔で言った。「あれは私がやったのよ。コーイチ君は付き合ってくれただけ。あなた、私に文句を言ってる事になるのよ」
「それに、なんだ、ふらふらするまで飲んで」岡島は京子を無視して続けた。「支えてもらって、やっと立っているなんて、情けない!」
「京子ぉ……(酔ってるんじゃない、魔法だ、魔法。お前もかけられたろう、気がつけよ!)」
「な~にが『京子ぉ……』だ! 甘えてるんじゃないぞ!」
「うるさいわねえ…… 誰も相手にしてくれなくって一人でロビーにいたんでしょ? 暗い顔してさ。そこにコーイチ君が来たからって、絡まないでよ!」
京子は岡島の正面に立って、そう言い放った。岡島は視線を上下左右に動かして京子の視線をかわした。そんな岡島のおろおろした態度を見た京子は、意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「あなた、こんな所に居ても良いのかしら? 明日は外国に行くんでしょ? どこに行くか決めて準備しなきゃいけないんでしょ?」
「……」
岡島は下唇を噛み、きつく拳を握り締めて、京子を睨みつけた。
「君には関係が無いだろう! それに、幼なじみかなんか知らないが、君は部外者じゃないか。関係者じゃないんだから、本来ここに居る事自体おかしいんだぞ!」
「何言ってるのよ。あなた以上にみんなに認めてもらったわよ」
京子はにっこりと笑い、カッカしている岡島をさらにあおるように付け加えた。
「いらいらする気持ち、分かるわよ。出世と言うよりも左遷だもんね。コーイチ君への悪態も今日までだもんね。気の毒ね」
岡島は何も言い返せなかった。京子はそんな岡島を楽しそうな顔で見ていた。
「じゃ、がんばってね。もう二度と会うことは無いだろうけど」
京子はコーイチのスーツをつかんでいる岡島の手を軽く叩いた。しかし、力加減の出来ない京子に叩かれた岡島は痛みに悲鳴を上げ、叩かれた手を反対の手で撫でさすっていた。
「なんてひどい暴力娘なんだ! 訴えてやる! 帰国したら絶対訴えてやる!」
「うるさいわねぇ……」京子の目が妖しく光った。「あなたの行き先は決まったわ!」
言い終わると同時に、岡島の姿がパッと消えた。京子は可愛らしい笑顔を、驚いた顔をしているコーイチに向けた。
「気にしない、気にしない。旅費なしで外国に行ったのよ。どこだと思う? あんなに熱い頭は冷すべきだわ。って事で、エベレストの頂上よ!」
京子は楽しそうに言って、コーイチを引っ張って、エレベーターの前に来た。すると、エレベーターのドアが開いた。
「えっ……! ここは……!」
コーイチは驚きの声を上げ、一歩前に出た。ふらふらも、「京子ぉ……」の繰り返しも治まっていた。魔法が解かれたのだ。
目の前には、コーイチのアパートの階段があったからだ。
つづく
「さ、コーイチ君、行きましょ」
京子はコーイチを支えたまま(と言うより押さえつけたまま)ドアからロビーに出た。ロビーには誰もいなかった。
「おい、コーイチ!」
どこにいたのか、岡島が現われて、コーイチのスーツの裾をつかんだ。京子は足を止め、うんざりした顔で岡島を睨んだ。岡島は京子の視線を無視してコーイチを睨んだ。
「何だ、あの不必要なまでに目立ったパフォーマンスは!」岡島の目が血走っていた。「空中を飛んで見せるなんて、下品な手品で客にこびるなんて、見下げ果てたヤツだ!」
「京子ぉ……(おいおい、自分はまた棚に上げっぱなしかよ!)」
「あら、悪かったわねぇ」京子がこわい顔で言った。「あれは私がやったのよ。コーイチ君は付き合ってくれただけ。あなた、私に文句を言ってる事になるのよ」
「それに、なんだ、ふらふらするまで飲んで」岡島は京子を無視して続けた。「支えてもらって、やっと立っているなんて、情けない!」
「京子ぉ……(酔ってるんじゃない、魔法だ、魔法。お前もかけられたろう、気がつけよ!)」
「な~にが『京子ぉ……』だ! 甘えてるんじゃないぞ!」
「うるさいわねえ…… 誰も相手にしてくれなくって一人でロビーにいたんでしょ? 暗い顔してさ。そこにコーイチ君が来たからって、絡まないでよ!」
京子は岡島の正面に立って、そう言い放った。岡島は視線を上下左右に動かして京子の視線をかわした。そんな岡島のおろおろした態度を見た京子は、意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「あなた、こんな所に居ても良いのかしら? 明日は外国に行くんでしょ? どこに行くか決めて準備しなきゃいけないんでしょ?」
「……」
岡島は下唇を噛み、きつく拳を握り締めて、京子を睨みつけた。
「君には関係が無いだろう! それに、幼なじみかなんか知らないが、君は部外者じゃないか。関係者じゃないんだから、本来ここに居る事自体おかしいんだぞ!」
「何言ってるのよ。あなた以上にみんなに認めてもらったわよ」
京子はにっこりと笑い、カッカしている岡島をさらにあおるように付け加えた。
「いらいらする気持ち、分かるわよ。出世と言うよりも左遷だもんね。コーイチ君への悪態も今日までだもんね。気の毒ね」
岡島は何も言い返せなかった。京子はそんな岡島を楽しそうな顔で見ていた。
「じゃ、がんばってね。もう二度と会うことは無いだろうけど」
京子はコーイチのスーツをつかんでいる岡島の手を軽く叩いた。しかし、力加減の出来ない京子に叩かれた岡島は痛みに悲鳴を上げ、叩かれた手を反対の手で撫でさすっていた。
「なんてひどい暴力娘なんだ! 訴えてやる! 帰国したら絶対訴えてやる!」
「うるさいわねぇ……」京子の目が妖しく光った。「あなたの行き先は決まったわ!」
言い終わると同時に、岡島の姿がパッと消えた。京子は可愛らしい笑顔を、驚いた顔をしているコーイチに向けた。
「気にしない、気にしない。旅費なしで外国に行ったのよ。どこだと思う? あんなに熱い頭は冷すべきだわ。って事で、エベレストの頂上よ!」
京子は楽しそうに言って、コーイチを引っ張って、エレベーターの前に来た。すると、エレベーターのドアが開いた。
「えっ……! ここは……!」
コーイチは驚きの声を上げ、一歩前に出た。ふらふらも、「京子ぉ……」の繰り返しも治まっていた。魔法が解かれたのだ。
目の前には、コーイチのアパートの階段があったからだ。
つづく
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