『火の接吻』
公開 1950年 107分
監督 アンドレ・カイヤット
脚本 ジャック・プレヴェール
撮影 アンリ・アルカン
出演 セルジュ・レジアニ (アンジェロ)
アヌーク・エーメ (ジョルジア)
マルティーヌ・キャロル (ベッティナ)
ピエール・ブラッスール (ラファエル)
ルイ・サルー
マルセル・ダリオ
シャルル・ブラヴェット
ロミオとジュリエットの映画撮影、ロミオの代役アンジェロとジュリエットの代役のジョルジアが、撮影中にバルコニーで出会い互いに一目惚れをして愛し合ってしまう.あたかもロミオとジュリエットの物語のように、純真な愛が二人にあるように想えるのだけれど、本当にそうなのか.
女優のベッティナとアンジェロ
「幸せ?」
「どういう意味?」
「恋をしてるかい、真剣な愛じゃなくていい.....ただの恋さ」
アンジェロはベッティナを口説こうと果敢に話しかけ、年配の映画制作者の男の女らしいベッティナは、若いアンジェロに心を惹かれるものがあったようだ.
アンジェロはベッティナを口説くことを職場仲間達との賭にして、撮影スタジオに出かけていったのだが、彼は、代役のジョルジアに一目惚れしてしまった.所詮はいい加減な男だった.
波止場の花売り娘、クリオ
波止場でベッティナに手を振るアンジェロに、クリオは話しかける.
「美人ね」
「妬けるか」
「女なら誰だって」
「年頃のせいだからさ」
「そうかしら」
「どうした」
「別に」
「寂しそうな目だ」
「悩みのタネがあそこに、妊娠したの」
「まさか」
「あなたのじゃないわ」、クリオは正直に告白した.
「確かなのか?」
「そうならよかったのに」、クリオはアンジェロとの結婚を望んでいた.
「そんなことはない、ガラス職人は病弱だ」、アンジェロは相手によって自分の都合に合わせ、言うことがころっと変わる男.
「相手は?」
「歌にあるわ」
「耳飾りのため、一片のパンのため、家族を養うために仕方なく、アメリカ人に心の太陽を売った」
「家を追い出されたの」
「やむを得ない.どうする気だ.うちに来いよ」、こう言われても、クリオは一度は拒んだのだった.
「そうか、2、3日考えろ.愛してる」、この言葉は、結婚を決意してから来いと、クリオには受け取られたはず.
「私もよ、優しいのね.まるで兄さんみたい」、決意したクリオだったのだが.....
ジョルジアとアンジェロ (ベローナの河で)
「前に好きな人いた?」
「いや、ふりをしたことはある.好きだと言って」
「なぜ」
「喜ばせたくて」、アンジェロは相手を喜ばせるために、いい加減なことを言う男だった.
「私にもそうなの?」、この言葉は、自分がそうでなければ良い、と言う意味なのか?.
「君は違う」、相手を喜ばせるために嘘を言うことが悪いことだとは、二人共考えなかったようだ.
「愛してる.君こそ恋人は?」
「誰も.でも婚約者が」
「婚約者?」
「誰だ」
「いいじゃない」
「若い男か」
「まあね」
「仕事は」
「自分で」
「結婚は?」
「もちろん.....家族が決めたの」
クリオとアンジェロ (ムラノ島のアンジェロの家)
アンジェロはベローナから家に帰ってきた.花売り娘のクリオは仕事の支度をしていた.
「クリオ」
「ベローナは美しかった?」
「とても」
「心配してたの、昨夜、男が二人来たわ」
「会ったよ、心配ない.嫌な思いを?」
「いいえ」
「今日、誰か来た?」
「ううん」
「何か?」
「別に」
「ここが嫌いか?」
「いえ、あなたがいなくて寂しいだけ.でも、戻っても同じ」、ここまで言っても分らない男だったらしい.
「なぜ?」
「私はあなたの妹?」
「クリオ」
「クリオ、クリオって名前を呼ぶだけ」
「仕事場へ行く.賭に負けてワインをおごらされる.誰か来るかもしれない」
「誰かって女ね.愛してるの?」
「とても、こんなの初めてだ」、全くクリオの気持ちを考えないで、自分のことだけを言っている.
アンジェロは女優のベッティナを口説くという賭に負け、酒樽を持って仕事場へでかけた.
クリオとジョルジア
アンジェロとすれ違いに、ジョルジアはムラノ島のアンジェロの家を尋ねてやって来た.
「今日は」
「何の用?」
「アンジェロの家?」
「そうよ」
「彼は?」
「今頃、映画の撮影中よ、ベローナで」
「知ってる」
「一緒だったの?」
「ええ」
「彼はお兄さん?」
「いいえ」
「そうね、聞いてないわ」、妹でなかったら、なんだと思ったのだろうか?.
「戻ります?」
「気になる?」
「ええ、姿を見せないから.戻ったら、一晩中スタジオにいるって伝えて」
「これを、メモよ」
「渡しておくわ」
ジョルジアはクリオに伝言を頼み、そして書き置きを渡したのだが.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオは帰りかけたジョルジアに言った.ジョルジアは振り向いたが、黙って帰っていってしまった.
クリオはメモを破り捨てた.
召使のレティシアはアンジェロを殺害する悪巧みを抱いてやって来た.レティシアが去った後で、アンジェロはクリオの姿を見かけたので、「クリオ、夕食を一緒に」と声をかけたのだが、クリオは黙って行ってしまった.
この時クリオがジョルジアが尋ねてきたことを伝えていれば、悲劇は起きなかったのである.レティシアはジョルジアが監禁されていると嘘を言ったので、ジョルジアが尋ねてきたことさえ分れば、騙されることは無かったのであるが.けれどもクリオは何も言わず行ってしまった.
クリオは『あなたの子供ではない』と、自分にとって都合の悪い事実を、正直に言った素直な女の子だった.『あなたの子供よ』と言って騙すような女の子では無かったのだ.けれども、アンジェロはクリオの気持ちを全くと言ってよいほど理解しようとしなかった.
そして、ジョルジアもまたクリオの気持ちを考えたかどうか?.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオにこう言われて、ジョルジアは何も言わずに帰ってしまったのだが、なぜ一言、何か言うことが出来なかったのか.
『あなたは鞄を持って、この家で暮すつもりで来たのでしょう?』、クリオはこう聞いたのだ.
『ごめんなさい.私、あなたが居るとは知らなくて』と、ジョルジアがクリオに一言でも謝っていれば.....
『あなた、行く当てはあるの?』、家を追い出されてアンジェロの救われたクリオなので、きっと聞いたであろう.
『家に居られなくなって、逃げ出してきたの』.....
このような会話があれば、クリオは少なくともジョルジアが尋ねてきたことは、アンジェロに伝えたと想えるのだけど.
アンジェロは相手を喜ばせるために平気で嘘をつく男で、嘘をつくことが悪いことだとは全く考えない男だった.嘘をつくことが悪いことだとは考えない、この点ではジョルジアも同じであったらしい.二人共に、恋愛感情を交えた嘘が、相手に苦しみを与え、そして悲劇を招くとは全く考えることは無く、自分達だけが幸せならばそれで良いという、身勝手な二人だったと言える.
ベッティナは『今度は私が代役よ』と、アンジェロを待ちわびるジョルジアに言ったのだった.元を質せばアンジェロは自分を口説きに来た男のはずだったけれど、ベッティナは二人の気持ちを想い遣る、優しい心の女性だった.
そしてクリオ、彼女は『あなたの子供じゃないわ』と告白した.クリオは嘘をつかない女の子だった.
公開 1950年 107分
監督 アンドレ・カイヤット
脚本 ジャック・プレヴェール
撮影 アンリ・アルカン
出演 セルジュ・レジアニ (アンジェロ)
アヌーク・エーメ (ジョルジア)
マルティーヌ・キャロル (ベッティナ)
ピエール・ブラッスール (ラファエル)
ルイ・サルー
マルセル・ダリオ
シャルル・ブラヴェット
ロミオとジュリエットの映画撮影、ロミオの代役アンジェロとジュリエットの代役のジョルジアが、撮影中にバルコニーで出会い互いに一目惚れをして愛し合ってしまう.あたかもロミオとジュリエットの物語のように、純真な愛が二人にあるように想えるのだけれど、本当にそうなのか.
女優のベッティナとアンジェロ
「幸せ?」
「どういう意味?」
「恋をしてるかい、真剣な愛じゃなくていい.....ただの恋さ」
アンジェロはベッティナを口説こうと果敢に話しかけ、年配の映画制作者の男の女らしいベッティナは、若いアンジェロに心を惹かれるものがあったようだ.
アンジェロはベッティナを口説くことを職場仲間達との賭にして、撮影スタジオに出かけていったのだが、彼は、代役のジョルジアに一目惚れしてしまった.所詮はいい加減な男だった.
波止場の花売り娘、クリオ
波止場でベッティナに手を振るアンジェロに、クリオは話しかける.
「美人ね」
「妬けるか」
「女なら誰だって」
「年頃のせいだからさ」
「そうかしら」
「どうした」
「別に」
「寂しそうな目だ」
「悩みのタネがあそこに、妊娠したの」
「まさか」
「あなたのじゃないわ」、クリオは正直に告白した.
「確かなのか?」
「そうならよかったのに」、クリオはアンジェロとの結婚を望んでいた.
「そんなことはない、ガラス職人は病弱だ」、アンジェロは相手によって自分の都合に合わせ、言うことがころっと変わる男.
「相手は?」
「歌にあるわ」
「耳飾りのため、一片のパンのため、家族を養うために仕方なく、アメリカ人に心の太陽を売った」
「家を追い出されたの」
「やむを得ない.どうする気だ.うちに来いよ」、こう言われても、クリオは一度は拒んだのだった.
「そうか、2、3日考えろ.愛してる」、この言葉は、結婚を決意してから来いと、クリオには受け取られたはず.
「私もよ、優しいのね.まるで兄さんみたい」、決意したクリオだったのだが.....
ジョルジアとアンジェロ (ベローナの河で)
「前に好きな人いた?」
「いや、ふりをしたことはある.好きだと言って」
「なぜ」
「喜ばせたくて」、アンジェロは相手を喜ばせるために、いい加減なことを言う男だった.
「私にもそうなの?」、この言葉は、自分がそうでなければ良い、と言う意味なのか?.
「君は違う」、相手を喜ばせるために嘘を言うことが悪いことだとは、二人共考えなかったようだ.
「愛してる.君こそ恋人は?」
「誰も.でも婚約者が」
「婚約者?」
「誰だ」
「いいじゃない」
「若い男か」
「まあね」
「仕事は」
「自分で」
「結婚は?」
「もちろん.....家族が決めたの」
クリオとアンジェロ (ムラノ島のアンジェロの家)
アンジェロはベローナから家に帰ってきた.花売り娘のクリオは仕事の支度をしていた.
「クリオ」
「ベローナは美しかった?」
「とても」
「心配してたの、昨夜、男が二人来たわ」
「会ったよ、心配ない.嫌な思いを?」
「いいえ」
「今日、誰か来た?」
「ううん」
「何か?」
「別に」
「ここが嫌いか?」
「いえ、あなたがいなくて寂しいだけ.でも、戻っても同じ」、ここまで言っても分らない男だったらしい.
「なぜ?」
「私はあなたの妹?」
「クリオ」
「クリオ、クリオって名前を呼ぶだけ」
「仕事場へ行く.賭に負けてワインをおごらされる.誰か来るかもしれない」
「誰かって女ね.愛してるの?」
「とても、こんなの初めてだ」、全くクリオの気持ちを考えないで、自分のことだけを言っている.
アンジェロは女優のベッティナを口説くという賭に負け、酒樽を持って仕事場へでかけた.
クリオとジョルジア
アンジェロとすれ違いに、ジョルジアはムラノ島のアンジェロの家を尋ねてやって来た.
「今日は」
「何の用?」
「アンジェロの家?」
「そうよ」
「彼は?」
「今頃、映画の撮影中よ、ベローナで」
「知ってる」
「一緒だったの?」
「ええ」
「彼はお兄さん?」
「いいえ」
「そうね、聞いてないわ」、妹でなかったら、なんだと思ったのだろうか?.
「戻ります?」
「気になる?」
「ええ、姿を見せないから.戻ったら、一晩中スタジオにいるって伝えて」
「これを、メモよ」
「渡しておくわ」
ジョルジアはクリオに伝言を頼み、そして書き置きを渡したのだが.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオは帰りかけたジョルジアに言った.ジョルジアは振り向いたが、黙って帰っていってしまった.
クリオはメモを破り捨てた.
召使のレティシアはアンジェロを殺害する悪巧みを抱いてやって来た.レティシアが去った後で、アンジェロはクリオの姿を見かけたので、「クリオ、夕食を一緒に」と声をかけたのだが、クリオは黙って行ってしまった.
この時クリオがジョルジアが尋ねてきたことを伝えていれば、悲劇は起きなかったのである.レティシアはジョルジアが監禁されていると嘘を言ったので、ジョルジアが尋ねてきたことさえ分れば、騙されることは無かったのであるが.けれどもクリオは何も言わず行ってしまった.
クリオは『あなたの子供ではない』と、自分にとって都合の悪い事実を、正直に言った素直な女の子だった.『あなたの子供よ』と言って騙すような女の子では無かったのだ.けれども、アンジェロはクリオの気持ちを全くと言ってよいほど理解しようとしなかった.
そして、ジョルジアもまたクリオの気持ちを考えたかどうか?.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオにこう言われて、ジョルジアは何も言わずに帰ってしまったのだが、なぜ一言、何か言うことが出来なかったのか.
『あなたは鞄を持って、この家で暮すつもりで来たのでしょう?』、クリオはこう聞いたのだ.
『ごめんなさい.私、あなたが居るとは知らなくて』と、ジョルジアがクリオに一言でも謝っていれば.....
『あなた、行く当てはあるの?』、家を追い出されてアンジェロの救われたクリオなので、きっと聞いたであろう.
『家に居られなくなって、逃げ出してきたの』.....
このような会話があれば、クリオは少なくともジョルジアが尋ねてきたことは、アンジェロに伝えたと想えるのだけど.
アンジェロは相手を喜ばせるために平気で嘘をつく男で、嘘をつくことが悪いことだとは全く考えない男だった.嘘をつくことが悪いことだとは考えない、この点ではジョルジアも同じであったらしい.二人共に、恋愛感情を交えた嘘が、相手に苦しみを与え、そして悲劇を招くとは全く考えることは無く、自分達だけが幸せならばそれで良いという、身勝手な二人だったと言える.
ベッティナは『今度は私が代役よ』と、アンジェロを待ちわびるジョルジアに言ったのだった.元を質せばアンジェロは自分を口説きに来た男のはずだったけれど、ベッティナは二人の気持ちを想い遣る、優しい心の女性だった.
そしてクリオ、彼女は『あなたの子供じゃないわ』と告白した.クリオは嘘をつかない女の子だった.