夜ごとの美女 - LES BELLES DU NUIT - (1952年 87分 フランス)
監督 ルネ・クレール
脚本 ルネ・クレール
撮影 アルマン・ティラール
音楽 ジョルジュ・オーリック
出演 ジェラール・フィリップ
マルティーヌ・キャロル
ジーナ・ロロブリジーダ
マガリ・ヴァンドイユ
マリリン・ビュフェル
レイモン・コルディ
- 生きる優しさ -
自動車のエンジン音、クラクション、道路工事の騒音、音楽の授業では生徒が騒ぎ、飛行機が爆音を響かせる.
音楽家のクロードにとって、生きるに耐えられない環境.それに加えて、みんなが彼をバカにしてからかい、おまけに借金のかたにピアノを取り上げるという.彼が生きるには辛いことばかりの現実でした.
現実から逃れて、夢の世界に、過去の時代に、美しい時代を求めたクロードだったのですが、けれどもどの時代にさかのぼってみても、恋愛がこじれると、決闘、銃殺、おまけに断頭台と、人殺しの時代ばかりで、どこにも美しい時代はありませんでした.
けれども、一つだけ、美しい想い出を残す時代があったのです.
それは、ルイ16世の時代、貴族の娘と音楽家の恋.身分の違いから二人は引き裂かれてしまうのですが、牢屋の格子を隔てて二人は語り合う.
- フランス革命 -
僕のせいで
いいのよ.こうして会えたんですもの
僕が待ち望んでいた革命が、命取りになるとは
あなたは言ったわ.喜んで犠牲になると
幸せな世を築くために.でもまだ遠い先の話だ
どんな世の中かしら
20世紀を生きる子孫は、平和を享受するだろう
そんな時代に生まれたい
身分の差はなくなっているだろう
父は貧しい職人.私も一緒に働くの
僕は音楽を教える
同じ村に住み
僕らは隣同士
毎朝、窓の下を通るあなた
そしてある晩、道端で出会う
あなたは言う
愛してる
その言葉を待っていたと、私は答えるわ
20世紀には、僕らの幸福を阻むものはない
夢ね
夢だ
さようなら
また会いましょう.別の世界で
- アフリカ出兵 -
フランスのアフリカ出兵、戦争、そして植民地支配は、アフリカの人々にとって悪夢の始まりだった.
愛に夢を膨らませたお姫様.
けれども将校の方は、単なる遊び心、結婚する気はさらさら無かった
- (フランス革命の時の夢がかなった) 現代 -
ルイ16世の時代を良い時代だったと言った老軍人は、「革命のせいで、生きる優しさを失ってしまった」と言って嘆きました.彼の言葉のように、アルジェリアへの侵略戦争だけでなく、ナポレオンはヨーロッパ中で戦争を行いました.革命後、国民が義勇軍として自ら戦争に加わるようになったのですが、戦争の時代は、生きる優しさに程遠い時代と言わなければなりません.
中尉でしたっけ、将校がアルジェリアのお姫様を口説きながら、結婚しろと言われると嫌だと言って逃げ出した.アルジェリアに対する戦争を悪い行為だと描いていると言えます.
けれども、そうした時代を経て20世紀になり、この映画の撮られた頃になると、身分の差はなくなり、誰でも自由に恋愛が出来る時代になったのです.
過去の時代に、将来に向かって抱いた夢が、現実になった.自由で平等の時代が到来した.男女の恋愛にとっては、生きるのに優しい時代になったのですが.けれども、音楽家のクロードにとって、現在が生きるのに優しい時代と言えるのか?.
過去の夢が現実になった現在において、恋愛だけに限ることなく全ての面で、生きる優しさを、夢ではなく、現実にして行かなければならないはず.
2016/04/03
- 生きる優しさ -
音楽家になる夢が適ったとき、同時にもう一つ適った夢がある.それは、親が反対していたけれど、その親の考えがころっと変わって、隣の娘と結婚できることになったこと.
こう考えると、もう一つ適った夢がある.それは、フランス革命の時適わなかった夢、身分の差が無く、誰もが自由に恋愛し結婚できる時代が来ること.
若い女の子が、きゃあきゃあ騒ぎながら、アフリカへ出兵する兵士を見送った.けれどもそれは、アフリカの人達にとって、どの様な出来事だったのか.
ここが、ルネ・クレールの見事なところ.あの将校は、アフリカのお姫様と結婚できる事になった.結婚しろと言われた途端、自分は結婚する気はないと逃げ出した.
アフリカのお姫様にとって、フランスの将校との恋愛は悪夢だった.フランスのアフリカ出兵は、アフリカの人達にとって悪夢だったのです.
さて、話を戻して.
かつて、自由を求めて戦ったフランス革命.その時抱いた夢が、今では適う時代になった.今また、かつてフランス革命においてフランス人が求めたと同じように、アフリカの人々が自由を求めて、独立運動を行っている.
フランス人である自分達が、アフリカの人々の夢を適えてあげるのは当然のことのではないのか.....