わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

トランプのアメリカだからこそ…「グリーンブック」

2019-03-01 | 映画・ドラマ・本
 言わずと知れた、色んな方向か酷評されてる今年のアカデミー作品賞受賞作品。最初は見るつもりなでまったくなかったのですが、あんまり話題になっているので、見る気になっちゃったわたしゃミーハーです。見るつもりがなかった理由は、単に、あのお素敵なアラゴルンさんが、お腹の出たガサツなおっさん化している姿を見たくなかったから。でも、あまりも見事におっさん化していたので、お素敵アラゴルン様を彷彿させることを全く無く観られました。



 きっと深く考えると、世間で言われているように、白人視点(もしくは上から目線?)の黒人のお話とか、白人が黒人を救っていい気分になるとかってなるのかも知れないけど、白人でも黒人でもない私が考えずに観たら、 ( ;∀;)イイハナシダナー な、観終わって良い気分になれる「フィール・グッド・ムービー」でした。

 お話は正直、嘘っぽいと思う。黒人の飲んだグラスを指先で持って捨ててしまうほどに差別主義者だったトニーが、お金のためとはいえ、いきなり同じ車に乗って普通に接してるのは違和感がありました。クラブの用心棒として、殴った相手が面倒くさい相手だったとか、帽子を隠したのが自分だとバレたとかで、暫く街を去る必要があったとかなら、少しは納得できたかもですし、待っている間に他の黒人運転手たちとゲームに興じているのも、急に差別止めたの?と、唐突な展開に驚いた。シャーリーがYMCAで捕まった時も、物分かり良すぎでしょ、と。

 ドクター・シャーリーを演じてアカデミー助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリは、映画が「嘘の協奏曲」だと避難するシャーリーの親族に、映画そのものを、ではなく、この映画によって気分を害したことに対して、丁寧に謝罪したそうです。ドクター・シャーリーの優雅さや高潔さは、演技というより、演じたアリさん本人の持ち味じゃないかって気がする。熱人を演じて主演男優賞を取ったラミ君と逆ね。

 ドクター・シャーリーの、弟さん、モーリス・シャーリーさんによると「兄はトニーを友人と見なしたことは一度もなく、あくまでも(制服と帽子を身につけることに憤っていた)運転手であり、使用人だった。」そうです。そして、映画の中で「弟がいるけど何年も交流がない」というシャーリーに、トニーは「手紙を書いたら?」って言うシーンが有るけど、これは実現しなかったよう。

 この映画は「実話にインスピレーションされた」んであって、ノンフィクションじゃないから、「ボヘミアン・ラブソティー」と一緒で、事実の再現じゃなくても良い作品ならいいと思ってたけど、エンドロールで実際のシャーリーとトニーの写真を出して「生涯、友達だった」とやってるのが、微妙になってくる。脚本を書いているのが、トニーの息子さんなので、トニー側が美化され、トニー一家へのノスタルジーが感じられるのは、仕方ないかもしれませんが。作中のトニーの奥さんはチャーミングも素敵な女性ですが、エンドロールで出た本人の写真で、本当にすっごい美人で、これまた驚いた。

 行く先々でのエピソードがいちいち劇的で、でも、どこかで観たような話ばかり、そして最後はクリスマス・ミラクルで締めるのは、これが映画界において世界的に影響力の大きなアカデミー作品賞のタマか?と、言われると、私にはわからないけど(-人-)、映画ってのは、こういうのでいいんだよ!って気もする。現実のアメリカは今、とてもギスギスしており、人種間での葛藤も悪化していると思います。Oscar So Whiteといわれた一昨年、そして今回のアカデミー賞では、「白人の映画」と「黒人の映画」の対決の感が有りました。

 アメリカのお茶の間番組も、昔から黒人ドラマ、白人ドラマがきっぱり別れていて、ラテン家族やアジア人家族のドラマも出てきては、成功せずに消えていった感じ。実際、私が今住んでいる街も、ビックリするほど白人の街。成長中のコロンバス郊外なので、住民は圧倒的に白人とはいえ、それ以外も住んではいるのですが、それは新参者で、根付いているのは中流の保守的な白人です。こういう街の様子を観ていると、人種のるつぼには、まだまだ程遠い。

 この映画は、50年前には、こんなにも差別が堂々と存在していたことを思い出させてくれます。白人高齢者の多くは、当時の「常識」を未だ根本的には残している。人間、頭では分かっていても、そう簡単に深層心理まで変えられないと思う。傍から見ればトンデモなトランプを、それでも支持して大統領にまで押し上げ、未だに支持しする人々の言うグレートなアメリカは、異質なるものを嫌い、自分たちだけのホモジニアスな社会の心地良さを捨てられない、土地に根付いた人々の、変わりゆく世界への抵抗があるのではないかと思います。

 わにおの母方のお祖母さんは、わにおのお父さんにイタリア系が混ざっていたので「イタ公と結婚するなんて!」と、暫く、お母さんとは絶縁状態だったとか。それって、正に、この映画の時代。トニーは、同じ白人の中でも「新参者」で蔑まれていたイタリア系なので、差別される気持ちはわかる、俺はあんた以上にブラックだって言うけど、そこで納得しちゃだめでしょ、シャーリーさん。

 でもいいんですよ。黒人と白人の間に友情が芽生えるファンタジーで。こんな時代だからこそ、こんなファンタジーがあってもいいと思う。音楽はいいし、それに何よりケンタッキー・フライドチキンが食べたくなっちゃう。黒人大統領ののオバマさんときて、逆方向に振れてトランプで、これからまた一悶着ありそうなこの国で、お伽噺のような友情と、暖かな大家族のお話に、ほっと一息をつく。この映画の意義はそれだと私は思います。

 明日は、KFC(今どきはケンタッキーフライドチキンって名前じゃないの)買いに行こう!

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