深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

2012-04-10 18:10:35 | 趣味人的レビュー

以前、遊びでチェスをやっていたことはあるが、将棋はやらない(ルールもあまりよく知らない)。ただ、なぜか将棋マンガを読むのは好きで、古くはつのだじろうの『5五の龍』(真っ当な将棋マンガで、決して霊だとか超常現象などは出てこない)とか、能條純一の『月下の棋士』とか、西条真二の『365歩のユウキ』(多分、誰も知らないだろう)とか、連載中のものでは柴田ヨクサルの『ハチワンダイバー』とか、南Q太の『ひらけ駒』とか…。

隔週刊の『イブニング』で連載されていた青木幸子の『王狩(おうがり)』もまた、そんな将棋マンガの1つである。


さて、ここからのBGMはアニメ『Fate/Zero』のOSTから「Rule of the Battle」にしてみたが、『Fate/Zero』のOSTは全てアップされるそばから削除されているので、これもいつまで持つか。聴くなら急げ。

会社員だった私は15年ほど前、鬱状態になった。結局、最後まで病院には行かなかった(行けなかった)が、「会社を辞める」と決めて上司に退職を申し出てから、少しずつ状態が改善し始めた。当時はプロジェクト・リーダーを務めていたため、実際に退職したのは退職願いを出してから9カ月後のことで、皮肉なことに、その頃には鬱症状など全くなくなり元気に出社していた。

ただ鬱状態になって以降、「これからは熱くなることなく、ただ飄々(ひょうひょう)淡々と生きていこう」と決めた。もう、あらゆることが面倒になってしまっていたのかもしれない。

そして15年がたった頃、立ち読みしていた『イブニング』で『王狩』を目にした。それは久世杏(あん)と綿貫毬乃の対局の回(第7話)で、どちらが主人公なのかもわからないまま読んでいたが、私には何だか妙に印象に残るマンガだった。その後も月1回くらい載る、そのマンガが待ち遠しかった。

ただ、あまり人気は高くなかったのかもしれない。マンガとしては長期連載を期してさまざまな伏線も張っていたが、第26話「遙かな高み」で「第1部完」として、連載は途絶えた。第2部が始まるかどうかは今のところ、わからない。わからないままコミック3巻を揃えた。


物語は久世杏6歳の夏の日から始まる。第1話「夏休みの草原」は

私の優しい祖父はこの競技を、夏休みの草原を手に入れるようなものだと言った。

というナレーションで幕を開け、杏が同世代の棋士の卵たちと出会い、祖父に「将棋をやる」と宣言するまでの話。そして

私はあの時まだ何も知らなかった。「あのコたち」と本気で遊ぶためには、どんなに大変なところに行かなくてはならないか。そうして私は、あの夏、将棋に出会い、王を狩る旅に出た。

というナレーションで終わる。そして第2話からは、その6年後、奨励会に入った杏たちの戦いの日々が描かれていく。

久世杏は見たもの全てを映像のように記憶できる「完全記憶」の能力を持つ。だが、全国から選りすぐりの将棋の才能を持った者たちが集まり、それでもプロになれるのはその中のほんの一握りである奨励会は、そんな能力1つで勝ち上がれるような甘いところではない。特に女性は、これまで奨励会で四段を取りプロ棋士になった者はいない(現在も女流棋士というのはいるが、それは奨励会を突破したプロ棋士ではない)。

だが棋界上層部は、将棋界の今後を見据えて次代のスターを欲し、抜きん出た棋力を持つ男子会員3名と合わせて、奨励会を突破した初の「女性棋士」誕生を目玉にしようと、杏ら女子会員3名に白羽の矢を立てる。そして玩具メーカがスポンサーになっての、奨励会全員参加の1日トーナメント「新星戦」に先立ち、この6名に会長から「勝て」との伝言による申し送りが出される。しかし優勝者は全奨励会員の中のただ1人のみ。そして物語は、その6人それぞれの思いがぶつかり合う「新星戦」へ…。

「第1部」はこの「新星戦」に決着がつくまでを描き、そこで物語は1つの完結を迎えるのだが、『王狩』はこの先、杏ら若手の戦いと棋界上層部の動きとが平行して描かれるはずだったと思われる。


不思議なことだが、この『王狩』を読んでいると、自分が捨ててきたはずの「熱」が呼び覚まされるような気がする。例えば第25話で対局中に頭の中で交わされる

君も行くんか、この先へ。

といった言葉が、妙に胸に響くのだ。

そして『王狩』によって、私は以前よりほんの少し──ほんの少しだけ、「熱」を身にまとうようになった。私もまた「夏休みの草原」をもう一度、取り戻したくなったのかもしれない。

あぁ──夏はもうすぐだ。


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