読書備忘録

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奥田英明著「罪の轍」

2021-03-20 | 奥田英朗
刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独を描いた犯罪小説。東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。北海道の礼文島に暮らす漁師手伝いの青年宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために島から逃亡する。彼はサロベツで無人の林野庁詰め所から作業服と腕章を盗み出した。その1カ月後。東京の南千住で殺人事件が起きる。捜査する刑事の耳に、怪しい男の情報が入ってきた。下町には似つかわしくない、林野庁の腕章をつけた男がうろついていたというのだ。捜査本部はその男を捜そうとするが、隣接する浅草署管内で小学生男児の誘拐事件が発生し、捜査員を割かれてしまう。一方警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつけるのだが・・・。浅草の男児誘拐事件の発生は、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。ところがこのふたつの事件は無関係ではなさそうで・・・。礼文島の昆布漁、幼小期に継父から強いられた当たり屋、その結果としての脳機能障害とトラウマ、窃盗、幼児誘拐、山谷、暴力団など当時の世相がよく調べられていてある意味懐かしい。・・・前回の五輪前年と今回の五輪前年(震災復興、2020年のコロナ禍時代)を対比して考えてしまった。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアルで描いた物語をじっくり楽しめた傑作ミステリー小説でした。
2019年8月新潮社刊

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