読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

今野敏著「海 風」

2025-02-13 | Weblog
幕末外交歴史小説。舞台は1853年(嘉永六年)六月、浦賀にその姿を現した四隻のアメリカ軍艦いわゆる黒船。強大な武力をもって日本に開国を求める艦隊司令長官・ペリーの対応に幕府は苦慮していた。開国か攘夷か。
隣国の清国がイギリスとの戦争に敗れ、世界の勢力図が大きく変わろうとするなか、小姓組番士・永井尚志は、老中首座・阿部伊勢守正弘により、昌平坂学問所で教授方を務める岩瀬忠震、一足先に目付になっていた岩瀬の従兄弟・堀利煕とともに、幕府の対外政策を担う海防掛に抜擢される。
強硬な欧米列強を前に、新進の幕臣たちが未曾有の国難に立ち向かう。
老中阿部伊勢守とのやり取りや下田や長崎の出島を始め、その後の外国との交渉に駆けずり回る様子が、現代口調のくだけた会話形式で分かりやすい。
清国と同じようにならない為には攘夷でなく国力を富ませ国を開くしかないと身をもって知り、現代へと繋がる日本の方向性を決定づけた重要な転換期を描がれていて面白い。
2024年8月集英社刊


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宮本輝著「よき時を思う」

2025-02-11 | ま行
東小金井にある、中国風四合院造りの建物から始まる。家主である三沢平馬は、夜になり、近くの欅の森の木が囁く言葉を聴いている。そこに、四合院の建物の一角を借りている金井綾乃が帰宅してくる。綾乃は三十歳、海運会社の経理部署で働いている。彼女は帰宅して、祖母の徳子に墨書で手紙を書く。綾乃の手紙に、徳子は朱を入れて、返してくる。九十歳になる祖母の徳子が、孫の世代に対して、未だに大きな影響を与えていることを知る。徳子は、戦後ながらく教職に携わってきた。彼女は、教え子たちに、そして周囲の人に大きな影響を与えてきた。徳子は、なぜ出征が決まった青年と結婚したのか?夫の戦死後、なぜ数年間も婚家にとどまったのか?そしてなぜ、九十歳の記念に晩餐会を開くことにしたのか?孫の綾乃は祖母の生涯を辿り、秘められた苦難と情熱を知る。徳子の生き方、溢れるばかりの知識や教養が人格を貫いている様子が挿話を挟みながら描かれる。よき時、それはかつての栄光ではなく、光あふれる未来のこと。いつか、愛する者たちを招いて晩餐会をと九十歳の記念に祖母の徳子が計画した、一流のフレンチシェフと一流の食材が織りなす、豪華絢爛な晩餐会。子どもたち、孫たちはそれぞれの思いを胸にその日を迎える。一人の命が、今ここに在ることの奇跡が胸に響く感動物語です。普通の生活者の自分から見ると上流社会に属する幸せそうな金井一家の豪華な食事風景と薀蓄にはちょっとうんざりしたが、個性豊かな登場人物描写と徳子おばあちゃんには感服。徳子おばあちゃんが自分のお気に入りを身内それぞれに生前贈与するくだりは面白いと思った。
2023年1月集英社刊


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薬丸岳著「籠の中のふたり」 

2025-02-04 | や・ら・わ行
恋人に去られ父親を亡くしたばかりの弁護士・村瀬快彦は傷害致死事件を起こし服役中の従兄弟の蓮見亮介の身元引受人となり、釈放後に二人は川越の家で暮らし始める。小学6年生のときに母親が自殺し、それ以来、他人と深く関わるのを避けてきた快彦だったが、明るくてお調子者の亮介と交流することで人として変化成長していく。だが、ある日、母が結婚する前に父親の安彦に送った手紙を見つけ、母は結婚前に快彦を妊娠していて、快彦に知られてはならない秘密を抱えていた衝撃の事実を知る。やがて、その出生の秘密は亮介の傷害致死事件とも繋がっていた。他人と触れ合うことの喜びと難しさ、人殺しの罪と贖罪。つらい過去を背負った二人が共に暮らすことで成長し、全ての過去と罪を受け入れ、本当の友達になれるのか・・・。母親の自殺、亮介の父親の失踪、そして亮介の犯罪そのものの真相とは。展開が予測できてしまう点もあるが、実は二人とも自分に厳しく、他人を思いやれる人達。これから先、決して平坦な道ではないだろうが、籠から抜け出し、助け合いながらささやかな人生が予想される結末は感動物語でした。 2024年7月双葉社刊 
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今野敏著「一夜 隠蔽捜査10」

2025-02-01 | 今野敏
シリーズ第13弾。大森署から神奈川県警刑事部長に栄転した・竜崎伸也のもとに、著名な小説家・北上輝記が小田原で誘拐されたという報が舞い込む。
犯人も目的も安否もわからない中、竜崎はミステリー作家・梅林賢の助言も得ながら捜査に挑むことに。劇場型犯罪の裏に隠された、悲劇の夜の真相とは。
 私利私欲とは無縁で、鮮やかさ、爽やかさ、清々しさの国家公務員。竜崎。
登場する捜査協力者であるミステリー作家は著者今野自らを重ねて書かれているのかな。いつもながら会話形式の展開は読みやすく痛快感一杯で読了。
2024年1月新潮社刊
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今野敏著「審議官 隠蔽捜査9.5 」

2025-01-27 | 今野敏
2006年から続くシリーズ第12弾。(スピンオフでは第三弾)信念のキャリア竜崎の突然の異動。その前後周囲にはこんな波瀾があった人気シリーズの名脇役たちが活躍する9つのスピンオフ短編。
米軍から特別捜査官を迎えた件で、警察庁に呼び出された竜崎伸也。審議官からの追及に、竜崎が取った行動とは・・・「(表題作)審議官」。家族や大森署、神奈川県警の面々など名脇役も活躍する、大人気シリーズのスピンオフ。「斎藤治警務課長は、全身から力が抜けてしまったように感じていた」たった今しがた、大森署を去っていった竜崎。新任の署長が一日遅れの時に事件発生・・・「空席」。「内助」「荷物」「選択」は、それぞれ竜崎の妻・冴子、息子・邦彦、娘・美紀の視点で描かれていて家族小説のようだ。竜崎の後任の大森署署長が新たに登場、美人で魅力的なキャリアの女性署長藍本百合子・・・「非違」神奈川県警に異動してからのエピソードも描かれる・・・「専門官」。「参事官」、「信号」は、「たてまえと本音」の相違、考え方が書かれた。一般の常識ではたてまえというのは表向きの意見で、本当のことは別にあるという意味に捉えられているかもしれないが、竜崎はたてまえこそが、真実だと断ずるのだ。なぜなら、たてまえを重んじることこそが、警察官僚の生きるべき道だと信じているからだ。鮮やかさ、爽やかさ、清々しさは何とも言えず、とにかく胸のすくような快感が、読んでいて全身に湧いてくる竜崎マジックが全編にあり満足感一杯の読後感でした。
2023年1月新潮社刊


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香能諒一著「鉄のほころび 刑事花房京子」

2025-01-27 | 香納 諒一
花房京子シリーズ第4弾。無人のはずの自動車修理工場で爆発が起き、アメリカで違法薬物を売って12年の懲役を受け出所後、国外追放された男田中精一が死んだ。現場に残されたパソコンから、国際テロ組織の指示による爆弾製作中の事故の可能性が浮上。警視庁がその線で捜査を進める中、花房京子は男の遺留品から疑問を持ち辿り接触したのは、元公安で犯罪評論家としてメディアを賑わす鉄の女と呼ばれる女性コメンテーター、角松麻由子だった。だが、週刊誌が角松と田中の繋がりをスクープし、事態は予想外の方向へ転がる。「鉄の女」の鉄壁のアリバイが一個づつ崩されていく展開。犯罪の裏に恋愛感情ありの結末は悲しみが残る。
2024年8月光文社刊

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青塚古墳

2025-01-23 | 
写真は青塚古墳。愛知県犬山市青塚の県内2番の大きさの4世紀に造られた前方後円墳を見に行きました。全長123m標高31mの立派な古墳。ここは私有地なので上には登れない。その為公園内にあるガイダンス施設を見学して古墳の周囲を歩いて、同じ犬山市内にある10k程離れた所の登ることが可能な東之宮古墳ヘ行き(全長72m)ウォーキング。古墳のある白山平に登る為に車の駐車場は犬山成田山のパーキングを利用。無料。

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雫井侑介著「互換性の王子」

2025-01-20 | さ行
互換性とは「置き換えても問題なく使える」という意味らしい。主人公は準大手飲料メーカー・シガビオの御曹司、志賀成功(なりとし)。彼はゴルフコンペの夜に泥酔して何者かによって別荘に監禁された。取締役就任と、意中の女性・山科早恵里とのデートを約束し交際を目前にしていたのだが。半年後、絶望の中で解放された成功が会社に行くと、退職扱いにされていて社内の状況は一変し、かつての彼のポストには突如現れた異母兄・実行(さねゆき)が入れ替わっていた。そして実行は早恵里にも近付こうとしている。「奪われたものは、奪い返さなければ」「仕事は作るか奪うかだ」、「与えられたもので満足していたら奪われた時に何も残らない」、「自分の力で地位を築いて替えの利かない人間にならなきゃ駄目なんだ」と、仕事に奮起する。成功は、事件の真相と自らの復権をかけて奔走する・・・。異母兄弟がビジネスと恋で火花を散らすエンタメサバイバルレース小説。監禁ミステリーかと読み始めたがビジネス小説のような恋愛小説のような主人公にあまり魅力を感じなかったがハッキリ物事を言う伴内星奈が良かった。「心から謝ってる人は許してあげなさい。それを許さないなら、あなた自身、一生引きずっていく覚悟が必要なのよ」(P152)
2023年12月水鈴社刊

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逸木裕著「祝祭の子」

2025-01-18 | あ行
2014年山梨県のある村にあった宗教団体コミューンで起きた大量虐殺事件。首謀したのは石黒望。彼女は幼い頃から軍事教練で鍛え洗脳してきた5人の少年少女を33人の殺人の実行役としたのだ。驚く事件に世間は震撼したが5人は年齢故に罰せられることがなかった。殺人を犯し生き残った子供は「生存者」と呼ばれ、その存在は多くの議論を呼んだ。時が経ち、生存者の一人わかばは警察に唯一逃亡していた石黒の遺体が発見されたと聞かされるが、その後何者かに自分も襲われる。共に暮らした仲間と14年目に再会するが彼らもまた被害に遭っていた。そんな過去と向き合いながら、襲い掛かる謎の刺客と対峙するサスペンス。大人になり、一般社会でひっそりと暮らしていた彼ら「生存者」の日常が突然崩されていく。SNSで身元をバラされ、次々とナイフで襲撃される。手口から相手は素人ではなさそうだ。敵は誰なのか。彼ら5人は生き残れるのか。主犯者の動機も、過去の契機も、一応書かれてはいるが納得できるものではないし、荒唐無稽な展開は不満だが、だからといって、まるで面白くないことはなくアクションミステリーゲームに引き込まれた如く、アクションシーンを想像しつつ、バイオレンスの映画の如く500頁楽しめた。後半小さなドンデン返しがセットされているが後味の爽快感は皆無。
「正義の本質とは、同質性の追求だ。正義によって染め上げられた社会では、異質なものは生き残ることは出来ない、正義を掲げる集団は、自分たちを同じ色に染めようとする。<お前は本当に正義なのか>と問い、答えられなければ排除されるだろう。すでに内ゲバがはじまっているのは、その証左だ。人は、そんなことでは結びつけない。・・・支配・被支配によってのみ、人は結び付けられるかも」(P100)
2022年8月双葉社刊




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柴田哲孝著「抹 殺」

2025-01-14 | さ行
2012年1月から2017年5月まで、日本国政府は自衛隊を南スーダンへ派遣していた。 過去にも自衛隊は海外派遣されているが、南スーダンでのPKO活動はその中で最も過酷とも言われている。その南スーダンでの過酷なPKOの中で、非戦闘地域での非戦闘活動のみとされていた自衛隊の活動が、実際には戦闘地域であった事などから、後に自衛隊日報隠蔽事件に発展する事となった。その自衛隊日報問題を題材に描かれた緊迫の軍事サスペンスミステリー。政府軍に占拠され人質になった国境なき医師団の邦人女性医師の奪還作戦を遂行し一人の隊員の犠牲者を出すも成功する。しかし、その作戦は隠蔽され、参加した隊員たちの命が次々と狙われていく。あの救出作戦は何のための闘いだったのか。「殺られる前に敵を殺れ」自衛隊特殊部隊「特戦群」では常に、そう教えられてきた。元自衛隊員の遺体がまた見つかった。共通するのは、政情不安下の南スーダンにPKO部隊として派遣された「特戦群」メンバーだったこと。俺たちは狙われている同じ隊に所属していた風戸亮司の疑惑は深まり、危機からの突破口を探り始める。時を同じくして長谷川麻衣子医師が南スーダンから帰国し愛娘と再会した。だがその直後、元夫は何者かにひき殺される凄惨な悲劇に遭遇する。彼の地に関わった者たちに迫る不穏な影の正体は? そして、その目的とは?史実と創作と虚実入り混じった小説だが愛知県内奥地過疎地で繰り広げられる在り得ない攻防はスリル感あり中々面白かった。
2024年9月光文社刊

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香能諒一著「川崎警察 真夏闇」  

2025-01-09 | 香納 諒一
「川崎警察 下流域」の第2弾。神奈川県警川崎署のデカ長・車谷一人の活躍を、昭和の刑事の生き様を描く警察ミステリー。舞台は沖縄返還を翌年に控えた川崎。京浜運河沿いで死体があがった。身元は暴力団員、伊波肇の母親照子。陰部をナイフで抉られ、腹部から腸がはみ出る陰惨な殺しだ。家族には手を出さないのがヤクザの掟のはずが対抗する組の犯行とするとなると、報復の連鎖で大変なことになる・・・。発見現場に臨場した川崎警察署捜査係デカ長の車谷一人は、軽のバンの荷台から不審な荷物を下ろして走り去ったふたり組の男がいたことを聞きつける。男の一人は足を大きく引きずっていたという。被害者は故郷の沖縄に里帰りし、事件当日午後二時着の飛行機で羽田空港に帰ってきた。だがその後の足跡が不明だった。翌年五月に沖縄は本土返還を控えており、帰郷はそれからの方が便利ではという大家に「返還されてからでは、遅い」と伝えたという。捜査を進めるうちに、有力容疑者として浮かびあがった男を、全力で探す車谷。だが、予想外のところで別の殺人事件が起きた。被害者は沖縄の開発や本土との交流に尽力しているという大阪の会社社長。本土復帰を目前にした沖縄を食い物にしようする者たちの暗躍が明らかになるにつれ、ふたつの事件が絡み合っていく・・・。昭和の世相をバックにその雰囲気漂う骨太で人情味に溢れた刑事の生き様が描かれていて、1971年の歴史的転換点の風景と臭いが又好い。沖縄の本土復帰以後も米軍基地問題、経済格差など解決されないことが思い浮かんだ。
2024年4月徳間書店刊  

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堂場瞬一著「ポップ・フィクション」 

2025-01-05 | 堂場瞬一
「POP FICTION」とは「通俗」。大正時代1920から1930年、出版華やかなりし頃。徳川夢声、谷崎潤一郎、作家や文化人たちが侃々諤々の議論を交わしながら、面白いものを作ろうと奮闘し、100万部突破の上昇雑誌を作くろうとする様を描いた人間ドラマお仕事小説。主人公の「市民公論」編集部の松川は、担当した企画のせいで、筆者が帝大を追われることになり窮地に立たされていた。奔走する松川に、主幹は驚きの決断を下し対立し衝動的に退職する。同じころ、当代きっての人気作家・菊谷は、「書きたいものを書く」ための雑誌を立ち上げようとしていた。1年の浪人の後、菊谷が立ち上げた文芸誌「文學四季」のテコ入れに参加する。関東大震災を経験してそこでも菊谷と対立して退職。大衆雑誌「エース」創刊に誘われる。主人公、菊池寛、芥川龍之介や中央公論、文芸春秋、講談社・キングなどの雑誌は仮名になっているのを想像しながら一癖も二癖もある登場人物たちやり取りを読むのも楽しかった。
2024年10月文藝春秋社刊 

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篠田節子著「四っの白昼夢」

2025-01-03 | 篠田節子
コロナ禍がはじまり、終息に向かった。これは目眩? 日常の隣にある別世界。分別盛りの人々の抱えた困惑と不安をユーモアと活力あふれる文章で描く四つの中編集。
ミステリー、人間ドラマ、ホラー、ファンタジー。売れっ子イラストレーターの妻、音楽家の夫。30代の夫婦が不動産屋の仲介で移り住んだ理想の家。しかし夫が出張中のある夜、天井から異様な物音がする。気のせいかも、事故物件か。そしてある日、夫婦は隣家の秘密を知ることになる。・・・「屋根裏の散歩者」
酔い潰れ、夜更けの電車内でヴァイオリンを抱いて眠る老人が、慌てて下りていったさいの忘れ物は、なんと遺骨だった。有名なピアニストと再婚した「才女好き」と噂された公務員の男の、四十年に及ぶ家庭生活に、秘められたものはいったい何だったのか。・・・「妻をめとらば才たけて」。
 亡き父の後を継いだレストラン経営がコロナ禍で破綻に瀕している。家庭がきしみ始め、しっかり者の母が倒れ、妻は子供を連れて出て行く。負の連鎖の中でどん底の男が、はまった沼は、因縁付きの謎の植物。完璧なフォルム、葉の緑のグラデーション。マニアの世界は地獄より深かった。・・・「多肉」。知症の義母が亡くなりようやく見つけた葬儀用の遺影。素敵な笑顔のしかしその肩先には人の手が写り誰も知らない男が一緒に写っていた。背景からすると、近くの動物園で撮影されたようだ。慎ましく物静かで、実の娘息子にも本音を語ることのなかった人の心の内にあったものは何だったのか・・・「遺影」現実と非現実の裂け目から見えた、普通の人々の暮らしと日常の裏側。人の心の不思議と腑に落ちる人生のリアリティにあふれる力作です。


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小牧山で初日の出

2025-01-01 | Weblog
今年の初日の出は小牧城のある小牧山。木立ちが高くなり見難くなりましたが沢山の人と一緒に初日の出を拝みました。「今年も健康で無事に過ごせますように」



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逸木裕著「五つの季節に探偵は」

2024-12-31 | あ行
2022年第75回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞作。 「人の本性を暴かずにはいられない」探偵が出会った、魅惑的な5つの謎。高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚えて・・・「イミテーション・ガールズ」。探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまう・・・「スケーターズ・ワルツ」。香道の教室で起きた龍涎香をめぐる盗難事件・・・・「龍の残り香」。リベンジポルノの被害者妹の兄からの依頼で別れた恋人の行方を探す・・・「ゴーストの雫」他に「開錠の音が」。「世間など関係なく、自分のルールを作ってそれに従って生きている人間」が最強だと思っている主人公は、必然的にそのような強い人間でもあるため、探偵活動を生きがいとしてライフワークとしている。高校・大学・探偵新人時代・女性探偵課の課長として16年間のエピソードが描かれている。そこまで暴かなくてもというシーンもあるが小さな意外な謎解きが心地好い。
2022年1月KADOKAWA刊   


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