なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

ピアス 3章

2021-04-03 | ピアス
立春を過ぎたころのことであった。
茶道、真壁流家元、真壁清澄を知ることになった。
勤務する蔭樹学園の理事長、鏑木早苗を通して、茶事に招かれた。
思いも寄らぬ誘いに、わけを尋ねても、理事長は、にこにこしているだけである。
琴音には、この機会に、と、着物を仕立てた。
公用車で迎えに来た理事長は、
「お似合いだわ。可愛らしくてよ」
と言った。

嵯峨野の辺りには、雪が解けずに残っていた。
名刹のひとつ、羅刹寺の山門前で車を降りた。
この寺の境内に、妙声庵がある。
真壁清澄の茶室である。
鏑木を正客、私が次客、琴音、そして章子という、琴音と同じ年頃の女と続く。
家元が点てる濃茶をいただくころ、話は佳境に入っていた。
話題は、文豪、蠏崎駿一郎のことである。
真壁は、「蠏崎先生」と呼んでいた。
真壁は、蠏崎を人生の師と仰いでいるという。
耽美派の巨匠と、茶道の家元の結びつき、わからないでもない。
羅刹寺の広大な境内の中にひっそりたたずむこの茶室が、
茶道の研鑽のためだけに使われているとは思えないのである。
この静謐な空間は、同時に隠微な空間に容易に変わりうるものであって、
茶室に続く、一見質素ではあるが、贅を尽くした和室は、
家元が女を抱く場所でもあり、蠏崎が女を抱いた場所でもある。
この庵に到着して、すぐに私は悟っていた。
具体的にどこがどうとは言えないのに、この場所の空気が
蠏崎の最後の作品、『夢の浮橋』の舞台であることに気がついた。
主人公の潤一郎が、佳奈恵という若い人妻を軟禁し、
夜となく昼となく犯し続けた、まさにその場所なのだ。
「『夢の浮橋』の舞台は、ここですね」
「さすがですね」
「あなたなら、きっとわかる、そう家元と話していたの」
「佳奈恵にも、モデルになる女性がいたんでしょうね」
理事長が、かすかに微笑んだ。
「早苗さんから、あなたのことを伺って、ぜひ一度お話したくて、お招きしたのですよ」
「うちの大学には、澤井源衛という専門家がおりますが…」
私は、戸惑った。
蠏崎研究では、澤井は若手でナンバーワンだと評価されている。
「あの方は、研究者です。あなたは、蠏崎先生の愛好家だ」
「家元は、澤井先生の研究態度がお嫌いなの」
「お見せしたいものがある。章子、あれをお持ちしなさい」
章子が、和綴じの書物を差し出す。
ほそりとした美しい指。
表紙に、『夢の浮橋 原稿』と書いてある。
蠏崎は、秘書に口述筆記をさせていた。
「生の原稿ですね」
家元も、理事長も黙っている。
達筆の女文字が、妖しい物語をつづっている。
書き出しは、公刊本とほとんど変わらなかった。
違うのは、主人公の名前が、潤一郎ではなく駿一郎、つまり、作者の名前そのままであること、
軟禁した女性の名前が、佳奈恵ではなく、早苗であること、そして…
ふたりの交接の場面が克明に描写されていることである。
さらに、蠏崎駿一郎と、鏑木早苗が交わっている絵が、
間違いなく、伊東瑞縁の手になる交合図が、綴じこまれていた。
「蠏崎先生が、先代の家元、私の父にお預けになった」
「どうしてですか?」
「本当は、早苗さんに差し上げたかったのでしょうが、早苗さんには、ご主人がおいででしたから」
「なるほど」
「文章も、すばらしい」
「当時は、出版など、不可能でしょうが」
「そういうお気持ちは、なかったそうです」
「では、理事長のためだけに書かれた?」
「そのようです」
「この世にただ一冊の…」
「複製は、ありません」
駿一郎が、早苗を縛り上げて、ものさしで打ち据えている絵がある。
見覚えのある調度が、書き込まれている。
庵に到着して、真っ先に通された部屋そのものだ。

「あなたたちは、ゆっくり遊んでいらっしゃい」
早苗は、一足先に帰っていった。
夕飯は、料亭《竹贅》から取り寄せてある、今夜はゆっくり遊びましょう、
という家元の誘いを断るわけにはいかなかった。
夕食の時間には、早すぎる。
「蠏崎先生ゆかりの品は、ほかにもあるのですよ。ご覧になりますか?」
思いがけない家元の言葉に、私は喜んだ。
案内されたのは、住居の奥にある土蔵であった。
茶道具を大切に保存するだけでなく、蠏崎と真壁流家元との交友を示す多数の品があった。
鏑木早苗が、晩年の愛人であったことは、思いも寄らぬことであった。
有名なのは、作家の池端康成の妻、沙和子と愛人関係にあったことだ。
蠏崎夫人、松子を巻き込んだ4人の愛憎ドラマは、当時文学など縁のない人々にも、好奇の目で見られ
た。
その沙和子と蠏崎が逢瀬を重ねたのも、この庵であるから、ふたりのゆかりの品々も、多い。
一つ一つ、丹念に見ようとする私を、家元は押しとどめる。
「奥の部屋に行きましょう」
分厚い板戸の向こうに、ほのかに明るい部屋が広がる。
国宝級の茶道具や、蠏崎の遺品が納めてある前室が、ひんやりとした空気に包まれていたのとは対照的
に、
奥の部屋は、暖房が施されていて、暖かかった。
高窓から差し込む薄明かりに、磨き抜かれた板の間が、妖しく艶やかに光る。
そこには、責め具がそろっていた。
美しい仕上がりの、美術品のごとき責め具。
なるほど、蠏崎のこだわりがわかる。
「先代家元は、蠏崎先生のご趣味を理解してさしあげなかった。ただ、この場所を提供して差し上げた」
柱の配置、天井を走る極太の梁を眺めるうち、
ここが、蠏崎駿一郎、中期を代表する中篇、《蔵の中の淫舞》の舞台であることに気がついた。
「お家元、《蔵の中の淫舞》に登場する少年は、あなたではありませんか」
家元は、私をじっと見つめる。
私の心の奥底を覗き込むような視線。
わずかな間があって、家元は微笑み、かすかにうなずいた。

章子が、酒と肴を載せた膳を運んでくる。
美しい女だ。
薄紫色の着物が、よく似合っている。
琴音の着物には、家元の招きを受けるのにふさわしいものを選んだが、章子の着物も立派なものである。
章子の身体がかもし出す妖しい魅力をいっそう引き立てている。
この不思議な色香は、どこから出てくるのだろう。
家元が躾けただけではなさそうだ。
私が手にした盃に、章子が酒を注ぐ。
ほっそりとした色白の指。
手入れが行き届いて、美しい。
章子は、琴音と、家元に酌をして、家元の隣に座る。
「おまえもいただきなさい」
「はい」
2組のカップルが、向き合って座る。
琴音の正面に家元、私の正面に章子。
美酒だ。
「いい酒でしょう」
「ええ、さらりとした口当たりなのに、豊穣な味わいがありますね」
「ふふ」
「とても、心地よくなってきました」
ペニスが、硬くなる。
章子の妖しさのせいだけではなさそうだ。
琴音の頬も、ほんのりと朱に染まっている。
それは、欲情の証し。
これは、家元が仕掛けたことなのか。
何を仕掛けてくるのか。

「失礼しますよ」
家元は、傍らの章子を抱き寄せた。
口を吸う。
目を閉じて、章子は家元に応える。
抱き寄せた章子の胸元に手を差し入れて、胸をぐいと開いた。
「お客様が…」
「おふたりは、わかってくださる」
「章子、恥ずかしい…」
家元は、章子の帯を巧みに解いた。
章子が腰をよじった拍子に、すそがはだけ、ふくらはぎが剥きだしになる。
琴音が、戸惑う目つきで私を見つめる。
琴音を抱き寄せる。
「見ていてくれませんか」
家元は、章子との交接を見せたがっている。
私たちに見せることで興奮を高めようというのか。
わかりました、というように、家元に向かってうなずく。
それでも琴音を抱き寄せて、家元と章子の性交を見ていることにした。
琴音は、上体を私にもたせ掛ける。
家元は、章子の上半身を裸にした。
女らしい滑らかな曲線。
柔らかな肌。
綺麗な乳房だ。
先端に、小さな乳首。
それを吸いながら、家元は章子を横たえる。
乳首を吸われた快感に、章子はのけぞる。
家元は、章子を抱きかかえるようにして、着物を脱がせてしまう。
ほっそりした背中。
少年のような引き締まった尻。
「恥ずかしい…清澄さま」
家元も、手早く着物の帯を解いた。
着物のすそがはだけて、下半身がのぞく。
股間に、黒々とした陰茎が、屹立している。
私の肩をつかむ琴音の指に、力が入る。
章子を片腕に抱いたまま、器用に着物を脱ぎ捨て、家元は全裸になった。
「清澄さま…」
「章子」
「いやぁ」
恥じらいを含んだ章子のせつないあえぎ声。
家元の指が、章子の股間を撫で回す。
バックから攻めるのか、家元は章子の腰を抱きかかえる。
ああ…
章子は…
章子の股間には、だらりと陰茎が垂れ下がっていた。
「あっ」
琴音も気づいて、かすかに驚きの声を漏らす。
家元は、章子を四つん這いにさせる。
胸には乳房が、股間には陰茎が垂れている。
両性具有?
まさか…
家元は、章子の背後に回り、いきり立った陰茎を、章子の陰部にあてがう。
「あああっ」
章子は、愉悦の悲鳴を上げた。
家元の陰茎が、章子の直腸を刺し貫く。
「ああっ…ああっ…ああっ…」
家元は、両手でつかんだ章子の腰を引き寄せながら、
腰を引いては突き出し、突き出しては、引いた。
四つん這いの姿勢に耐えられなくなって、章子は肘をつく。
「ああっ…いいっ…いいっ…」
章子は、尻を突き出しながら、
私たちの存在など気にもならないのか、
淫らなあえぎ声を上げ続ける。
家元にくみ敷かれるようにして、
男根を持った華麗な女が、快楽に身を任せている。
家元の腰の動きに合わせて、章子の男根も、ピクンピクンと震える。
それが、滑稽なものには思えなかった。
家元と章子は、セックスに没頭していた。
章子は、身も心も家元にゆだねて、無我夢中で交わっている。
私は、我慢できなくなっていた。
琴音を抱き寄せ、帯を解き、裸にした。
溢れ出た蜜で、琴音の長襦袢の尻のところが、ぐっしょり濡れていた。
琴音の陰裂をまさぐりながら、家元と章子が達するところを見届けた。
重なったまま、こちら向きに横たわった家元の指は、章子の股間にある男根をしごいている。
いきり立った章子の男根は、家元の掌の中でヒクヒクうごめいている。
家元の手で、やがて達し、射精することになるのだろうか。
私は、着物を脱ぎ、琴音を抱き寄せた。

夕暮れ、山入端が赤く染まり、そして闇が降りてくるころ、食事をいただく。
家元と私は、蠏崎のことで話が弾む。
琴音と章子は、料理に舌鼓を打っている。
身体には、性交後の心地よい疲労感がある。
泊まっていけと家元が勧めるのを丁重に辞退して、車を呼んでもらった。

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