中国で現在使われている姓は約500。トップテンは、王、李、張、劉、陳、楊、黄、趙、呉、周。王さんは総人口中7.3%9298万人、李さんは7.2%9207万人、張さんは6.8%8950万人。
韓国では、約250。トップから金、李、朴、崔の順。
日本では、約27万。世界中で一番多い。ホント。トップテンは、佐藤、鈴木、高橋、伊藤、渡辺、斉藤、田中、小林、佐々木、山本。
ちなみに、欧州では、フィンランドが約3万、ほかの国全部あわせても約2万。
姓がなく、名だけの国もあある。
日本も江戸時代までは、苗字を公称するものはわずかで、江戸末期の人口を3千万人とするとその4%120万人が苗字をもち、使われた姓は1万。それでも、中国。韓国に比べると格段に多い。平安時代の姓が1200という記録があるので、江戸末期まで千年で10倍増えている。それが、明治になってなぜ更に27倍に増えたか?
それは明治新姓による。明治政府は徴税、国民皆兵、階級制打破の基礎となる新戸籍法を発布、その一環として、明治8年国民全員が苗字をつけるべしという苗字必称義務令すなわち明治新姓布告が出された。これで、これまで名前しかなかった平民も大急ぎで苗字をつけさせられた。
このとき、日本に20数万の苗字が生まれた。と言ってもかってにつけたわけではない。自分の苗字をつけるのだから、それなりによって立つところを求める。最もよって立ったのが地名である。事実苗字の八地割以上が知名から来ている。それも、新住居表示で近頃やたら増えている旭丘とか夕陽丘とか団地風の地名ではない。そもそも明治の初めころの地名は、自然や地勢に根ざした昔の地名がそのまま残っていた。古くは万葉のころからの地名、新しくても荘園時代の地名が名残をとどめていた。
それが証拠に訓読みが多い。音読みは中世以降と考えてよい。先の十大姓のうち音読みは佐藤、伊藤、斉藤の3っつだけで、あとは訓読み。実際には苗字の八割以上が訓読み、すなわち大和ことばである。
ここで、気がつくのは、異字体、異読が多いこと。中国では、声調違いの異読はあるが、読み方つまりふりがな違いの異読は少ない。日本漢字は、ひとつの漢字でも和音すなわち大和言葉に漢字をあてた訓読みのものと後に入った呉音、漢音、唐宋音等の音読みなどいくつかの読み方がある。さらに、苗字は普通の本では出くわさないような読み方をする場合がたくさんある。辞書にもない判じ物のような和字もある。それでもれっきとした苗字であるから、持ち主のおっしゃるとおりに読まなくてならない。
先に述べた日本の苗字は27万あるという数字は、異読もそれぞれ別のものとして数えたもの。同じ漢字の苗字なら異字も異読も一つのものとして数えたらいくつになるか?10万くらい減るだろうが、ひとさまの苗字をかってに読み替えて一束にくくるのは不遜。やめておいたほうがよい。
万葉の歴史をとどめているのだから、苗字の話はまだまだ底が深い。先祖の出自がわかる。異字異読もそれなりのいわれがある。じゅげむじゅげむごこうのすりきれ は落語の世界だが、勘解由小路かげゆこうじさんなど五字六音のものもある。
この話、ひとりでは手に負えない。この投稿をみんなで見聞した奇名など持ち寄ってルーツ談など繰り広げるよすがとしたい。
たかが苗字、されど苗字。あだやおろそかにはできない。苗字と名字どうちがう?氏姓は?はなしは、いくらでもでてくる。 z
丹羽基二
1919年栃木県佐野市生
1944年国学院大学国文科卒
日本家系図学会会長、地名を守る会代表
著書:
「家紋大図鑑」「姓氏」「家系」「神紋」「寺紋」「地名」(以上秋田書店)
「日本姓氏大辞典」「姓氏の語源」(以上角川書店)
「姓氏の由来事典」(三省堂)「姓氏と歴史と謎」「地名の語源と謎」「家紋の由来と美」(以上南雲堂)
「姓氏、地名、家紋総合事典」(新人物往来社)
「お墓のはなし」(河出書房新社)
「チベットの落日」(近藤出版)
「日本の苗字読み書き事典」(柏書房1994年3月10日第一冊発行)
片山:全国に13万人。山の隣で住みやすく、山の幸にも恵まれる。山の神に守られて理想主義者が多い。片岡、片桐と兄弟姓。
矢部:全国で4万人。東日本に多い。矢作部やはぎべ、つまり矢をつくる古代の職業部から来ている。後世、谷部、屋部、八部などにも転化。
前田:全国で15万。鹿児島には1万4千。薩摩藩士族が山の麓に屋敷をつくり、耕作、これを前田と呼んだ。全国的には神社、庄屋、塚など特別な建造物の前の田をいう。庶民の家の前の田は前田とは呼ばなかった。したがって、前田は上流姓。
山田:全国で55万。勿論地名姓。山田という地名は全国で2千。山を開墾して田にした。山田の案山子は山の神のシンボル。伊勢神宮は宇治山田にあり、前に五十鈴川が流れる。山田五十鈴はここから、、、ちょっと脱線。
野田:では、野田はどうか?全国で17万。大地の野、つまり畑と平地の田を併せ持つ。古くから土地開発を心がけてた豪族が多い。
田がつづいたところで、ちょっと寄り道。氏姓用使用漢字頻度順位をみると、田、藤、山、野、川の順。勿論山田、野田はダブルカウント。山、野、川は自然地名だが、田は開発によって生まれた人口地名。所有、占有、耕作することによって姓と地名の一体化がおこった。勢い田の開発が早くから行われた関西に田の字の姓も多い。
荒木:これも開墾にかかわる。新しく開墾した田は荒木田。伊勢の大神から新開墾の田を下賜されたことによって賜った姓。ここから、荒木、荒城、荒起、墾木、新木、新城などの当て字あわせて全国10万。
井上:全国で50万。兵庫、奈良、福岡に多い。井とは、遊水地、あるいは新田開発のために掘った井戸。その周辺が井上いのへ、井戸の上ではない。これも、結局田に帰する。
井下という姓もあるが、極めて少ない。なにか特別な井戸の下手の意から来ている。
谷と沢:谷姓は全国で7万。沢姓は全国で2万。谷は山の狭間。沢は流水のサワサワという音。地名では西日本に谷が多く、東日本に沢が多い。尾花沢とかを雪解け水の流下する擬音か?沢の字のつく姓は岩手県と長野県に多い。
さかのぼれば、沢は諏訪神社の族で、諏訪郡澤村よりおこった武家の澤族がいる。元来諏訪も水流の擬音。谷も古くは坂上氏の族で谷直たにあたえ がいる。渡来族の後裔。大昔、沢は在来、谷は渡来。
山口:全国35万。西日本、特に九州に多い。山の出入り口に祖神を祭る。ここに住む武家の意。
長州の山口について言えば、地名は山口県下に百以上もあるが、山口姓は少ない。例えば、山口市でも10戸。これにはわけがあって、大内氏の時代一族に山口姓がいたが、大内氏滅亡に殉じて山口姓も途絶えた。姓は絶えても地名の山口は残った。
おわりに、わがふるさとに我田引水、御免。
中山:東西の山の間の山、あるいは上の山、下の山の間の山の意。全国10万。明治天皇外祖父権大納言中山忠能とその子忠光は幕末王政復古につくし、忠光は下関で犠牲した。その地に中山神社がある。愛新覚羅溥傑に稼いだ係累の嵯峨公爵の長女浩さんの墓もここにある。入谷、山縣、松原、志田、平岡、本広、田野の由緒は目下手元にない。山中も中山を逆読みしただけのようだが、あながちそうはいかないのが苗字の奥の深さ。軽るはずみな類推はさける。
仁保:全国3千人。仁を保つは孔子の教え。実は、入鳥かいつぶり、から来ている。琵琶湖のことをニオの海という。仁保の地名は湿地帯や水辺に多い。広島市、山口市、福岡県庄内町、豊川市などにある。この族で有名な桓武平氏三浦氏一族。建久年中平重経がこの地に赴任し、山口県吉敷郡仁保の庄で源頼朝に仕え子孫は栄えた。吉冨、吉富姓の由緒は手元にないが、吉祥富裕とおめでたい。冨は富と同字。貧乏どみなどでは決してない。
安田:全国10万。保田も同根。痩せ田ではなく、収穫のいい田。源氏、平氏両流がある。源氏は甲斐の国山梨郡安田村から出た清和源氏武田氏流。義光の次男義清を祖とする。義清の孫、義定は安田三郎と称し、梶原景時の懺言にあい、誅せられた。平氏は越後の国北蒲原郡安田村発祥、桓武平氏流。
山本:和歌山、岡山、山口など山のつく県に多い。鳥取、島根、高知三県では、苗字第一位。石川、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫六県では第二位。総じて山本姓は関西に多い。
山本には、山の麓と山国出身のそれぞれの意味がある。系流としては、山城の加茂姓系、大和の春日社系、紀伊の熊野系、近江の清和源氏系など。系流をくわしく見ると、清和源氏満政流と清和源氏義光流がある。満政流は吉野氏族。鎮守将軍源満政の後裔。家紋は三頭左巴あるいは蛇の目。義光流は、近江の国浅井郡山本発祥の族。義光の孫義定が山本と号した。山本富士子さんは、この末裔。この族は美人が多い、、、とか。山崎はさがしたが目下手元にみあたらない。
山田:再登場だが、系流をみてみる。清和源氏満政流は尾張国発祥の浦野氏族。山田郡山田荘名を負う。家紋の多くは、七星紋。もうひとつは清和源氏義光流。武田氏流加賀美氏族。諏訪山田村字上城戸に住し土豪として続く。
ながながと談義したが、自分の姓よりほかは、なかなか関心が向かないかも。しかし、名刺をもらったとき、その由緒を語れれば、相手も興味をもつ。営業担当者などは、この分野の知識をためこんで、セールス戦略に使ってみては? ビジネスでなくても、酒席の話題にも楽しい。お流れ頂戴、ところで貴殿のお名前は?承りますところによれば、、、、、の出で、由緒正しき流れでいらっしゃる、、、、、ご返杯、、、。とくれば、話がはずむこと、うけいあい。そなたの名前は?とホステスに近づき、なかなか由緒ある、、、などとのたまえば、キャバレーなどでは、、、古いか?手相を見てあげるのたぐいより効果的。きみたちもミーさん、ハーさんなど使わず、名前を覚えて、、、わたし苗字のルーツを勉強しましたの、、、とかなんとか言って、お客さんを持ち上げれば、ナンバーワンゲットもありかも?とおだてれば、教えて、教えてと寄ってきて、もてることうけあい。そのためには、平素情報収集、蓄積、おさおさ怠りなきよう。