なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

1章―愛人   沼隆先生と共同執筆作品

2019-09-20 | ピアス
(1章―愛人)

「先生、コーヒー、お持ちしました」
初めて聞く声だ。
振り返って、書斎の入り口に立っている女を見た。

「あのときの先生、ちょっと怖かった」
私は、じっと見つめたらしい。
しばらく経って、身体の関係が出来た時、琴音がそう言った。

書斎の入り口に立つ琴音の姿は、今でも、忘れることが出来ない。
私にそれほど強い印象を初対面の琴音に、感じたのだ。
同じように、琴音も、私の印象を、はっきりと記憶していた。
琴音は、妻の美奈子が開いている工芸教室の生徒の、一人だった。

4年前、親友の近澤浩介の紹介で見合いをした。
浩介の遠縁に当たる、田部井美奈子である。
結婚が決まると、レザークラフトを仕事にしている美奈子のためにアトリエを自宅に増築した。
やがて、美奈子はそこで、教室を開いた。
生徒たちが、我が家を訪れるようになり、華やいだ声が書斎にも聞こえるようになった。

何時しか、午後3時の休憩時間、私が在宅しているときは、書斎にコーヒーが届けられる習慣ができた。
その日は、琴音が運んできたというわけだ。
それが、初対面だった。

美奈子の生徒の中では、一番若いかもしれない。
若いから、見つめたのではない。
若い女は、私の職場には多いのだ。
大学で社会学を教えているのだから。
琴音の表情、体つきから漂ってくるもの
何か、私の本能に直接働きかけてくる匂いのようなものがあった。
そう、匂いとでも言うしかない。
もしかしたら…
この子は、私がずっと求めてきた…そんな思いがわいた事を、今でも、はっきりと覚えている。



直感は、当たっていた。
琴音は、いわゆるMの素質を持っていた。
私に束縛されることを望んだ。
何度目かの時に、手足を縛った。
琴音は、激しく乱れた。
縛られて性交すると、一段と快感が高まる女であった。
鰍沢に賃貸マンションを借りた。
琴音と過ごす時間が急速に増えていくようになった。

休日には、研究室に行くと、美奈子に嘘をついて、琴音を訪ねた。
結局、琴音は、美奈子の教室はもとより、勤めもやめてしまった。
一日中セックスをしていたわけではない。
琴音をつれて、出かけるようになった。
行きつけのレストラン、《カマルグ》にも、《ジャンノッティ》にも出かけた。
ブティックで服を買い、靴を買い、そして、宝飾店にも行った。

美奈子に後ろめたい気持ちがしなかったか、と聞かれると、まったくしなかった、と答えよう。
断言できる。
美奈子は、私を受け入れなかった。
結婚して、1年余り過ぎたころだろうか、私が仕掛けた行為に
「変態!」
と、ただ一言、冷ややかな言葉で拒んだ。
夫婦生活は、おざなりになっていった。
他人から見れば、私が恥も外聞もなく愛人を連れ歩いている、ということになるのだろう。
そう思われても平気だった。
妻には、何の愛情も覚えず、琴音には強い愛情を抱いているのだから。
人の目より、自分の感情に正直になれる事のほうが、嬉しかった。



その日、私は、琴音に対して、鞭を使うことにした。
琴音の背中の皮膚が裂けて、血がにじんだ。
苦痛に堪えている琴音を見たとき、私は悦びを感じていた。

しばらくの月日が流れ、美奈子は私たちの関係を知る事になった。
美奈子は、弁護士を立てて、別居を申しでた。
しかし、離婚は、望んではいない、と言う。
私が離婚を求めても、応じるつもりはない、とも言う。
もろもろの事情の下で、美奈子の要求を受け入れることにした。

元々、琴音と付き合いだしたからと言って、琴音との結婚を考えてはいない。
琴音に家事をさせるつもりは、毛頭無いのだ。
ふたりの間に、日常性を持ち込みたくなかった。
炊事も、掃除も、洗濯も、生きていくうえで必要なことだ。
しかし、それにどっぷり浸ってしまいたくはないのだ。
そんなことをすれば、琴音との関係が変質してしまう。
家事は人を雇えばよい。
琴音は、私の何なのだろう。
愛人?
社会通念では、そういうことになるのだろう。
北山にある山荘を美奈子の名義に換えた。
毎月、生活費を振り込む約束ができた。
公正証書を作成した。

晩秋のころ、美奈子が出て行き、琴音が越してきた。
美奈子のアトリエを、プレイルームに改装した。

  *****

先生の奥様の教室に通っているときに、先生と出会いました。
先生の奥様の教室に通わさせていただいていたのですから、先生と呼ぶいのは、奥様のほうでしょうが、私は、最初にご主人を「先生」と呼んでいたように思います。
先生に、お逢いできるのは、教室に通っている時間の、お茶の時間だけでしたが、教室の生徒の中で一番年が若い私が、何時しかお茶を用意する事になり、先生に、お茶を頻繁に運ぶようになりました。
ほんの数分の、たわいない会話に、私は惹かれました。
お仕事をされている先生の手を止めないように、そっとお部屋を出ようとするのですが、先生との一言二言の会話に、心ときめくようになりました。
先生は、「次までに、調べてみたら良いよ!」と言うような、他愛無い会話の中に、宿題を出されるようになり、私は、次のお茶の時間までに、必死に調べました。
上手く説明できるようにと、レポート用紙に書き留め、できるだけ短く上手く説明できるように練習までしていたのです。
次第に、先生は、私に出す宿題の答えに対して、褒めてくださるようになりました。
お茶を出す手をそっと握ってくれる瞬間が嬉しくもありました。

「良く、調べたね。」
その一言と、優しく頭をなぜてくれる仕草に、小学生になったように、嬉しく思たこともありました。
私の心は、どんどん先生に惹かれていきました。
先生にデートに誘われるのに、それほどの時間は、かかりませんでした。

奥様の教室で工芸を習うより、先生に出される宿題のほうが、楽しくなっていました。
出来れば、先生との時間をもっと増やし、先生から色々な事を教えていただきたいと思うようになっていました。
それは、教養とか、だけではなく、先生の好みも知りたいと言う事が、含まれていました。
肉体関係ができた事で、より深く繋がりたいと思うようになったのかもしれません。

それからしばらくすると、先生がマンションを用意してくださいました。
先生のお勤め先から遠くない場所にマンションは、あります。
先生がみえる時間を楽しみにしていた時も嬉しい時間でした。

先生が、夜更けに帰っていかれるとき、とても寂しくなりました。
そんな気持ちを察してくださるのか、真夜中過ぎに電話をくださる事もありました。
時には、先生のご命令で、オナニーをしました。
恥ずかしい言葉を言わされるのです。
恥ずかしい言葉を言ったからと言って、感じる事はありません。
先生が喜んでくださるなら…と思うと、出来ます。
先生の、激しくなる息遣いを聞くことで、私も感じてくるのです。
している事は何でも良いのです。
先生が私を思い興奮してくださる事が、私を喜ばせ、興奮しました。
どんなことでも、したい…そんな気持ちでしてしまうのです。

先生とのお付き合いで、離婚をして欲しいとかそういうことではなかったのですが、
奥様との別居の話が進み、先生のお宅に同居することになった時は、とても嬉しく思いました。
奥様を私が、追い出したように思われるのは、嫌でしたが、他人から見れば、私が乗り込んだ形になっている事は、十分分かりました。
しかし、奥様が言い出し、奥様が出て行ったのです。
私は、他人がどう見ようと、私は気にしない事にしました。
ただ、奥様が出て行った事で、私が先生と同居すると言うことは、奥様との生活を垣間見ることにもなりました。
過去形ではありますが、先生と奥様の生活観が、生徒として伺っていた時以上に、見えてきてしまうのです。
それは、女の部分で、感じ取る嫌な面でもありました。
しかし、それを受け入れる事が、ここで、生活できると言う事は、分かっていました。

先生のご自宅で、同居と言う事になり、ご自宅でお仕事をされる日など、一日中一緒に居られる嬉しさもありましたが、私は、先生の前でどのように過ごすのか、戸惑いもありました。
私と先生との関係が、今一つはっきりしないまま、同居したためかもしれませ。
妻と言う立場ではなく、生徒と言う立場でもないのです。
はっきりしているのは、肉体関係があると言う事。
先生に、愛されていることは十分感じ取れますし、私も先生を愛しています。
しかし、「愛人」と言う、不安定な脆い位置にいると言う事は、気になっていました。

先生との同居で、プレイに関してはどんどん貪欲になりました。
先生は、奥様が使っていたアトリエを、改造しました。
先生の欲求を刺激してやまないおもちゃ箱のような空間が出来、その中で私は、先生の望む女に変化できればと、願っていました。
すごい勢いで私は変化してきたと思います。
そのお部屋に入ると、させること、する事全てが、性的なことに繋がるのだと、身体が、覚え始めるのです。
苦痛が快感に変わり、される事全てに感謝したいと思うようになり、日常のすべてが、M状態になり始めていました。

先生のアトリエは、魔法の部屋のようになっていました。





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