「武揚伝」「くろふね」「英龍伝」幕末伝小説の第4弾。主人公は欧米列強が開国を迫る中、蝦夷地を調査し、万延元年遣米使節団として世界を旅した仙台藩士・玉虫左太夫。薩長新政府に対抗すべく奥羽越列藩同盟成立に奔走し、命懸けで米国で見てきた「共和国」樹立の夢に挑んだ男の波乱に満ちた生涯を描いた感動作。まじめで向学心の旺盛な仙台藩士の玉虫勇八少年後の左太夫が、時に理不尽ないじめに遭いながら、生きるためには養子に入ったりしながらも、できれば長く学業の中に身を置きたいと願い江戸に出る。学業探究によって磨かれた左太夫の知性と観察力と記録力はやがて花開き、周囲から求められる人材へと成長する。しかし時代は激動の幕末、寄る攘夷と開国の大波に左太夫も仙台藩も翻弄されてのみこまれてゆく。幕末当時の仙台藩のおかれた事情が左太夫を通して描写されていて、なぜ奥羽越列藩同盟設立の立役者であった仙台藩が中途で脱退せざるを得なかったのか、それにより主人公が非業の最期を迎え歴史上から埋もれさせられたかがよく解る。ペリー来航や蝦夷地視察でのアイヌの様子や米国視察の様子が面白く興味深かった。47歳での切腹歴史の非情さ運命の烈しさに惜しい人材を無くした思いだ。
2024年8月毎日新聞社刊