『朱と緑』(朱の巻)(緑の巻) 1937年
監督 島津保次郎
原作 片岡鉄兵
脚本 池田忠雄
撮影 生方敏夫
美術 金須孝
音楽 早乙女光
出演
戸山 上原謙
千晶 高杉早苗
雪枝 高峰三枝子
東日出子
奈良真養
岡村文子
清三 佐分利信
河村黎吉
水島亮太郎
武田秀雄
藤野秀夫
心で結びついた男女.男女の関係では当たり前のことなのだけど、好きな心で結びついた男女.これが『緑』.
お金で結びついた男女.これまた男女の関係では良くあることで、心の裏側を覗くと、たいていは嫌い.これが『朱』.
作品全体に何が描かれるかと言えば、お金で結びついた男女であり、嫌いな心ばかりが描かれていると言って良く、言葉を変えれば『お金』、『嫌い』が旋律(背景)として描かれていると言える.
こう考えて、課題とは何かを考えれば、それは『好き』、人を好きになるとはどの様なことなのか、と言うことになるのだが.....
清三と千晶の事件
ダンスパーティで知り合った二人は、夜の海岸を散歩した.闇夜の寂しい夜で、清三は千晶に頬付けをしたが、千晶は咎めなかった.二人ともどこか寂しい感情に陥っていたせいであろうと千晶は証言した.なんとなく、成り行きでそうなってしまった、と.
ある日、千晶が自分に恋愛感情を抱いているはずと思い込んだ清三は、千晶の部屋に忍び込んで来た.おおよそ30分ほど話したようだが、千晶は清三に『自分はあなたを好きではない』とはっきり言い、清三もまたそれを理解したようだ.清三は『想い出に写真を欲しい』と言ったらしいが、写真を渡したくなかった千晶は、写真に見せかけて封筒に入れたお金を渡したのだった.『お金と知っていれば、彼は受け取らなかったであろう』と彼女は証言した.
雪枝と千晶の父親
戸山に失恋した雪枝は焼けになり、競馬にのめり込んで、最後は戸山から盗んだお金を競馬ですってしまった.お金を盗んだ彼女は家には帰れず、競馬場で出会った千晶の父親に誘われるままに付いていった.そして、ぐでんぐでんに酔ったあげく抱かれてしまったらしい.
なんとなく、成り行きでそうなってしまったのだが.....
父親は、二人の関係をどうするつもりだったのかと言えば、『お金を欲しいだろうから、妾になれ』と言いたかったのであろうが、彼女は、『済んでしまったことを、どうこう言ってもはじまらない.お金はいらないわ.私は売り物じゃないのよ』、そう言って帰っていった.
千晶の父親はお金で雪枝を自分のものにしようとしたが、雪枝は例え肉体関係を持ったにしても、好きでもない父親を相手にしなかった.
千晶は自分を好いている清三との関係を絶ちきろうと、写真に見せかけてお金を渡したのだった.千晶も父親も、二人とも同じで男女の関係をお金の関係にしようとしたのだった.
さらに書けば、千晶は清三の自分を好いている心を利用として自分を守ろうとしたのである.清三は千晶を好いているからこそ、知らずに貰ったお金を、脅し取ったと言って千晶をかばったけれど、その出来事を千晶は『強盗にお金を渡して追い返した』と、皆に偽証したのだった.
戸山にふられた雪枝は、嫉妬心から戸山に冷たく当り、二人の仲を引き裂こうと、千晶の過去を暴く新聞を机の上に置き、最後には戸山のお金を盗んで競馬で使い果たした.そして好きでもない男に、千晶の父親に抱かれて、行き着くところは戸山から好かれるどころか、どこを取っても嫌われるだけの女になってしまっていた.
彼女自身が嫌と言うほど自分の現実に、誰からも好かれることのない自分に、自分でも好きになることの出来ない自分自身に気がついたのであろう.戸山に会わせる顔が無くなった雪枝は、千晶に会って自分の非を詫び、そして戸山と千晶、二人の幸せを願って泣き崩れたのだった.雪枝は二人を好きになる為に千晶に会いに行った、あるいは好きに慣れる自分自身を取り戻すために千晶に会いに行ったと言えるのだが、その結果は.....
千晶は置き手紙を残し、すぐに東京に戻って裁判の証言に立ったのだった.やっと千晶に人を好きになることがどの様なことか理解されたと言って井野であろう.人を好きになることも、人から好かれることも同じことなのだ、と.
『清三との関係をお金で清算しようとした自分だった.が、それが為に清三は自分をかばって重罪を受けようとしている.自分の証言で無罪に等しい事になるのに、それなのに自分は自分の事しか考えていない.清三は私の幸せを考えているのに、私は清三の幸せを何も考えなかった.こんな自分は、誰からも好かれるに値しないのだ.....』
千晶は証言を終えて、法廷を出てドアの外で泣き崩れた.なぜ泣き崩れたのか?、それは雪枝と同じ、相手に詫びる心で泣き崩れたのであろう.法廷では、『自分をかばってくれたことを感謝している』と、清三にお礼を言ったのだが、けれども自分の非を詫びはしなかった.
人を好きになることも、人から好かれることも同じこと.そして人を好きになるということは、自分で自分を好きになることでもある.
雪枝も千晶も、自分で自分を好きになれる自分を取り戻すために、泣いて詫びたと言える.その点は父親も同じ、彼は泣いて詫びる代わりに旅に出ると言った.
書き添えれば、沈黙は金、清三は黙して何も語らず、千晶を好きな自身の心を守り通そうとした.その心は千晶を守る心でもあったと言える.
監督 島津保次郎
原作 片岡鉄兵
脚本 池田忠雄
撮影 生方敏夫
美術 金須孝
音楽 早乙女光
出演
戸山 上原謙
千晶 高杉早苗
雪枝 高峰三枝子
東日出子
奈良真養
岡村文子
清三 佐分利信
河村黎吉
水島亮太郎
武田秀雄
藤野秀夫
心で結びついた男女.男女の関係では当たり前のことなのだけど、好きな心で結びついた男女.これが『緑』.
お金で結びついた男女.これまた男女の関係では良くあることで、心の裏側を覗くと、たいていは嫌い.これが『朱』.
作品全体に何が描かれるかと言えば、お金で結びついた男女であり、嫌いな心ばかりが描かれていると言って良く、言葉を変えれば『お金』、『嫌い』が旋律(背景)として描かれていると言える.
こう考えて、課題とは何かを考えれば、それは『好き』、人を好きになるとはどの様なことなのか、と言うことになるのだが.....
清三と千晶の事件
ダンスパーティで知り合った二人は、夜の海岸を散歩した.闇夜の寂しい夜で、清三は千晶に頬付けをしたが、千晶は咎めなかった.二人ともどこか寂しい感情に陥っていたせいであろうと千晶は証言した.なんとなく、成り行きでそうなってしまった、と.
ある日、千晶が自分に恋愛感情を抱いているはずと思い込んだ清三は、千晶の部屋に忍び込んで来た.おおよそ30分ほど話したようだが、千晶は清三に『自分はあなたを好きではない』とはっきり言い、清三もまたそれを理解したようだ.清三は『想い出に写真を欲しい』と言ったらしいが、写真を渡したくなかった千晶は、写真に見せかけて封筒に入れたお金を渡したのだった.『お金と知っていれば、彼は受け取らなかったであろう』と彼女は証言した.
雪枝と千晶の父親
戸山に失恋した雪枝は焼けになり、競馬にのめり込んで、最後は戸山から盗んだお金を競馬ですってしまった.お金を盗んだ彼女は家には帰れず、競馬場で出会った千晶の父親に誘われるままに付いていった.そして、ぐでんぐでんに酔ったあげく抱かれてしまったらしい.
なんとなく、成り行きでそうなってしまったのだが.....
父親は、二人の関係をどうするつもりだったのかと言えば、『お金を欲しいだろうから、妾になれ』と言いたかったのであろうが、彼女は、『済んでしまったことを、どうこう言ってもはじまらない.お金はいらないわ.私は売り物じゃないのよ』、そう言って帰っていった.
千晶の父親はお金で雪枝を自分のものにしようとしたが、雪枝は例え肉体関係を持ったにしても、好きでもない父親を相手にしなかった.
千晶は自分を好いている清三との関係を絶ちきろうと、写真に見せかけてお金を渡したのだった.千晶も父親も、二人とも同じで男女の関係をお金の関係にしようとしたのだった.
さらに書けば、千晶は清三の自分を好いている心を利用として自分を守ろうとしたのである.清三は千晶を好いているからこそ、知らずに貰ったお金を、脅し取ったと言って千晶をかばったけれど、その出来事を千晶は『強盗にお金を渡して追い返した』と、皆に偽証したのだった.
戸山にふられた雪枝は、嫉妬心から戸山に冷たく当り、二人の仲を引き裂こうと、千晶の過去を暴く新聞を机の上に置き、最後には戸山のお金を盗んで競馬で使い果たした.そして好きでもない男に、千晶の父親に抱かれて、行き着くところは戸山から好かれるどころか、どこを取っても嫌われるだけの女になってしまっていた.
彼女自身が嫌と言うほど自分の現実に、誰からも好かれることのない自分に、自分でも好きになることの出来ない自分自身に気がついたのであろう.戸山に会わせる顔が無くなった雪枝は、千晶に会って自分の非を詫び、そして戸山と千晶、二人の幸せを願って泣き崩れたのだった.雪枝は二人を好きになる為に千晶に会いに行った、あるいは好きに慣れる自分自身を取り戻すために千晶に会いに行ったと言えるのだが、その結果は.....
千晶は置き手紙を残し、すぐに東京に戻って裁判の証言に立ったのだった.やっと千晶に人を好きになることがどの様なことか理解されたと言って井野であろう.人を好きになることも、人から好かれることも同じことなのだ、と.
『清三との関係をお金で清算しようとした自分だった.が、それが為に清三は自分をかばって重罪を受けようとしている.自分の証言で無罪に等しい事になるのに、それなのに自分は自分の事しか考えていない.清三は私の幸せを考えているのに、私は清三の幸せを何も考えなかった.こんな自分は、誰からも好かれるに値しないのだ.....』
千晶は証言を終えて、法廷を出てドアの外で泣き崩れた.なぜ泣き崩れたのか?、それは雪枝と同じ、相手に詫びる心で泣き崩れたのであろう.法廷では、『自分をかばってくれたことを感謝している』と、清三にお礼を言ったのだが、けれども自分の非を詫びはしなかった.
人を好きになることも、人から好かれることも同じこと.そして人を好きになるということは、自分で自分を好きになることでもある.
雪枝も千晶も、自分で自分を好きになれる自分を取り戻すために、泣いて詫びたと言える.その点は父親も同じ、彼は泣いて詫びる代わりに旅に出ると言った.
書き添えれば、沈黙は金、清三は黙して何も語らず、千晶を好きな自身の心を守り通そうとした.その心は千晶を守る心でもあったと言える.