2020年春期のアニメは、新型コロナの感染拡大の影響で放送延期や放送中断になる作品が相次いで寂しい限りだったが、それでも粒ぞろいの作品が揃っていたように思う。中でも『波よ聞いてくれ』と『イエスタデイをうたって』の2本は出色の出来で、仮に全ての作品が予定通り放送されていたとしても、この2本が春期のトップ2になることは揺るがなかっただろう。
で、最終回を前にそのうちの『波よ聞いてくれ』について語るので、聞いてくれ。
『波よ聞いてくれ』の第1話は、主人公の鼓田ミナレがラジオの生放送で、朝の3時半、北海道のある川岸でヒグマにガン見されていると語るシーンで始まる。第1話の内容をかいつまんで述べると──
親に「鍼灸師の弟子になる」と大嘘をついて帯広から札幌に出てきて(←これは第1話では語られていない)、今はスープカレーの店「ボイジャー」で働いている(ウェイトレス兼ブログ担当)鼓田ミナレは、つき合っていた須賀光雄が貸した50万を持ってトンズラしてしまい、飲み屋で初対面のオヤジ相手にくだを巻いていた。次の日、気を取り直して仕事に戻ったミナレは「ボイジャー」でいつも店内に流しているラジオから、前の晩、自分がオヤジ相手に語ったその音声が突然流れ出すのを聞く! 実はそのオヤジ、麻藤兼嗣は藻岩山ラジオ(MRS)のディレクターで、密かに録音していた飲み屋でのミナレとの会話を予告なしにラジオで流したのだ。血相を変えて店を飛び出し、MRSに飛び込んで放送を止めようとするミナレを、麻藤は「番組を止めるなら、お前の責任で間を持たせろ」とブースに座らせ、生放送で好き勝手にしゃべらせてしまう!
ちなみにヒグマの件がどうなったかはここには書かないので、興味があるなら本編を見てね。でも、まぁPVくらいは貼っとこうか。
そういうわけで『波よ聞いてくれ』はラジオの話だ。原作は『無限の住人』の沙村広明による同名のマンガ。コッソリ録音していたものを相手の許可もなく、音声加工もせず、公共の電波に乗せちゃうのは、さすがにコンプライアンス的にマズいだろうとか、全く未経験のシロウトを、ただ滑舌がいいというだけで、いきなり台本なしのぶっつけ本番で生放送でしゃべらせてしまうなんてあり得ないとか、ツッコミどころ満載の第1話だったが、第2話以降、ミナレは「ボイジャー」で働きながら、MRSで週1回、ラジオ番組のパーソナリティを務めることになり、その内容が彼女やその周囲の人たちの人生とリンクしていくことになる。
私自身はあまり「ラジオを友として」ということもなかったが、高校の頃はNHKのラジオ・ドラマにハマった(ラジオ・ドラマにはTVドラマや映画にはない、独特のリアリティと世界観がある)。泡坂妻夫の『乱れからくり』や天童真も『大誘拐』は、そのラジオ・ドラマを通じて知った作品だ。大学から会社員になった頃は「中島みゆきのオールナイトニッポン」(時には「谷山浩子のオールナイトニッポン」も)を聞いていたことがあるくらい。『波よ聞いてくれ』は、そんな私が面白いと太鼓判を押せる作品だから、ラジオ大好きという人なら間違いなく好きになれると思う(『無限の住人』の作者が描いてるのだから、スベりようもないのだが)。
OPの「aranami」やEDの「Pride」が、とてもいい。
今日より明日がどうとか言ってるうちに今日は去って…(「aranami」)
変わらないものなどないことを 知ってもなお変わらずいたいと願う…(「Pride」)
など、聞いてると胸に刺さる。
そして今回、鼓田ミナレを演じている杉山里穂は、これが声優としてのデビュー作だという。まるでベテランかと思わせる、新人らしからぬ堂々とした演技は見事! この杉山里穂の鼓田ミナレに出会うだけでも、『波よ聞いてくれ』を見る価値はあると思うのだ。
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