千曲川のうた

日本一の長河千曲川。その季節の表情を詩歌とともに。
人生は俳句と釣りさ。あ、それと愛。

無音

2020年01月11日 | 音楽
ジョン・ケージが作曲した「4分33秒」が名曲であるかどうかは分かりませんが、とても有名な曲であることは確かです。

例えばピアノバージョンの場合。楽譜を抱えた奏者が登場してピアノの蓋を開けますが、鍵盤に触れることはなく4分33秒経つと引っ込んでしまいます。4分33秒の空白こそがこの「曲」です。
禅に興味をお持ちの方なら、中国の禅僧薬山惟儼の逸話をご存じかも知れません。教えを乞われた惟儼は、説法の座に上がりますが無言のまま過ごし、しばらくして下座してしまいます。
私の憶測ですが、20世紀欧米のアバンギャルド芸術家は大抵鈴木大拙経由で禅にかぶれていましたから、ケージも「無音=無言=無意味」という反表現をやってみたかったのではないでしょうか。
いずれにせよ、こういう試みは早いもん勝ちで、ケージは勝ったと言えるでしょう。



これはイギリスの才人マイク・バットがプロデュースしたアルバムです。クラシカルクロスオーバーというんでしょうか。
13曲目に「A One Minute Silence」というタイトルの曲がありますが、これは無音状態が1分間続くものです。そしてこの「曲」がケージの著作権を侵害したとして訴えられました。
ケージの4分33秒の無音には著作権があり、バットの1分間の無音がそれを侵害したということですから、なかなか形而上的な論争です。



けっきょく、バットが曲名の後に(Batt/Cage)というクレジットを入れたのがまずかったらしく、ジョン・ケージ財団に多額のお金を支払ったようです。興味のある方は、
   http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/2133426.stm

私はケイティ・メルアのファンで、彼女が所属するDramaticoというレーベルのサイトを見ていてこのCDを見つけ、買ってみました。この著作権騒動を知ったのはずっと後のことです。
13曲目は別として、このCDは割と聞き飽きない一枚ですから、犬散歩BGM用にウォークマンに落としてあります。
そしてこのアルバムの「ボレロ」なんかを聴いて思うのは、オーケストラもいつまでも19世紀の編成にこだわってないでドラムスを入れれば良いのになあ、ということですね。

  雪無音たれも使はぬ言葉欲し 沖田佐久子


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