弱くなったな…
三毛猫は静かに認識する。
己の状況。
己の心理状態。
認識した上で己の気持ちと向き合う。
何を強さとし何を弱さとするのか。
その線引の基準を変えるべきなのか、そうじゃないのか。
悩むのだ。
弱さを得た己に対していつもなら懐く様な険悪な気持ちを今、三毛猫は一切、懐いていなかった。
いつもなら情けなさの余り自分を律しようと躍起になる様な状況だ。
なのに三毛猫は今、そんな気持ちすら湧かないのだ。
冷めた何かが浸透するかの如く只、現在の己の心持を見つめている。
今、どんな心境かを自分自身で精査するかの様に…
三毛猫はひとつ、ひとつ…
ゆっくり丁寧に時間を掛けて明確に己の中に落としていく…
そんな思考に耽る。
大事。
只、一言だけ呟くとまた三毛猫は思考に沈む。
大事なものは?
大事なことは?
大事なひとは?
大事な言葉は?
大事な思い出は?
ひとつひとつ己に落として色を付けていく。
モノクロからカラーに。
色彩ごと鮮明なまま残す為に三毛猫はモノクロになった記憶の映像から引っ張り出す。
其処にどの様な色だったかを思い出す。
そうやって思い出した色は鮮やかで…
三毛猫は過去の様々な記憶の映像を見つつ比べる。
本気で違う。
今迄の記憶の映像とは鮮やかさが違う。
三毛猫の過去の様々な記憶の映像を引っ張り出し色を付けても黒と白と灰の三色なのだ。
それが白狐との記憶の映像はまたその時を体験してるかの様に綺麗なのだ。
嗚呼、本当に厄介な。
三毛猫はこうも違いが出るものなのか。
そう感じると同時に何故か心が騒ついたのだ。
其処から様々な考えの様な感情の様な判断がつき難いものが三毛猫を襲う。
白狐に逢ったから視点が視野が変わったのだろうか…
それとも今迄があまりにも何事にも興味が無さ過ぎたのか…
判然としない。
両方…か?
三毛猫はそう感じた。
何が切っ掛けか迄は流石にハッキリしない。
でも白狐に逢って触れてから何かが変わり出したのは間違いなくて、其れ迄の己に足りないものが多々、あったのも興味関心が薄かったのも事実。
つまり両方合わさったから今に至る。
だからこそこんなにも違うのだろう。
僕(やつがれ)は…
良くも悪くも弱くなった…
独りきりでは生きれない種族なのに独りきりで在ろうとした。
けれど今は独りきりで生きようとはしない。
傍に居て欲しい、居たいと願う存在が居る。
少しずつ変わって征く。
それは今、持ってる強さとはまた違う強さへと変わっていく。
今、崩れて自覚した弱さは誰もが本来ならば抱える弱さ。
そして独りきりでは抱え切れないから誰かと一緒に抱える弱さなのだろう。
欠けていた何かを得たのならば此れは弱さではあるけど、必要な弱さ。
三毛猫はそう線引する事にした。
いつしかまた捨て去る日も来るかも知れない。
けれど今はまだこの弱さを抱えたままで居よう。
弱くはなったけれど、この弱さと向き合う強さは失ってはないだろうから。
そうして苦しくなったり、辛くなったら…
また、考えよう。
きっと今なら付き合い続けていけるだろうから。
三毛猫はそう心に決めるのだ。
今度こそ失わずに済む様に…
強くならなきゃな…