『ココロによく効く非常識セラピー』という本がある。内容はタイトルが示すように心理カウンセリングについての話だが、これは(一部の)治療家、セラピストにとって猛毒と言える本かもしれない。
治療業界も過当競争の時代で、その差別化のための1つの方策として、駅前のクイックマッサージのような「ただ体を揉むだけの施術」ではない、「心理・精神面までも癒す」という方向にシフトしつつある。だから最近の代替療法は多かれ少なかれ心理カウンセリング的な要素を含んでいる。
しかし、この『ココロによく効く非常識セラピー』はそうした心理カウンセリング的なものの裏にある「不都合な真実」を暴き出す。
各章のタイトルは、全てセラピストがクライエントに向かって頻繁に口にする言葉だ。
「嘘その01 まず自分を好きになりなさい」
「嘘その02 やる気はあなたの中に隠れてます」
「嘘その03 不幸な子供時代がすべての原因」
…といった具合に。他にも
「嘘その12 すべては潜在意識のなせる業です」
「嘘その13 心から望めば必ず実現できますよ」
といったものもちゃんと入っている。そしてこの本は、そうしたセリフや、クライエントの前でそういうセリフを言うセラピストを徹底的に批判する。
例えば「嘘その01 まず自分を好きになりなさい」ではこんなふうに。
「自分を好きになろう」というお説教は、聞こえはいいがまったくのナンセンスである。そもそも、愛とは自分自身に向けるものではないのだから。それはナルシズム的な精神異常というもの。次の詩にはそれがわかりやすく表現されている。
わたしが好き
わたしって素晴らしい
わたしと一緒に腰をかけ、そっと手をつなぎたい
いつか、わたしと結婚しよう
そして……家庭をつくりたい
セラピストはそんな耳障りのいい紋切り型のセリフで、クライエントの通院回数を増やすためだけの「心地いい関係」を築くのではなく、もっとクライエントを言葉で追い込み、挑発しろ、と「挑発型スタイル」を提唱する、著者のジェフリー・ウィンバーグはアメリカ生まれで、オランダの大学で臨床心理学を修め、オランダでクリニックを開設した臨床心理療法家だ。
なお、誤解されないように述べておくが、ウィンバーグは自己肯定感を高めることや、自らの中からやる気を引き出すといったことを否定しているわけではない。それは重要なことなのだが、自身の臨床経験から、ウィンバーグはそれが必ずしもクライエントの本当の問題ではない、という点を主張しているのだ。
セラピーではしばしば、(実はクライエントの本当の問題とは関係ない)過去のトラウマのようなものをわざわざ引き出し、それを解消させることがある(するとクライエントは、泣きながら「あー心が軽くなったようだ」といったことを口にしたりする)。
本当の問題解決にとって実は意味のないそうしたものを、ウィンバーグは「でっち上げ治療」「捏造」と批判するのである。
ウィンバーグの著書はオランダでベストセラーになっているようだが、日本の(一部の)治療家、セラピストにとって有り難いことに、2005年に出たこの『ココロによく効く非常識セラピー』は日本では版を重ねることなく消えてしまった。単にみんなが知らないだけなのか(私が知ったのは2日ほど前だ 笑)、彼の「挑発型スタイル」が日本に受け入れられなかったのかはわからない。
ただ、あなたが何らかの理由でこうしたセラピーを受けている/受けようと考えているなら、その前に探して読んでおくべきだ。それでもうセラピーを受ける必要がなくなってしまうかもしれないから。
※これは「本が好き」に投稿したレビューに加筆修正したもの。
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