主人公は恋人を東京に残主人公して罪を犯した少年少女や親たちと面会を繰り返す30代の独身、福岡家裁北九州支部の少年係調査官。少年犯罪、貧困、毒親、虐待、障害・・・様々な理由で問題を起こし、家裁を訪れる少年少女や保護者たち。少年係調査官である庵原かのんの仕事は「臨床の専門家」として、彼らの“声なき声”に耳を傾けること。家庭や学校、社会が抱える問題にぶつかりながら、かのんはどんな人間に対しても諦めず、生きる力を信じて正面から向き合い更生を信じて奔走する6つの連作短編。補導委託先から急にいなくなった少年が、お使いの途中、母に似た人を見つけ追いかけていき、補導委託先に帰ってこない。一緒に暮らした期間も短ければ、愛情に包まれた記憶もないはずなのに、それでも少年は母親を求めて・・・鳥獣保護法違反「野良犬」。父親はペルー人(スペイン語)、母親はフィリッピン(タガログ語)、少年は日本で生まれ日本語しか話せない。そんな状況下で、家庭ではどのようにしてコミュニケーションを取っているのか?暴走族・・・「パパスの祈り」。「我が家の常識は世間の非常識」建造物侵入と遺失物等横領・・・「おとうと」。他に「自転車泥棒」強制わいせつ罪・・・「アスパラガス」売春防止法違反・児童福祉法違反・・・「沈黙」傷害・器物破損・・・「かざぐるま」。虐待や貧困など、事件を起こす少年達は皆、大人の知らないトラウマを抱えて心が歪んでいる。そんな彼ら彼女らに寄り添い、凍った心の内を優しく溶かしていく主人公の奔走ぶりが小気味よい読後感。是非続編を。
2022年8月新潮社刊
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