日米首脳会談が2月10日、ワシントンで開催される。今後の4年間、あるいは8年間における我が国の経済および安全保障を律する重要なイベントである。
これに先立ち、アメリカはマティス国防長官を韓国および日本に派遣した。トランプ政権の有力閣僚による最初の訪問先が韓国および日本であったことの意味は大きい。
周知のように、トランプ大統領はアメリカ・ファーストを唱え、特にアメリカ国内における雇用拡大を最重要施策に掲げている。当然に、アメリカ市場に多くを輸出している国との軋轢が増す。日本もこうした国のひとつであるが、第一のターゲットは中国である。
アメリカはこれまで中国を北朝鮮に影響力を行使できる国として期待し、その見返りに中国の経済進出を寛大に見てきた。したがって、アメリカと中国の関係がギクシャクすれば、北朝鮮がより危険な存在になることは明らかである。北朝鮮は、それを予期していたかのように、アメリカ本土に届くミサイルの開発に余念がない。
トランプ大統領のアメリカ・ファーストにおいて、安全保障が経済より優先することは言を俟たない。中国との貿易不均衡の改善に成功しても、北朝鮮の暴走を押し止められなければ、元も子もないからである。
マティス長官の訪問は、アメリカ・ファーストを推進するうえで、中国との関係悪化を前提に極東アジアにおける安全保障の在り様を再構築する、というのがその目的である。国防長官はまず韓国を訪問した。恐らくその意図は、韓国がアメリカの同盟国として信頼できる国であるか否かを識別するためである。韓国は今、選挙で選ばれた大統領が職務停止中であり、政治の混迷が極みに達していている。
そうした韓国の状況を踏まえ、日本政府との協議を終えたマティス長官は、記者会見で次のように発言した。日本人の誰もがびっくりするような日本を肯定的に見た内容である。
(1)米軍駐留経費の負担について日本は他国のモデルになる。
(2)尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用を受ける地域である。
(3)中国の東シナ海、南シナ海における海洋進出および北朝鮮のミサイル開発は、日米両国に共通する安全保障上の問題である。
マティス長官は、独身を貫き、孤高の戦う修道士である。歯に衣着せぬ物言いと高い教養で知られており、トランプ大統領には、中国および韓国、そして日本との間における外交・軍事の在り方について、ストレートに自分の考えを伝えたであろう。
マスメディアの扱いは低いと思われるが、2月10日の日米首脳会談においてアメリカが最も重視するテーマは北朝鮮対策である。通常の経済制裁や軍事的威嚇では動かない北朝鮮を如何にして国際ルールの通用する国家に導くか、これがトランプ大統領がアメリカ・ファーストを進めるために喫緊に答えを出さなければならない課題である。この部分について、アメリカが日本に期待し、かつ、日本が果たすことのできる役割は多々あると考えられる。
中国が自国の利益のため北朝鮮カードを乱用し、両国の関係が冷え込んでいる現在、そして韓国が自国の統治さえまともにできない状態にある現在、日本の北朝鮮に対する影響力はこれまで以上に強いと考えられる。北朝鮮が最も渇望する外貨獲得のルートが日本に暗渠のように存在する。北朝鮮の最高権力者・金正恩の生母は日本生まれ、日本育ちである。そして、金正恩やその側近と日本政府の間を取り持つ人物に事欠くことはない。
日米首脳会談が北朝鮮を震源とする危機を緩和し、そのうえ長年の懸案であった拉致問題の解決の糸口にもなれば、これに勝る成果はない。安倍首相の頑張りを期待したい。