『誓いの休暇』 1959年 88分
監督 グリゴーリ・チュフライ
脚本 ワレンチン・エジョフ
グリゴーリ・チュフライ
撮影 ウラジミール・ニコラーエフ
エラ・サヴェーリエワ
音楽 ミハイル・ジーフ
出演
ウラジミール・イワショフ
ジャンナ・プロホレンコ
アントニーナ・マクシーモア
真実を語る勇気
町へ続く道
村から出て行く者も、村へ再び帰ってくる者も、誰もがこの道を通る.
彼女もまっていたが、息子のアリョーシャは、ついに戦場から戻らなかった.
ロシアの名さえ持たぬ、遠い異国の地に葬られて、
春先には見知らぬ人々が、花を供えにやって来る.
彼はロシア開放の英雄と呼ばれているが、彼女にはただの息子.
生まれたときから見守ってきた我が子だ.
この道を通って戦場へ行ってしまう日までは・・・
---------------------------------
戦争で片足を失った男
彼はありのままの姿を妻に見せるのが辛く、逃げ出そうとした.
妻に本当のことが言えなかったと言っても良い.
列車の中で、
「ある兵士が女の家に行ってさ」
「奥さん、水を一杯.ついでに一晩泊めてくれ」
「なるほど、それがお前のやり口か」
「いい女だった.忘れられない」
「忘れるなよ.終戦になったら結婚しろ」
「亭主持ちだ」
「あばた面の?」
「脂性だ」
「女は脂性から、あばた面に心変わりか」
「亭主は他にも欠点があったんだろう」
一緒に居合わせた片足の男の事を何も考えない冷たい会話、片足の男にとって、いっそう悩みを深くする会話だったのだが.....
戦地で浮気した話を、アリョーシャも含め、皆が笑いながら聴いていた.
こんな風で、浮気した妻を責めることが出来るかどうか?.
駅員の女の子が言ったように、彼は妻を信頼し妻の元へ帰れば良かった.帰らねばならなかった.
浮気妻
頼まれた石鹸を届けに行った、その妻は他の男と一緒に暮し、戦地の状況とは程遠い裕福な暮らしをしていた.
妻と男との内緒話が聞こえてきた.
「事情を」「そんな」
「いずれ分ることだ」「でも今は.....」
「そうだな」
「教えて、あの人は」
「あなたを信じて元気で戦ってますよ」
「ありがとう」
「彼には黙ってて」
「それとも.....話した方が.....」
「お願い、そんな目で観ないで」
怒ったアリョーシャは、石鹸を取り返すと、今度はお爺さんの所へ行った.
「息子は?」
「元気ですよ、頼まれてきました」
「これをお父さんにと」、アリョーシャは嘘を言って、お爺さんに石鹸を渡した.
「息子からの贈り物か」、お爺さんは石鹸を受け取ると喜んだ.
息子の様子を聴かれたアリョーシャ.
「その.....彼の戦いぶりは常に、立派で、際立っています.みんなから尊敬されています」
「とても勇敢で、上官も彼を見習えと言うし、本当にずば抜けています」
知りもしないことを、綺麗事を並べ立てて話をした、アリョーシャだった.
「みんな元気だと.怪我のことは内緒だ.心配するから」
「それから.....妻のリーザは働いていると.元気で待ってると」
お爺さんも本当のことは言えなかった.
皆の嘘は、息子が帰ってきたらすぐにばれることばかり.
アリョーシャの嘘も、ばれたとき悲しみを深くするだけの、所詮は気休めにもならない嘘に過ぎないと思うけど.....
アリョーシャとシューラ
貨物列車では「婚約者が怪我で入院している」と、嘘を言ってしまったシューラ.
「彼女は連れか?」と聞かれ、「荷物もお金も無くして困っていたので僕が...」と、アリョーシャは答えたのだけど、獣の中尉は「隠さんでいい」と、笑って言った.中尉の誤解だったのか、どうなのか?.
「彼女は連れか?」、この問いならば、この時の二人「ええ」と答えても、決して嘘ではなかったと思えるけれど.
ともかく、二人は一緒に旅を続けることが出来た.
「意外にいい人だと分ると、嬉しくなるものね」と、シューラは言った.そして、「友情をどう思う?」と、遠回しに『婚約者はいないのだ』と、本当のことを言おうとしたのだけど、けれども、アリョーシャには伝わらなかった.
水を汲みに行って乗り遅れたアリョーシャを、シューラは乗換駅で待っていた.彼女はアリョーシャを心配して、荷物を持って待っていた.喉がカラカラ.やっと水を飲んで、そして食事をしようとしたとき、シューラは荷物の中の母親へのプレゼントのスカーフに気づき、アリョーシャに好きな子がいるのではと疑った.シューラは、この時にはアリョーシャを本当に好きになっていたのは間違いない.
次に乗ろうとした列車も軍用列車だった.「奥さんか?」と聞かれて、シューラは「いいえ」と答えたので降ろされてしまった.
「こんな時ぐらい嘘をつけよ」と、アリョーシャは言ったのだけど、もうこの時には愛を告白する気持ちがあったのだから、正しく言えばシューラは「ええ」と言っていても、決して嘘では無かったはずであり、素直に自分の気持ちを言えば良かったはずだ.
一緒に居たい、別れたくないアリョーシャ、その妻だと言っても、何も嘘ではなかったと思えるけど.....
結局は、シューラに外套を着せて兵士に化けて(嘘をついて)列車に乗ってしまったのだが.
やがて列車は、シューラの目的地に着く.
「お別れね」
「うん、僕を忘れないで」
「怒らないで聞いて.私、嘘をついてたの」
「どんな?」
「婚約者なんていないの.伯母の家へ・・・」
「怒らないで.バカみたいね」
本当の自分の気持ちを伝えようとした、シューラ.
そして、アリョーシャもまた、自分の気持ちを伝えたかったのだけど.
.....けれども会話はそこまでで、列車は発車してしまう.
『婚約者はいないって、愛の告白のつもりだったのに』、列車を見送ったシューラ.そして、
『君に打ち明けたい』、そう言って列車を降りようとしたアリョーシャだった.
戦争とは、嘘で成り立つものである.
どこで何時どの様に死んだかも分らない、戦死した兵士を、英雄と呼んで賛美する.
が、母親にとってはかけがえのない子供だった、その悲しみは、英雄と呼ぼうがなんと呼ぼうが変わることはないのだ.....
戦地での浮気話を笑いながら聞いていたアリョーシャが、浮気した妻を責めることはできない.
更には、石鹸を取り返して尋ねていったおじいさんに嘘をついた.
嘘ばかり、嘘を言わないと戦争は成り立たない.戦争によって、皆が嘘つきになってしまう.
あたかも嘘を言うことが正しいことのように、嘘を言わなければならないように思い込んでしまうのが戦争である.
こう考えれば、本当のことを言えば戦争を止めることが出来るはず、と、思うのだが.
「怒らないで.バカみたいね」と、シューラはアリョーシャに謝った.嘘をつくことは馬鹿げたことだった.
なぜもっと早く、シューラは本当の自分の気持ちを打ち明けなかったのか.....
アリョーシャもシューラも、自分の本当の気持ちを、相手に伝えたかった.
戦争で引き裂かれた二人の愛は、互いに本当の気持ちを伝えられなかった分、その分余計に悲しみを深くしているのではないのか.
アリョーシャとシューラ、二人の別れは、本当のことを言うのだ、本当のことを言わなければならないのだ、こう語りかけているはず.
戦争は憎悪の感情によって行われる.愛情は、真実のの心を語る愛情は、戦争を止める力になる.
-------------------------------------------
日本の大本営発表は嘘の代名詞であった.
どこかの国の天皇は、未だに『祖国を守るために多くの兵士が犠牲になった』と、平気な顔をして嘘を言っているが.
撤退を転進と言い、全滅を玉砕と言って美化するのが日本.
戦争の兵士の犠牲者の多くが餓死、および栄養失調を起因とする病死で、半数以上をしめる.次に多いのが輸送船の沈没.戦闘行為、弾に当たって死んだ人は2割位ではないのか.そして、日本の戦死者と死傷者の数は、諸外国と比べ極めて近い数字であり、助かる人の多くも死んでいった、その事実に他ならない.
1945年3月10日の東京大空襲以降での、おおよそ5か月間で150万人が犠牲になった.戦争の勝敗が決定的になってからである.
所詮日本は、広島、長崎の原爆と、ソ連の参戦がなければ戦争を止めなかったのであり、大半の犠牲者は犬死にと言える.
さらに言えば、満州居住者が帰国までの混乱によって18万人、そして7万人を超えるシベリア抑留者が、戦争が終わってからも亡くなっている.彼らは日本から見捨てられて亡くなったと言わなければならない.
監督 グリゴーリ・チュフライ
脚本 ワレンチン・エジョフ
グリゴーリ・チュフライ
撮影 ウラジミール・ニコラーエフ
エラ・サヴェーリエワ
音楽 ミハイル・ジーフ
出演
ウラジミール・イワショフ
ジャンナ・プロホレンコ
アントニーナ・マクシーモア
真実を語る勇気
町へ続く道
村から出て行く者も、村へ再び帰ってくる者も、誰もがこの道を通る.
彼女もまっていたが、息子のアリョーシャは、ついに戦場から戻らなかった.
ロシアの名さえ持たぬ、遠い異国の地に葬られて、
春先には見知らぬ人々が、花を供えにやって来る.
彼はロシア開放の英雄と呼ばれているが、彼女にはただの息子.
生まれたときから見守ってきた我が子だ.
この道を通って戦場へ行ってしまう日までは・・・
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戦争で片足を失った男
彼はありのままの姿を妻に見せるのが辛く、逃げ出そうとした.
妻に本当のことが言えなかったと言っても良い.
列車の中で、
「ある兵士が女の家に行ってさ」
「奥さん、水を一杯.ついでに一晩泊めてくれ」
「なるほど、それがお前のやり口か」
「いい女だった.忘れられない」
「忘れるなよ.終戦になったら結婚しろ」
「亭主持ちだ」
「あばた面の?」
「脂性だ」
「女は脂性から、あばた面に心変わりか」
「亭主は他にも欠点があったんだろう」
一緒に居合わせた片足の男の事を何も考えない冷たい会話、片足の男にとって、いっそう悩みを深くする会話だったのだが.....
戦地で浮気した話を、アリョーシャも含め、皆が笑いながら聴いていた.
こんな風で、浮気した妻を責めることが出来るかどうか?.
駅員の女の子が言ったように、彼は妻を信頼し妻の元へ帰れば良かった.帰らねばならなかった.
浮気妻
頼まれた石鹸を届けに行った、その妻は他の男と一緒に暮し、戦地の状況とは程遠い裕福な暮らしをしていた.
妻と男との内緒話が聞こえてきた.
「事情を」「そんな」
「いずれ分ることだ」「でも今は.....」
「そうだな」
「教えて、あの人は」
「あなたを信じて元気で戦ってますよ」
「ありがとう」
「彼には黙ってて」
「それとも.....話した方が.....」
「お願い、そんな目で観ないで」
怒ったアリョーシャは、石鹸を取り返すと、今度はお爺さんの所へ行った.
「息子は?」
「元気ですよ、頼まれてきました」
「これをお父さんにと」、アリョーシャは嘘を言って、お爺さんに石鹸を渡した.
「息子からの贈り物か」、お爺さんは石鹸を受け取ると喜んだ.
息子の様子を聴かれたアリョーシャ.
「その.....彼の戦いぶりは常に、立派で、際立っています.みんなから尊敬されています」
「とても勇敢で、上官も彼を見習えと言うし、本当にずば抜けています」
知りもしないことを、綺麗事を並べ立てて話をした、アリョーシャだった.
「みんな元気だと.怪我のことは内緒だ.心配するから」
「それから.....妻のリーザは働いていると.元気で待ってると」
お爺さんも本当のことは言えなかった.
皆の嘘は、息子が帰ってきたらすぐにばれることばかり.
アリョーシャの嘘も、ばれたとき悲しみを深くするだけの、所詮は気休めにもならない嘘に過ぎないと思うけど.....
アリョーシャとシューラ
貨物列車では「婚約者が怪我で入院している」と、嘘を言ってしまったシューラ.
「彼女は連れか?」と聞かれ、「荷物もお金も無くして困っていたので僕が...」と、アリョーシャは答えたのだけど、獣の中尉は「隠さんでいい」と、笑って言った.中尉の誤解だったのか、どうなのか?.
「彼女は連れか?」、この問いならば、この時の二人「ええ」と答えても、決して嘘ではなかったと思えるけれど.
ともかく、二人は一緒に旅を続けることが出来た.
「意外にいい人だと分ると、嬉しくなるものね」と、シューラは言った.そして、「友情をどう思う?」と、遠回しに『婚約者はいないのだ』と、本当のことを言おうとしたのだけど、けれども、アリョーシャには伝わらなかった.
水を汲みに行って乗り遅れたアリョーシャを、シューラは乗換駅で待っていた.彼女はアリョーシャを心配して、荷物を持って待っていた.喉がカラカラ.やっと水を飲んで、そして食事をしようとしたとき、シューラは荷物の中の母親へのプレゼントのスカーフに気づき、アリョーシャに好きな子がいるのではと疑った.シューラは、この時にはアリョーシャを本当に好きになっていたのは間違いない.
次に乗ろうとした列車も軍用列車だった.「奥さんか?」と聞かれて、シューラは「いいえ」と答えたので降ろされてしまった.
「こんな時ぐらい嘘をつけよ」と、アリョーシャは言ったのだけど、もうこの時には愛を告白する気持ちがあったのだから、正しく言えばシューラは「ええ」と言っていても、決して嘘では無かったはずであり、素直に自分の気持ちを言えば良かったはずだ.
一緒に居たい、別れたくないアリョーシャ、その妻だと言っても、何も嘘ではなかったと思えるけど.....
結局は、シューラに外套を着せて兵士に化けて(嘘をついて)列車に乗ってしまったのだが.
やがて列車は、シューラの目的地に着く.
「お別れね」
「うん、僕を忘れないで」
「怒らないで聞いて.私、嘘をついてたの」
「どんな?」
「婚約者なんていないの.伯母の家へ・・・」
「怒らないで.バカみたいね」
本当の自分の気持ちを伝えようとした、シューラ.
そして、アリョーシャもまた、自分の気持ちを伝えたかったのだけど.
.....けれども会話はそこまでで、列車は発車してしまう.
『婚約者はいないって、愛の告白のつもりだったのに』、列車を見送ったシューラ.そして、
『君に打ち明けたい』、そう言って列車を降りようとしたアリョーシャだった.
戦争とは、嘘で成り立つものである.
どこで何時どの様に死んだかも分らない、戦死した兵士を、英雄と呼んで賛美する.
が、母親にとってはかけがえのない子供だった、その悲しみは、英雄と呼ぼうがなんと呼ぼうが変わることはないのだ.....
戦地での浮気話を笑いながら聞いていたアリョーシャが、浮気した妻を責めることはできない.
更には、石鹸を取り返して尋ねていったおじいさんに嘘をついた.
嘘ばかり、嘘を言わないと戦争は成り立たない.戦争によって、皆が嘘つきになってしまう.
あたかも嘘を言うことが正しいことのように、嘘を言わなければならないように思い込んでしまうのが戦争である.
こう考えれば、本当のことを言えば戦争を止めることが出来るはず、と、思うのだが.
「怒らないで.バカみたいね」と、シューラはアリョーシャに謝った.嘘をつくことは馬鹿げたことだった.
なぜもっと早く、シューラは本当の自分の気持ちを打ち明けなかったのか.....
アリョーシャもシューラも、自分の本当の気持ちを、相手に伝えたかった.
戦争で引き裂かれた二人の愛は、互いに本当の気持ちを伝えられなかった分、その分余計に悲しみを深くしているのではないのか.
アリョーシャとシューラ、二人の別れは、本当のことを言うのだ、本当のことを言わなければならないのだ、こう語りかけているはず.
戦争は憎悪の感情によって行われる.愛情は、真実のの心を語る愛情は、戦争を止める力になる.
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日本の大本営発表は嘘の代名詞であった.
どこかの国の天皇は、未だに『祖国を守るために多くの兵士が犠牲になった』と、平気な顔をして嘘を言っているが.
撤退を転進と言い、全滅を玉砕と言って美化するのが日本.
戦争の兵士の犠牲者の多くが餓死、および栄養失調を起因とする病死で、半数以上をしめる.次に多いのが輸送船の沈没.戦闘行為、弾に当たって死んだ人は2割位ではないのか.そして、日本の戦死者と死傷者の数は、諸外国と比べ極めて近い数字であり、助かる人の多くも死んでいった、その事実に他ならない.
1945年3月10日の東京大空襲以降での、おおよそ5か月間で150万人が犠牲になった.戦争の勝敗が決定的になってからである.
所詮日本は、広島、長崎の原爆と、ソ連の参戦がなければ戦争を止めなかったのであり、大半の犠牲者は犬死にと言える.
さらに言えば、満州居住者が帰国までの混乱によって18万人、そして7万人を超えるシベリア抑留者が、戦争が終わってからも亡くなっている.彼らは日本から見捨てられて亡くなったと言わなければならない.