池田 悟≪作曲家≫のArabesque

・・・深くしなやかに・・・(音源リンクしてます)

「トポロジーの夜」劇音楽

2009-05-11 | 作曲・ピアノ/学生時代まで

昔の作品がCDに復刻した。と言っても芸大別科に入学した年の冬、希少な友人の頼みゆえ引き受けた、学生の演劇に付ける音楽。
しかも僕の作曲ではなく、楽理科の友人が作った曲をシンセサイザーで多重録音したもの。

火付け役はその劇の音効を担当していた、美校油絵科の水谷孝樹君。彼とは音校の楽理科が放課後やっていて僕も一員だった「現代音楽ゼミ」で初めて会う。
そこに臨時で出席し、ジョン・ケージがいかに偉大かという事について、「ケージは限界にぶち当たった」と主張するアメリカ帰りの女子大学院生と果敢に論戦を交わしていた。
最後は「有名なんだからそれだけの事はあるはず」という所に落ち着いたようだったが。
その彼をゼミに紹介した、楽理科3年生の吉田菊子さんが主な曲を作曲するとの事で、天真爛漫な彼女に頼まれ、シンセを担当することになった。

入学試験の石膏デッサンで、石膏モデルなんか描きたくないから横にあった縄を描いて見事難関を突破した、という彼は音に対するこだわりも並々ならず、僕のアパートに来て音色のイメージを直接伝え、低姿勢で何度もダメ出しをし、「短調と長調が混在する音楽が好き」と言ったり、シーケンサーの打ち込みや録音作業をしている間、バルトークの「中国の不思議な役人」のカセットテープを見つけ、決まってその曲をヘッドホンで聴いていた。
作業は時に徹夜になり、明け方共に仮眠をとったりもした。

作品の音自体はどうという事は無い。19歳頃、偏愛した音だ。ノスタルジックでセンチメンタル、ある種官能的な。それを彼が望んだのだけれど…。
芸大入学前、二十歳のとき僕はフランスでフーガの夏期講習に参加し、極めてアカデミックな教育を受け、変わった。それまで愛好した音楽は過去に追いやり、葬った。だから今の僕が聴けば幼児の作品のようだ、良くも悪くも。
10年前イギリスに居を移し、現在大学院で研究している水谷君が本領を発揮したジャケット画はノスタルジックでナイーブ。
それゆえ芝居全体の印象とは遊離して感じる。「トポロジーの夜」というタイトルの、26年前駒場小劇場で劇団綺畸が演じた芝居自体は、ややナンセンスで、模倣、折衷的に感じたからだ。

古いカセットテープの音源を、最新のパソコン技術を駆使し、手間暇かけてクオリティーを修復し、CDに仕上げて下さったのは当時、演劇に携わっていた新島智之さん。
頼んでも中々やってもらえないだろうに、突然贈呈したいとメールを頂き、9日届く。僕らが作ったシンセの音に感銘を受けた、と書き添えて下さった。
懐かしいCD。



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