オミクロン株を中心とした新型コロナ感染第6波も終わりが見えつつある昨今だが、最近になってある治療家の先生が、しきりにメルマガでコロナ関係の情報を発信している。
そのメルマガに曰く、「ワクチンは体に入れてはならない毒」、「新型コロナ・ウィルスなど存在しない」、「PCR検査はフェイク」、「パンデミック騒ぎは意図的に行われた予行演習」、……。
新型コロナのアルファ株によるパンデミック(広域感染爆発)が起こった当初は、「コロナはただのカゼ」論やコロナ生物兵器説などがネットを中心にあちこちで語られたりしたものだが、さすがに2年も経ってそんな話もなかなか見なくなったな…と思っていたら、何と治療家が陰謀論まがいの怪しげな説を発信し始めたとは!
しかも先生が書くには、こうした説は「現在世の中で正しいと思われている情報には嘘がいっぱい紛れていると感じてい」て、マスコミが公表せず隠している情報を独自に調べて入手したものであり、「テレビや新聞など大手マスコミの発信する情報を鵜呑みにしている人はびっくりするくらいにそれ以外の情報を何も知」らないので、そういう人たちに世界の真実を伝えたい、ということのようだ。先生によれば、世の中は9割の「間違った常識にとらわれ不自由に生きる人」と1割の「真実に目覚めて豊かに幸せに生きる人」に2極化していて、自分は新しい価値観(というのは多分、この先生の発信する情報のこと)を共有できる人たちと繋がっていきたい、と。
ちなみに、この先生のやっている治療院は非常に繁盛しているようで、以前から治療法や治療院経営についてのセミナーや教材の販売も行っている。私は先生本人とは一面識もないが、実は以前に一度、教材を購入したことがある。内容はスピ系的な色合いが強いものの、述べていることは至極真っ当で、その後も参考にさせてもらっている。
そんな先生が、しかもコロナも収束しつつある今になって、こんな話を矢継ぎ早やにメルマガで打ち出してくるとは意外や意外!というのが正直なところだ。本人的には「常に宇宙・自然の法則という観点からみてホントウのことを追究していきたい」としてきた結果だということらしく、その意味で矛盾はないのかもしれないが、それがよりにもよってこんな陰謀論まがいのところに行ってしまうとは!
とはいえ、かくいう私も陰謀論は大好きだ。例えば「9・11米同時多発テロはアメリカ政府(の一部)による自作自演」だという説を今も強く支持している(ベンジャミン・フルフォードやマイケル・ムーアの主張に感化された面もあるが、事件発生直後から感じていた違和感のようなものが今も拭えないためだ)。だから、こうした陰謀論にハマる人たちの気持ちもよく分かる。
陰謀論の多く(ほとんど?)は、「世の中にはほとんどの人が知らない隠された真実があり、その真実を私(たち)は知っている。だから私(たち)には、その真実を多くの(無知な)人々に伝える使命がある」という形で語られる。それはつまり「私(たち)は(世を救う)特別な存在だ」ということであり、自尊心やある種のメシア(救世主)願望を満たすことができる甘美な体験なのだ。まさに“陰謀論は蜜の味”である。
恐らく件(くだん)の先生も、コロナ禍で精神的にどこか不安定な状態で「宇宙・自然の法則という観点からホントウのことを追究」する中で、奇妙な陰謀論に絡め取られてしまったのだろう。私も含めて手技療法家、自然療法家といった類の人たちは、元々どこか西洋医学的なものに反感や不信感を持っていたりするものだ(そもそも「西洋医学万歳、西洋医学素晴らしい」ということなら医者になればいいわけで、そうせずに治療家などというマージナル(周辺的)なポジションにいるわけだから)。そういう反西洋医学的なバイアスを持った人たちは、そういう情報にアクセスしがちだし、その結果、そういう情報こそが真実だと信じて疑わなくなる。けれども、ネットであれリアルであれ「ほとんどの人が知らない隠された(世界の)真実」が、ちょろっと探せばすぐ見つかるほど無造作に置かれているわけがない。
それによく言われることだが、「事実は1つだが、真実は人の数と同じだけある」。真実はそれを信じ、それを語る人と同じ数だけ存在する。だから「これが(世界の)真実だ」などと語る者には、最も用心しなければならないのだ。
ただ私はそう言いつつも件の先生のメルマガは解除していない。だって面白いから。この先、どんな陰謀論が飛び出してくるのか、実はちょっと楽しみだったりしている。
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