毎年、風物詩のように年末になると現れる年間ミステリ・ランキングの類は基本、信用していないのだが、2016年末に各社の海外ミステリ部門で1位を獲得したこの本に関しては、選者の目は節穴ではなかったと言わねばならないだろう。文庫本で上下巻合計約1100ページを全くストレスなく一気に読ませる筆力には、ただ脱帽の一言である。
『熊と踊れ』は1990年代にスウェーデンで実際に起こった、連続銀行襲撃事件がベースになっている。こういう実際の事件を元にして書かれた小説というのは世の中に多々あるが、この作品が他の多くと決定的に異なっているのは、事件を起こしたのが共同執筆者の1人、ステファン・トンベリの兄弟たちだった、という点だろう。トンベリ自身は事件には関わっていないようだが、兄弟たちが銀行強盗を計画していたのは知っていたという。そして、刑務所から出所した兄弟たちから直接聞いた、襲撃の計画からその現場での出来事までの詳細が、この作品の中でフィクションとして再構成されている。
もう1人の執筆者、アンデシュ・ルースランドは、この作品の前にも服役経験のある人と組んで社会派の刑事物シリーズを書いていて、日本でも出版されている。その10年以上にわたる執筆経験を持ってトンベリと組んだのが、この『熊と踊れ』だ。
この作品の特徴は、上に述べたように実際の事件をかなり忠実に再現していることとともに、これが氏族、兄弟の間の「血の絆」を描いたものであることだろう。暴君のような父の下で育った、裏社会と何の関係もない兄弟たちが、誰もが予想し得なかった方法で連続銀行襲撃を行ったこと。その「血の絆」の強さと重さ。そして、彼らを追う刑事もまた、そんな「血の絆」に縛られた存在であったこと(この刑事の部分は、この作品のための完全なフィクションのようだが)。それはどこかマリオ・プーヅォの『ゴッドファーザー』を彷彿とさせるものがある。
実話に基づいているためかクライマックスは比較的あっさりとしていて、幾重にもどんでん返しを入れ込む最近のミステリとは一線を画すが、それがラストの静かな余韻へとつながっていく。最後に語られる
まっすぐ突き進む。まっすぐ突き進む
という言葉が心に深く刺さる。
断言しよう。ミステリとして、そしてセミ・ドキュメンタリーとして、『熊と踊れ』はずば抜けた第一級の作品である、と。
※これは「本が好き」に投稿したレビューを加筆修正したもの。
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