なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

Memory2:世界一の夕日とヴァイオリン

2015-10-28 | Memories


すべてに息詰まって、精神的に不安定になってしまった時期がある。
負の連鎖みたいに、感じてしまうと、いいことさえ見逃してしまう。

「夕日を見に行こう!」

そういわれても、その気になれなかった。
「・・・・嫌だなぁ」

正隆さんは、何も言わなかった。
でも、慌ただしく動き回っていた。
私は、ソファーに横になり、眺めていた。

「行くよ!」

手を引かれ、エレベーターに乗り込んだ。
エントランスを抜けると、タクシーが待っていた。

「空港まで!」
「え? どこ行くの?」
「夕日を見に行くんだよ!」


ここ数日、息してわずかな食事をしているだけだった。
「大丈夫?」って聞かれると、涙が出てしまうような状態
何が何だかわからない。
「どうしたんだ?」と、聞かれても、
「わかんない。」と、答えるしかない。
何かがあったわけじゃなくて、小さなものが少しづつ積み重なってしまった感じだった。
不安や迷いから疑心暗鬼になっていく。
自分でも、どうしようもなくなってしまっていた。

「どこ行くの?」

「夕日のきれいな場所だよ!
 でもその前に、少しだけ寄り道する。」


言われるままに、飛行機に乗った。
でも、飛行機を乗り換えると言われてびっくりした。
国際線?

2日かけてドイツに向かい。
パパとママに逢った。
その頃には、憂鬱な気分は消えていた。
どこかの海に落としてきたんだと思う。
パパとママとの時間を楽しんだ。
そして、日本を飛び出して7日目に

「夕日を見に行くよ!」

パパとママと一緒に見た夕日だって十分きれい。
ドイツは、何度か行っているけれど、あまり観光はしていない
だから、このチャンスに、古城を周った。
そこで見た夕日はきれいだった。
夕日に照らされるお城は、時間とともに色を変えてゆき
なんだか切なくなってしまった。

山に沈む夕日もし素敵だった。
日本も、山は多い。
でもやはり、ドイツの森とは違う。
ヨーロッパの森はやっぱりヨーロッパ
童話に出てくる、森って感じするもんね。
森の香りが違う。

どこへ連れて行ってくれるのだろう

翌日、パパとママに別れを告げ、飛行機に・・・

着いたところは、ギリシャ
ギリシャの遺跡の見えるホテルに泊まり、遺跡周りをした。
遺跡の向こうに沈む夕日、綺麗だった。
でも、正隆さんは、まだ、お楽しみといった。

翌日、小さな飛行機に乗って、小さな島に!
エーゲ海に浮かぶ、小さな島
見たことのある風景。
青い空、白い建物、青い屋根の教会。
私はそこが、サントリーニ島だとは、知らなかった。

エーゲ海のイメージの写真で見たことのある風景の中に、私は、立っていた。
数日前、何もかもが嫌になっていたことなんか忘れていた。
綺麗な海
嫌いだと思っていた海の香りが心地よかった。

夏だったら、観光客でにぎわっているそうだけれど、
冬のエーゲ海は、観光客は、数えるぐらいしかいないかった。
ホテルに2週間泊まる。

久しぶりに、ヴァイオリンを弾いてみたくなった。

下手だって、弾いてみたいこともある。
ホテルの人に聞いて、ヴァイオリンを借りることができた。
宿泊客は私達以外いなかったので、ホテルでの練習を許可してくれた。

弾ける曲は、多くない。
新しい曲を覚えるだけの意欲はない。
記憶の中のメロディーと指の記憶を頼りに弾いてみる
納得いかない。

そりゃそうだよね
私は何時だって、聞く方が得意。
良行さんや正隆さんが演奏するのを聞くばかりだった。
フルートもヴァイオリンも納得のいく腕前ではないからね。

楽譜を借りて、練習してみた。
でも、上手くできるわけがない。
でも、エーゲ海を見て、やってみたいと思ったのは確かなのだから
自分が納得するまでやってみたかった。

数日間練習していたら、曲を口ずさむようになり
耳には、曲が流れるようになった
夢の中でも、曲が流れるようになった。


その数日後、島の反対側の岬に出かけた。

「ここからの夕日が絶景なんだよ!」

夕日の時刻までには、時間があった。
近くのレストランで食事をしてから、夕方まで石畳の道を散歩した


夕方が近づくにつれ、気温が下がってきていたけれど
そんなこと気にならなかった。

石積みの塀のくぼみに座り、夕日を見た
言葉なんかいらない
こんな美しいものが、この世にあるのかと思った。

溢れて来る涙を止めることができなかった。
正隆さんは、そんな私を見ても何も言わなかった。

感動して涙が出る!

泣き虫だから、悲しくてもうれしくてもすぐに泣いてしまう。
感動して泣くってことだってあった。
でもこんなに切ないのに高揚したような感動は、初めてだった。

「良行さんにも見せたかったなぁ。」

この時、初めて、同じ風景を一緒に見たいという気持ちが生まれた。
私のこの感動を、良行さんも一緒に見てほしいと思った。

私の中には、ここ数大好きなエルガーの愛の挨拶が流れていた。
夕日と一緒に私の中にインプットされた。
あの日以来、夕日には、愛の挨拶が流れる。

上手くならなかったヴァイオリン
でも、
あの日のあの場所で、私が聞いたあの音は、確かにヴァイオリンの音だった。










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