深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

プロの現場 4

2019-01-11 13:01:30 | 一治療家の視点

NHKの『プロフェッショナル・仕事の流儀』、どうも私の場合、見終わっても大抵は「へ~、凄いな~」で終わってしまうので、このところほとんど、というか全然見てなかった。が、声優の神谷浩史を取り上げるというので久々に見た。

神谷浩史といえば声優業界では中堅レベルのトップランナーの一人、という認識だが、番組の中の神谷は自分に自信の持てない、超が付くくらいのネガティヴ・キャラだった。

自分で仕事は作れないし、常に己との戦いだし、成功しても誰も褒めてくれないけど、失敗したらムチャクチャ言われるし…。
現場に行くのは怖いし、台本をもらって「うわー難しいなー。俺、全然理解できねえや」って。
この仕事始めてこっち、安定なんて一切ないですから。何も頼りになるものがない。
(声で出演した作品の舞台挨拶を前に、取材班から舞台に立つ心境を尋ねられて)イヤですよ。向いてないから声の仕事してるのに、何で人前に自分の身をさらさなきゃいけないのか、よくわかんないですよ。

(ただカメラの前だと人は意識的/無意識的に演技してしまうものだし、編集によってもキャラの見え方は全く変わるので、実際の素の神谷がどういう人なのかわからないが)。

そして仕事上のスタンスについて神谷は
「主は作品にあるべきだと思ってて、(自身は)作品を作る上で必要な存在。理想をいえば、自分の気配を消して作品の1個の歯車に徹する、ということが目指しているもの」
と語る。そういう彼のあり方は番宣での自己紹介の言葉にも表れていて、多くの声優が
「〈作品名〉の〈キャラクタ名〉を演じている/やっている○○です」
という言い方をするのに対して、神谷は
「〈作品名〉の〈キャラクタ名〉の声をやらせてもらっている神谷浩史です」
と挨拶する。
これは石田彰や櫻井孝宏も言っていることだが、ドラマと違ってアニメは絵がしゃべっているわけで、声優は自分一人でそのキャラクタになっているわけではない/自分一人ではそのキャラクタにはなれない。だから(普通の芝居でのように)「演じている」というのは少し違う、と。
この「〈キャラクタ名〉を演じている/やっている」と「〈キャラクタ名〉の声をやらせてもらっている」との違いはごく小さなものに過ぎないのかもしれないが、この差を敏感に感じ取り、その意識を持ち続けていることが、神谷をトップランナーたらしめている要素の1つなのだと思う。『進撃の巨人』の現場でスタッフが言う「彼は(度重なるダメ出しや要求に対して)腐らない。『できねえや、そんなの』じゃなくて、できるためにはどうすればいいかを常に前向きに考えている」も、そうした意識から来るのだろう。

「上がり」はないんですよ。芸術家じゃないんで、僕ら。プロの人たちって、誰かがOK出すんですよ。だから納得しようがしまいが、そこで作業は終わるんですよ、強制的に。そこまでで自分が納得するものを提出しない限りは、ずっと悔いを残し続けることになるんですよね。


実は神谷は初めて主演を任されることになっていたアニメの収録直前にバイク事故を起こしている。その事故で彼は1カ月半入院することになったのだが、それで番組制作が止まるということもなく、結局その役は別の声優が立派に務め上げた。この「自分の代わりは、いる」という現実と「もうどうしたらいいかわからないけども、ある意味この業界にすがらないと生きていけないかもな」という思いが覚悟となって、今の神谷を形作ったのだ。

彼は自分が声優の中でも特別な才能を持たない凡庸な存在だと思っている。その中で「期待以上のものを提出できなければ、次は呼んでもらえない」という恐怖心があるから人一倍努力を怠らない。例えば、完成した作品の舞台挨拶では前もって台本をチェックし、物語の内容を確認し直す。台本を読み返すことは、特別な才能の要らない誰でもできる努力だから。


スピ系の本やセミナーでは、しばしば「あなたはこの世界でかけがえのない存在だ」などということが語られるが、そんな言葉は人を気持ちよくさせて信者になってもらうための「耳障りのいい嘘」に過ぎない。「自分の代わりは、いる」──人はその残酷な現実を受け入れることでしか、その先に進むことはできないのだ。


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