エドガー・アラン・ポーは詩人としても知られるが、その中に"Alone"という詩がある。私がその詩を初めて知ったのは、ルース・レンデルのミステリ『わが目の悪魔』の冒頭に引用されたそれを見た時だった。
(実は『わが目の悪魔(A Demon in my View)』は、タイトルそのものが"Alone"から取られている。この本は『わが目には悪魔と見えて』というタイトルにしたかったのだが出版社から「長すぎる」と却下されてしまい、『わが目の悪魔』などという変なタイトルになってしまった、と訳者が嘆いていたという。ちなみに現在、この本は絶版になっている。)
小説『わが目の悪魔』は(世間的な評価はともかく)私には退屈な作品にしか感じられなかったが、冒頭に掲げられたポーの詩には魅了された。まるで自分のことを歌っているように思えてならなかったからだ(ネットで検索してみると、この詩はとてもポピュラーで、私と同じように感じている人が少なくないようだ)。
その後、邦訳されたポーの詩集を見つけるたびに、そこに収められていないか探した。その結果、"Alone"にはいくつかの日本語訳があることがわかったが、読み比べてみて私は最初に知った深町眞理子の訳が最も好きである。
ただ残念ながら、レンデルが『わが目の悪魔』の冒頭に引用したのは"Alone"全部ではなく、だから深町訳も"Alone"の全訳ではない。そこで以下にポーの"Alone"オリジナルと一緒に、深町訳(に少し手を入れたもの)に、欠けた部分を私が補う形で全訳したものを掲載する。
これはポー、19歳の時の作品だと言われている。
"Alone" by Edgar Allan Poe
From childhood's hour I have not been
As others were--I have not seen
As others saw--I could not bring
My passions from a common spring--
From the same source I have not taken
My sorrow--I could not awaken
My heart to joy at the same tone--
And all I lov'd--I lov'd alone--
Then--in my childhood--in the dawn
Of a most stormy life--was drawn
From ev'ry depth of good and ill
The mystery which binds me still--
From the torrent, or the fountain--
From the red cliff of the mountain--
From the sun that 'round me roll'd
In its autumn tint of gold--
From the lightning in the sky
As it pass'd me flying by--
From the thunder, and the storm--
And the cloud that took the form
(When the rest of Heaven was blue)
Of a demon in my view--
『孤独』
まだ幼少の頃から、わたしは
ほかの人たちとは異なっていた──
ほかの人たちのようには見なかった──
おなじ泉から情熱を汲みとれなかった。
おなじ源から悲しみを得たこともなく──
おなじ調べに胸を高鳴らせたこともなかった。
わたしの愛したものはすべて、わたしひとりこれを愛した。
あのころ──波瀾に満ちた生涯の
夜明けにあったあの幼子の頃──
ありとあらゆる美と醜とのその深みから
いまなおわたしをとらえてはなさぬ秘密が汲みとられた。
急流、あるいは泉から──
赤茶けた山の崖から──
秋のほのかな金色の中
わたしをめぐりめぐる太陽から──
傍らを通り過ぎていった稲妻から──
雷、あるいは嵐から──
そして(空はあくまでも青く澄みきっているのに)
わが目には悪魔の姿をとるかとも見えた
雲のたたずまいからも。
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