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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

アルキメデスの大戦

2019-08-01 21:39:10 | 趣味人的レビュー

8月は広島、長崎の原爆慰霊祭、そして終戦記念日があることもあって、テレビでは戦争をテーマとした番組が増えるが、そんな中、1本の映画が公開されている。戦争をテーマにしているが「戦争映画」ではない。これは第2次大戦前夜、日本が戦争へと向かうのを数学によって止めようとした男の話。その男の名は櫂直(かい ただし)という。

映画『アルキメデスの大戦』は、週刊「ヤング・マガジン」に連載中の同名のマンガを映画化したものである。

1933年(昭和8年)、海軍省の会議室で大角岑生(おおすみ みねお)海軍大臣を交えて次期新艦建造計画が話し合われていた。この時、今後の海戦は航空機を主力とする航空戦になると考える山本五十六、永野修身(おさみ)らが航空母艦の建造を提案したのに対し、海戦とは戦艦同士の砲撃戦であると主張する島田繁太郎らが提案してきたのは、未曾有の巨大戦艦建造計画だった。しかも設計を担当した造船中将である平林忠道の試算によると、建造費の見積もりは山本らの航空母艦を下回るという。
結局この日の会議では結論は出ず、2週間後に改めて海軍としての最終案を決定することになったが、このような巨大戦艦建造は国家を戦争へと駆り立てることになる、と危機感を抱いた山本と永野は島田らの案を潰すべく動き出す。そこに白羽の矢が立ったのが、東京帝大数学科で天才と呼ばれながら、書生として身を置いていた尾崎家から娘に手を出したと疑われ、帝大を退学となった櫂直であった。「軍人は嫌いだ」と山本の誘いを突っぱねた櫂だったが、山本の「島田案が通れば日本は戦争へと突き進むことになる」という言葉に突き動かされ、山本、永野の後ろ盾により海軍省主計局に少佐として入り、数学を武器に2週間で巨大戦艦建造計画を覆す「戦争」へと身を投じることになる。彼らの目論見は果たして成功するのか?

せっかくなので、ここで公式による予告編を貼っておこう。


この話はフィクションだが、史実を元にしており、我々は実際の歴史がどうだったかを既に知っている。そしてこの映画は冒頭で、櫂が建造を阻止しようとした戦艦大和が出撃し、米軍による空からの攻撃で大破、轟沈するまでを(多分様々な記録に基づいてかなり正確に)観客に見せてしまう。しかし、だからといって物語が退屈だということはない。というか、かなり面白い。既にマンガで読んで展開をある程度知っている私が見てそうなのだから、何も知らないで見たらその何倍も面白いと思う。軍機の壁に阻まれる櫂がほとんど孤立無援の中、どのように巨大戦艦建造計画を突き崩していくか、という物語の主軸部分はもちろん、組織の意思決定の問題や官民の癒着の問題など、この作品が描くテーマは深く、そして極めて今日的だ。

ころろで今回、映画館で非常に印象的だったのは、親子連れで来ている人が何人もいたことだ。私もそれなりに映画を見に行っている方だと思うが、友達同士、恋人同士、夫婦で見に来ている人はよく目にするが、親子連れがこれほど多いというのは、ほとんど記憶がない(子供向けアニメならあり得るかもしれないが、もちろん『アルキメデスの大戦』は子供向けアニメではない)。こういう映画をきっかけに親子で近現代史に興味を持つようになるなら、それはとてもいいことだろう。

とはいえ、実はこの作品には大いに気になるところがあるので、最後にそれについて書いておこう。
櫂直は数学の天才という設定で、長大な計算もスイスイこなしてしまうが、大学時代、数学科に籍を置いていた私に言わせれば、計算の得意な数学科の人間など見たことがない。「計算するのが好き」、「計算が得意」という人は数学科より物理や工学などに進むべきだし、その方が持てる力がずっと生かせる。数学科にも確かに計算力は必要だが、そこで言う「計算力」とは普通の人が普通にイメージするような(つまり映画の中で櫂が使ってみせたような)「計算力」ではない(ちなみに、ああいう数値計算なら、数学科では1+0=0+1=1とか、1+(-1)=0といったレベルの計算ができれば大体間に合う 笑)。


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