これはウェイバー・ベルベットの、その後の物語だ。
魔術師(マスター)と、それが召喚した英霊(サーヴァント)がタッグを組み、7つの陣営に分かれて万能の願望器《聖杯》を賭けて戦う殺し合い──聖杯戦争。その第四次聖杯戦争を描いたアニメ『Fate/Zero』については、過去に「始まりの場所」、「同2」、「同3」などで書いてきた。けれどそれらの記事でウェイバー・ベルベットには一度も触れなかった。
第四次聖杯戦争が始まる前、ウェイバー・ベルベットは英国魔術協会(通称時計塔)の12人のロード(lord、日本語では卿、公、君主などの意)の1人、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが主宰する教室の生徒だった。だが「魔術師とは家柄と才能が全て」という師、ケイネスに反発し、ウェイバーはケイネスが英霊召還に使うはずだった聖遺物を盗み出して聖杯戦争の舞台となる冬木(ふゆき)市に飛ぶ。そして彼は召喚したライダー・クラスの英霊、征服王イスカンダル(つまりアレクサンドロス大王)とともに第四次聖杯戦争に参戦するのである。
ここでウェイバーとライダー(イスカンダル)の関係が描かれた、『Fate/Zero』屈指の名シーンがあるので貼っておこう(ここは『Fate/Zero』の物語を知らなくても見られるシーンだ)。
ケイネスもまた別の聖遺物を使ってランサー・クラスの英霊を召喚し、第四次聖杯戦争を戦うも敗死。だがウェイバーは、死にゆくライダーの背中を最後まで見つめ続けながらも、ライダーからの「生きよ」という言葉に従い、大きな悲しみと痛み、喪失を抱えながらも生還する。
聖杯戦争を生き残った彼はロンドンに戻ると時計塔からエルメロイ教室を買い取り、それを現代魔術科として再生させた。そしてケイネスの義理の妹(実際は姪)で、亡きケイネスに代わってエルメロイ一族の当主となったライネス・エルメロイ・アーチゾルテが成人するまで、時計塔におけるエルメロイ一族のロードの地位を守るため、ロード・エルメロイⅡ世を名乗ることになる。
アニメ『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿{魔眼蒐集列車 RAIL ZEPPELIN}Grace Note』は、そんな聖杯戦争から10年を経たウェイバー・ベルベット=ロード・エルメロイⅡ世の物語だ。『Fate/Zero』がいわゆるバトル物なのに対して、こちらの『事件簿』は魔術師が関わる不可解な事件を解き明かす推理物。
ロード・エルメロイⅡ世は、彼の内弟子で自分のことを「拙(せつ)」と呼ぶ不思議な少女、グレイや、エルメロイ教室の教え子、フラット・エスカルドスとスヴィン・グラシュエートの協力を得て、ライネスが持ち込んでくる厄介な事件の調査に当たるのだ。
作品の基調(トーン)は全体的に内省的で悲しげで、色で言えば錆色のような感じ。元々魔術師の家系の出身ではない彼がなぜ魔術師を志し、また彼の実の家族がどうなっているのか、といったウェイバーに関する背景は『Fate/Zero』でも全く描かれていないが、第四次聖杯戦争で彼にとって相棒であり師であり、多分父親でもあるライダーと出会い、そして別れた彼が、10年を経て魑魅魍魎の集う時計塔という新たな戦場で自分の人生をどう取り戻していくのか、ということが描かれるといいな、と思う(私は原作を読んでいないので、この先、物語がどう展開していくのかは知らない)。
永遠のものなどない。全ては変わりゆく。それは人も例外ではない。
最後に公式がノンクレジット版OPを公開しているので、それを。なお魔術回路がない人には歌が聞こえず、インストゥルメンタルになってしまう(嘘)。
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