「川崎警察 下流域」の第2弾。神奈川県警川崎署のデカ長・車谷一人の活躍を、昭和の刑事の生き様を描く警察ミステリー。舞台は沖縄返還を翌年に控えた川崎。京浜運河沿いで死体があがった。身元は暴力団員、伊波肇の母親照子。陰部をナイフで抉られ、腹部から腸がはみ出る陰惨な殺しだ。家族には手を出さないのがヤクザの掟のはずが対抗する組の犯行とするとなると、報復の連鎖で大変なことになる・・・。発見現場に臨場した川崎警察署捜査係デカ長の車谷一人は、軽のバンの荷台から不審な荷物を下ろして走り去ったふたり組の男がいたことを聞きつける。男の一人は足を大きく引きずっていたという。被害者は故郷の沖縄に里帰りし、事件当日午後二時着の飛行機で羽田空港に帰ってきた。だがその後の足跡が不明だった。翌年五月に沖縄は本土返還を控えており、帰郷はそれからの方が便利ではという大家に「返還されてからでは、遅い」と伝えたという。捜査を進めるうちに、有力容疑者として浮かびあがった男を、全力で探す車谷。だが、予想外のところで別の殺人事件が起きた。被害者は沖縄の開発や本土との交流に尽力しているという大阪の会社社長。本土復帰を目前にした沖縄を食い物にしようする者たちの暗躍が明らかになるにつれ、ふたつの事件が絡み合っていく・・・。昭和の世相をバックにその雰囲気漂う骨太で人情味に溢れた刑事の生き様が描かれていて、1971年の歴史的転換点の風景と臭いが又好い。沖縄の本土復帰以後も米軍基地問題、経済格差など解決されないことが思い浮かんだ。
2024年4月徳間書店刊
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