深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

見ることは人間の歴史で最初の魔術である

2020-06-15 21:06:16 | 趣味人的レビュー
見ることは、人間の歴史で最初の魔術だ。ゆえに、多くの土地において邪視(イーヴル・アイ)は怖れられ、同時に自然界にあるいくつかの神秘的な現象も瞳として解釈された。
(『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 case.魔眼蒐集列車』より)

人体というのは極めて複雑なものだから、人の感覚器についても、もちろん「全て完璧に分かった」ということは未来永劫ないとしても、現時点でもかなりのことは分かっていると思っていた。けれども、この本はそんな思い込みを木っ端微塵に吹っ飛ばす──これはそういう本だ。

この本──『ヒトの目、驚異の進化』は、理論神経学、進化神経生物学の研究者、マーク・チャンギージーが、人間の目をテーマにした自身の論文を元に一般の読者向けに書き上げた科学書である。学術論文がベースだが、各章のサブタイトルが振るっている。全体は大きく4つの章から構成され、それぞれが

第1章 感情を読むテレパシーの力
第2章 透視する力
第3章 未来を予見する力
第4章 霊読(スピリット・リーディング)する力

となっていて、そこから目と視覚についての知られざる力を浮かび上がらせる。
サブタイトルだけ見ると、まるでスピリチュアル系の書籍で見かける「超能力開発のすすめ」のようだが、チャンギージーが述べるところでは、こうした能力はこれから苦労して開発しなくても、既に我々は当たり前のように日々使っているものだ(「霊読」についてはトレーニングが必要だが、それはもうほとんどの人が学校教育で身につけている)。

このサブタイトルは読み手のモチベーションを高めるための単なるギミックで、ここに書かれたテレパシー、透視、未来予見(未来予知)、霊読といったことを大真面目に期待しすぎると「な~んだ┐( ̄ヘ ̄)┌」ということになってしまうが、この本の本当の面白さと凄さは、この「な~んだ」を越えた先にある。そういう失望と興奮をナマで味わってほしいので、これ以上は何も書かない。

その代わりと言っては何だが、多分、他の人は絶対に書かないだろうという視点から、この本について述べておきたい。

この本は『ヒトの目、驚異の進化』というタイトルの通り、目と視覚について論じている。それは我々ヒトが五感の中でもひときわ視覚に頼るところの大きい種だから、ということでもある。では例えば、我々が犬から進化した鼻と嗅覚を頼みとする種だったとしたら? 実は目とは違う形で(この本の章のサブタイトルを使えば)テレパシー、透視(透嗅?)は案外簡単にできる。未来予見(未来予嗅?)もやりようによっては可能だろうが、それ以上に時間情報に関しては、嗅跡によって過去のついての情報が簡単に得られる分、視覚に頼る種より優位に立てるかもしれない。ただ霊読は私にはどうするかちょっと想像できない(とはいえ嗅覚人類はそれを可能にしてしまうだろう)。
では、耳と聴覚ではどうか? これもテレパシーと透視(透聴?)は十分可能。未来予見(未来予聴?)は目の場合と同じだが、光に比べて音は伝わるのが遅いため、予聴の精度を確保するために脳の負担は大きくなるだろう。聴覚による霊読は今でもできている。

結局、どんな感覚にも有利な部分と不利な部分があって、生物は一つの感覚で欠けている部分は他の感覚で補い、使いやすい感覚は更に洗練させるように進化してきた、ということだ。つまり『ヒトの目、驚異の進化』も、目や視覚が他の感覚器官と比べて特別だとか優位にあるということを示すものではないのだ。


──と、そう述べておいて、いきなりその前言をひっくり返すようだが、それでも目という器官は他の感覚器官とは違う何かがあるように感じる。例えば、誰かが私の匂いをずっと追っていても、私にずっと耳をそばだてていても、あまり脅威とは感じないが、誰かが私をずっと見つめていたら、常ならざる何かを感じずにはいられない。実際、日本語でも「~に目をつける」という言い回しがある(なお「鼻をつける」、「耳をつける」、「舌をつける」といった言い回しはないが、「~に手をつける」という言い回しはあって、これは「直接触れる(=手に入れる)ことができるくらい(物理的/心理的/…に)近い距離にある」というニュアンスを持っている。それに対して「目をつける」場合、(物理的/心理的/…に)視覚に入る必要はあるが、そこにあまり距離のニュアンスはない)。
その意味で、目とはそれを向けた相手に働きかける何か特別な力を持った(あるいは、そんな力があると思わせる)器官なのである。

その上で、改めてこの記事の冒頭で引用した「見ることは、人間の歴史で最初の魔術だ」という言葉を考えてみると、不思議に納得できるものがあるのではではないだろうか(ちなみに、この言葉は小説からの引用であって、実際に魔術の世界でこのようなことが言われているのは分からない)。

※「本が好き」に投稿したレビューを加筆したもの。


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