映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

火の接吻 (アンドレ・カイヤット)

2016年05月19日 16時04分47秒 | アンドレ・カイヤット
『火の接吻』
公開 1950年 107分
監督 アンドレ・カイヤット
脚本 ジャック・プレヴェール
撮影 アンリ・アルカン

出演 セルジュ・レジアニ (アンジェロ)
   アヌーク・エーメ (ジョルジア)
   マルティーヌ・キャロル (ベッティナ)
   ピエール・ブラッスール (ラファエル)
   ルイ・サルー
   マルセル・ダリオ
   シャルル・ブラヴェット




ロミオとジュリエットの映画撮影、ロミオの代役アンジェロとジュリエットの代役のジョルジアが、撮影中にバルコニーで出会い互いに一目惚れをして愛し合ってしまう.あたかもロミオとジュリエットの物語のように、純真な愛が二人にあるように想えるのだけれど、本当にそうなのか.




女優のベッティナとアンジェロ
「幸せ?」
「どういう意味?」
「恋をしてるかい、真剣な愛じゃなくていい.....ただの恋さ」

アンジェロはベッティナを口説こうと果敢に話しかけ、年配の映画制作者の男の女らしいベッティナは、若いアンジェロに心を惹かれるものがあったようだ.
アンジェロはベッティナを口説くことを職場仲間達との賭にして、撮影スタジオに出かけていったのだが、彼は、代役のジョルジアに一目惚れしてしまった.所詮はいい加減な男だった.




波止場の花売り娘、クリオ
波止場でベッティナに手を振るアンジェロに、クリオは話しかける.
「美人ね」
「妬けるか」
「女なら誰だって」
「年頃のせいだからさ」
「そうかしら」
「どうした」
「別に」
「寂しそうな目だ」
「悩みのタネがあそこに、妊娠したの」
「まさか」
「あなたのじゃないわ」、クリオは正直に告白した.
「確かなのか?」
「そうならよかったのに」、クリオはアンジェロとの結婚を望んでいた.
「そんなことはない、ガラス職人は病弱だ」、アンジェロは相手によって自分の都合に合わせ、言うことがころっと変わる男.
「相手は?」
「歌にあるわ」
「耳飾りのため、一片のパンのため、家族を養うために仕方なく、アメリカ人に心の太陽を売った」
「家を追い出されたの」
「やむを得ない.どうする気だ.うちに来いよ」、こう言われても、クリオは一度は拒んだのだった.
「そうか、2、3日考えろ.愛してる」、この言葉は、結婚を決意してから来いと、クリオには受け取られたはず.
「私もよ、優しいのね.まるで兄さんみたい」、決意したクリオだったのだが.....






ジョルジアとアンジェロ (ベローナの河で)
「前に好きな人いた?」
「いや、ふりをしたことはある.好きだと言って」
「なぜ」
「喜ばせたくて」、アンジェロは相手を喜ばせるために、いい加減なことを言う男だった.
「私にもそうなの?」、この言葉は、自分がそうでなければ良い、と言う意味なのか?.
「君は違う」、相手を喜ばせるために嘘を言うことが悪いことだとは、二人共考えなかったようだ.
「愛してる.君こそ恋人は?」
「誰も.でも婚約者が」
「婚約者?」
「誰だ」
「いいじゃない」
「若い男か」
「まあね」
「仕事は」
「自分で」
「結婚は?」
「もちろん.....家族が決めたの」












クリオとアンジェロ (ムラノ島のアンジェロの家)
アンジェロはベローナから家に帰ってきた.花売り娘のクリオは仕事の支度をしていた.
「クリオ」
「ベローナは美しかった?」
「とても」
「心配してたの、昨夜、男が二人来たわ」
「会ったよ、心配ない.嫌な思いを?」
「いいえ」
「今日、誰か来た?」
「ううん」
「何か?」
「別に」
「ここが嫌いか?」
「いえ、あなたがいなくて寂しいだけ.でも、戻っても同じ」、ここまで言っても分らない男だったらしい.
「なぜ?」
「私はあなたの妹?」
「クリオ」
「クリオ、クリオって名前を呼ぶだけ」
「仕事場へ行く.賭に負けてワインをおごらされる.誰か来るかもしれない」
「誰かって女ね.愛してるの?」
「とても、こんなの初めてだ」、全くクリオの気持ちを考えないで、自分のことだけを言っている.
アンジェロは女優のベッティナを口説くという賭に負け、酒樽を持って仕事場へでかけた.





クリオとジョルジア
アンジェロとすれ違いに、ジョルジアはムラノ島のアンジェロの家を尋ねてやって来た.
「今日は」
「何の用?」
「アンジェロの家?」
「そうよ」
「彼は?」
「今頃、映画の撮影中よ、ベローナで」
「知ってる」
「一緒だったの?」
「ええ」
「彼はお兄さん?」
「いいえ」
「そうね、聞いてないわ」、妹でなかったら、なんだと思ったのだろうか?.
「戻ります?」
「気になる?」
「ええ、姿を見せないから.戻ったら、一晩中スタジオにいるって伝えて」
「これを、メモよ」
「渡しておくわ」

ジョルジアはクリオに伝言を頼み、そして書き置きを渡したのだが.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオは帰りかけたジョルジアに言った.ジョルジアは振り向いたが、黙って帰っていってしまった.
クリオはメモを破り捨てた.





召使のレティシアはアンジェロを殺害する悪巧みを抱いてやって来た.レティシアが去った後で、アンジェロはクリオの姿を見かけたので、「クリオ、夕食を一緒に」と声をかけたのだが、クリオは黙って行ってしまった.
この時クリオがジョルジアが尋ねてきたことを伝えていれば、悲劇は起きなかったのである.レティシアはジョルジアが監禁されていると嘘を言ったので、ジョルジアが尋ねてきたことさえ分れば、騙されることは無かったのであるが.けれどもクリオは何も言わず行ってしまった.

クリオは『あなたの子供ではない』と、自分にとって都合の悪い事実を、正直に言った素直な女の子だった.『あなたの子供よ』と言って騙すような女の子では無かったのだ.けれども、アンジェロはクリオの気持ちを全くと言ってよいほど理解しようとしなかった.
そして、ジョルジアもまたクリオの気持ちを考えたかどうか?.
「これを伝えに、鞄まで持って?」、クリオにこう言われて、ジョルジアは何も言わずに帰ってしまったのだが、なぜ一言、何か言うことが出来なかったのか.
『あなたは鞄を持って、この家で暮すつもりで来たのでしょう?』、クリオはこう聞いたのだ.
『ごめんなさい.私、あなたが居るとは知らなくて』と、ジョルジアがクリオに一言でも謝っていれば.....
『あなた、行く当てはあるの?』、家を追い出されてアンジェロの救われたクリオなので、きっと聞いたであろう.
『家に居られなくなって、逃げ出してきたの』.....
このような会話があれば、クリオは少なくともジョルジアが尋ねてきたことは、アンジェロに伝えたと想えるのだけど.

アンジェロは相手を喜ばせるために平気で嘘をつく男で、嘘をつくことが悪いことだとは全く考えない男だった.嘘をつくことが悪いことだとは考えない、この点ではジョルジアも同じであったらしい.二人共に、恋愛感情を交えた嘘が、相手に苦しみを与え、そして悲劇を招くとは全く考えることは無く、自分達だけが幸せならばそれで良いという、身勝手な二人だったと言える.

ベッティナは『今度は私が代役よ』と、アンジェロを待ちわびるジョルジアに言ったのだった.元を質せばアンジェロは自分を口説きに来た男のはずだったけれど、ベッティナは二人の気持ちを想い遣る、優しい心の女性だった.
そしてクリオ、彼女は『あなたの子供じゃないわ』と告白した.クリオは嘘をつかない女の子だった.


外人部隊 - LE GRAND JEU -(ジャック・フェデー)

2016年05月13日 15時23分38秒 | ジャック・フェデー
外人部隊 - LE GRAND JEU - (1933年 120分 フランス)

監督  ジャック・フェデー Jacques Feyder
脚本  ジャック・フェデー
    シャルル・スパーク Charles Spaak
撮影  ハリー・ストラドリング
音楽  ハンス・アイスラー
助監督 マルセル・カルネ Marcel Carne
    シャルル・バロワ

出演  マリー・ベル Marie Bell
    ピエール・リシャール=ウィルム
    フランソワーズ・ロゼー Francoise Rosay
    ジョルジュ・ピトエフ
    シャルル・ヴァネル
    カミーユ・ベール


裏切る.
(1)味方にそむいて敵方につく.▽なかまを―.
(2)約束や信義にそむく.▽友情を―.
(3)予想と反対の結果を招く.

フランスでの出来事
ピエールは女に貢ぐため(2)約束や信義に背くことをして、(3)予想と反対の結果を招き、国外に追放されてモロッコの外人部隊に流れて行く事になった.
フローランスは彼とは一緒に来なかった.好きな女が去っていった結果は、彼の予想と反対の結果だった.人を裏切った結果は、自分を裏切ることになったと言える.(自分の期待とは反対の結果になった.期待が裏切られた)


モロッコ
売春宿のおやじクレマンは、毎日のように店の女の子に手を出していた.妻ブランシュへの裏切りなのだが、ブランシュは夫の浮気を知りながら何も言わなかったようだ.無言が示す夫婦仲の悪さを、なんと言ったらよいのであろうか.

クレマンがイルマに手を出し、成り行きとは言えピエールはクレマンを殺すことになった.クレマンの行為はピエールに対する信義に背く行為であり、使用人に対しても、妻に対しても同様であったはず.
ブランシュは夫が殺されたにもかかわらず、ピエールを嘘の証言でかばうことにした.つまり、浮気者、裏切り者の夫は生きているに値しなかったと言うことになる.自分で裏切り者と知りながら、その行為を止めようとしないやつ、裏切りを悪いことと思わないやつは生きているに値しない.

偵察に出掛けるとき、イワノフが志願したのに親友のピエールは志願するのを躊躇った.そしてイワノフは死ぬことになった.ピエールは自分も一緒に行っていたら、と後悔したのだが.彼は好きな女、イルマと一緒に暮したい、死ぬのは嫌だと思い、友情という信義に背いてしまったのであろうか.
イワノフの写真ののった新聞、革命家、芸術家、殺人犯?、彼の過去は分からない.彼に言わせれば、外人部隊とは過去を帳消しにする権利を買うことだった.彼の死は、その過去に人として許されないもの、生きているに値しない愚かさが存在することを暗に示しているようだ.

偶然フローランスと再会したピエール.再会したフローランスとの会話の中で、彼はフローランスの自分に対する裏切りにと気付くと同時に、自分を愛していない女を思い続けてきた、未練に染まった愚かな自分に気づき、更にイルマの愛に対する裏切り、そしてイワノフの友情に対する裏切りにも、気付くことになった.

お金を渡したとは言え、イルマを一人で船に乗せ、しかもピエールは再び外人部隊に志願した.
なぜなのか?.この点が、この表現が私には分らなかった.
フローランスに再開したピエールは、イルマを裏切ってしまった.しかし、彼は自分の間違いに気がついたので、おとなしくイルマと一緒に船に乗ればよかったはず、現実の世界なら、それで良いであろう.
彼は、それまでに幾度も裏切りを繰り返してきた.もう生きているに値しないと思ったのであろうが.
あくまで映画での表現として、
好きな女のために、第3者を裏切るということは、結局は好きな女を裏切ることである.

映画『異邦人』- LO STRANIERO - (監督 ルキノ・ヴィスコンティ、原作 アルベール・カミュ)

2016年05月07日 08時05分04秒 | ルキノ・ヴィスコンティ
『異邦人』- LO STRANIERO - イタリア、フランス
公開 1967年 101分
監督 ルキノ・ヴィスコンティ LUCHINO VISCONTI
原作 アルベール・カミュ ALBERT CAMUS

出演
マルチェロ・マストロヤンニ MARCELLO MASDTROIANNI
アンナ・カリーナ ANNA KARINA



笑わない子
子供に耐えきれないほどの苦しみ悲しみを与えると、笑わなくなってしまう.
子供は苦しみ悲しみを理解して耐えるのではなく、単に心の奥底に押さえつけて耐えることしか出来ない.笑うと、無理矢理押さえつけている苦しみ悲しみが、押さえきれなくなって一緒にでてきてしまう.悲しみを押さえるが為に喜びも感じないようにするしかなく、結果として、無感動な生き方をすることになる.
笑わない子は、実は泣かない子、泣くことが出来ない子である.


不満と満足
社長からパリへの転勤の話があった時、彼は学生時代までは野心を持っていたと言った.お金が続かなくなったためであろう、中退しなければならなくなって、自分の満足のいく将来が失われた時、満足を求めないと同時に不満も抱かない、言い換えれば何事にも感動を抱かない生き方をするようになったらしい.
おそらく、母親の生活力から学費が続かなくなって中退することになったのであろうが、彼は母親に不満を言っても無駄なことが良く分ったので、何も言わずに耐えたのだと思われる.
同様に、母親を養老院に入れたことに関しても、自分の稼ぎに合わせて出来るだけの事をしたのであり、その事に関して母親から不満を言われる筋合いはないと、彼は考えていた.
母親の稼ぎに合わせて学校を中退した、それが為に自分の稼ぎも限られることになったのであり、結果として、養老院に入れるしかなくなったことに不満を言われたとしたら筋違いであろう.裁判で検事は、母親を養老院に入れたことに対して、薄情者、親子の愛情がないと責めたてたが、だったら子供の学校を続けさせることが出来なかった母親も、子供への愛情がないと言わなければならない.

人は何時かは死ぬ、70まで生きても、30で死んでも同じ.本当にそうならば、30から70までは死んでるのと同じことに、生きている価値が無いことになる.今日一日が単に過ぎ去ればよい、彼は生きている価値を何も見いだすことが出来ない、そうした日々を過ごしていた.

母親が死んでも、別段悲しいとも感じなかった.なんでもいいから早く葬儀を済ませて家に帰りたかったのであろう.
好きな女が出来て身体を求め合っても、結婚生活の夢を抱くことは出来なかった.
彼は、悲しい感情も、楽しい感情も、どちらも押し殺して生きていた.それが為に、相手がナイフを構えて向かってこようとしたとき、何も考えることも無く、4発の銃弾を撃ってしまった.好きな女が出来ても楽しい結婚生活を想い描くことが出来なかったように、人を殺すことに対して、悲しい感情を抱くことが出来なかったと言ってよいであろう.

『最後に言うことはないか?』、裁判長に問われて、
『殺意はなかった』と、彼は言い張ったのだが.....

一番の有罪の決め手になったのは、友人の男に騙されて、娼婦の女に手紙を書いたことであろうか.この時も、彼は友人に騙されたとは言わなかった.あくまでも友人だと思っていると言った.

満足を求めない変わりに、決して不満も口にしない男だった.それが為に、死刑になってしまったと言ってよいであろう.
教誨師は嘘つきであった.『あんたが来たら明日は執行の日だ』と言うと、『きっと上告が認められる』と嘘を言った.そして、神を信じろ、死後の世界を信じろ、嘘を信じろと彼を責め立てた.が、彼は自分なりに真実を述べたけれど、死刑になろうとしているのである.そんな話は聞きたくない、帰ってくれと言って当然である.

彼は、真実を述べたにもかかわらず、検事、裁判官、教誨師、誰も彼を理解しようとしなかった.死刑の執行を待つ怯えた日々を過ごす内に、彼は真実を理解しようとしない者達に対して、押さえきれない不満を抱くようになっていた.その結果、同時に、生きることへの満足を求めるように、好きな女と一緒に暮したいという夢を抱くようになっていた.
彼の母親も同様であったようだ.死期が近づいていることを自覚する歳になって婚約者を見つけていた.生きる夢を抱いていた.もっと生きたいと望んだのだ.
おそらくは、彼が学校を中退したときから、彼の母親も、彼と同様に、無感動な日々を送ってきたのであろう.

さて、もう一度元に戻って.
彼は無感動な日々を過ごしていた.生きる望みを抱かない、生きる価値のない日々を過ごしていた.それが為に、何も考えることなく4発の銃弾によって殺人を行ってしまったのである.
その彼が、死刑執行を前にして、生きたいと望んだ.生きる価値を見つけ出した彼を殺そうとする、死刑とはそう言う行為であった.
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2019年10月30日追記

1.ムルソーが言っていることを、理解出来るかどうか?.
2.理解できるのならば、彼の言っている事が、正しいかどうか.
と、どうしてもこのように考えがちになるのですが、上の二つの項目は置いておいて、彼が裁判で嘘をついていたかどうか?.
こう考えれば、彼は裁判で真実を述べていた、あるいは真実を述べようとしていたと言えるはず.

教誨師
教誨師は嘘つきであった.『あんたが来たら、明日は執行の日だ』と言うと、『きっと上告が認められる』と嘘を言った.そして、神を信じろ、死後の世界を信じろ、嘘を信じろとムルソーを責め立てた.
ムルソーは自分なりに真実を述べたけれど、死刑になろうとしているのである.教誨師に対して、そんな話は聞きたくない、帰ってくれと言って当然である.

教誨師は、数時間後に死刑が執行されることを知っていて、ムルソーに嘘をつくように強要した.教誨師は嘘をついて死んで行けと言ったのである.嘘をついてはいけない.正しいいことを言って生きて行かなければならないのは、誰にでも分ること.と、考えれば、裁判で真実を述べようとしたムルソーは生きて行かなければならなかった.....死刑にしてはならなかったと言える.


現実の裁判とは.....
綺麗事の謝罪の言葉を並べて、判事の心象を良くして情状酌量を求めて、少しでも罰を軽くしようとする.
要するに、嘘つきによって行われるものなのです.

では、裁判で真実を述べるとどうなるか.
『光市母子殺害事件』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%89%E5%B8%82%E6%AF%8D%E5%AD%90%E6%AE%BA%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6
『異邦人』も『光市母子殺害事件』も同じ結果になった.
真実を述べている事を理解されず、供述の内容を理解されず、死刑になりました.

『光市母子殺害事件』の弁護団を、当時、橋下徹は批判しました.
綺麗事の謝罪の言葉を並べて、判事の心象を良くして情状酌量を求めて、少しでも罰を軽くしようとしないから、死刑になるのだ、と.
橋下徹は、罰を軽くするには嘘をつくことが当然だ、と、言ったのです.

以前に、ミスを犯した航空管制官の裁判がありました.
ヨーロッパではこのような裁判は、ミスを犯した者を処罰するのではなく、同じ間違いを繰り返さないために、罰則は軽くして真実を述べることを求めるのが当然になっているのですが、日本では厳罰を求刑しました.

『光市母子殺害事件』では、被告が被害者に対して残酷な供述をしました.確かに真実を述べたからと言って、被害者感情を逆撫でするだけだったかもしれない.けれども、嘘をついていては間違いなく何も分らない.真実を述べても何も分らないかもしれないけれど、ひょっとしたら何か分るかもしれない、その程度の意味しかないかも知れないけれど、けれども、真実を述べる事を、正しいこととして評価しなければならないはずである.



勝手にしやがれ (ジャン=リュック・ゴダール)

2016年05月05日 20時44分36秒 | ジャン=リュック・ゴダール
『勝手にしやがれ』
1960年 95分
監督 ジャン=リュック・ゴダール
原案 フランソワ・トリュフォー


『密告者は密告をし、殺し屋は殺しをし、恋人は恋をする』
女は密告をするのは嫌であった.肉体関係を持つまでになった男を、子供を宿した相手であろう男を、密告する気は全くと言って無かったはずなのだけど.

一面から見れば、この女は男を愛していたのかどうかさっぱり分らない.見方を変えて言えば、警察に密告しながら、その事を男に教えて逃げろと言う、自分の身を守ることしか考えない、ご都合主義のようにも思えるけど.
でも、この女のとった行動は、迷いがあったにしても、それで当然ではないのか.自動車泥棒とは知らずに好きになったが、悪党だと知った時には警官殺しの殺人犯だった.こんな男、見捨てられて当然である.
さらに言えば、この男は、昔の女の所へ金を借に行って、
『5000貸せ』
『500しかない』
『なら、いらない』
で、結局は金を盗んで来た.全く女を大切にしない男、遊びだけで付き合って捨てるよりも、もっと酷い男だった.女に何をされようが文句を言う筋合いの無い男である.

男は『刑務所暮らしも悪くない』と、警察に捕まる気だったのが、銃を向けられたとたんに、仲間が投げた銃を拾いに行ってしまった.
『最低だ』、撃たれて、それでも必死に逃げようとして、死ぬ間際に男はこう言ったのだが.

なぜ、この男が『最低』の結末で人生を終えることになったのか?.
一つには、女を大切にしなかった事.女に随分もてたようだけど、誰も大切にしなかったようだ.今度は本当に女にほれたと言ってみても、他の女にしてきたことは酷すぎるであろう.
そして今一つは、警察官を撃ち殺したこと.自動車泥棒位なら、新聞に大きな写真が載って指名手配されることも無かったであろうに.

女を大切にしないこと(女を騙すこと)、人殺し、この二つは人として最低の行為であり、この男が『最低』の結末で人生を終えることになったのは、当然の結果と言わなければならない.


女は悩んで悩んで、悩んだ末に警察に密告した.そして、その事を男に告げて逃げろと言ったのだが.
ここに女の純真な心を見つけ出すことが出来れば良いのだけど、素直に考えてそれを見つけ出せと言うのは、残念ながらこの描き方では無理ではないのか.
この後に撮られたアントニオーニの『砂丘』.
拳銃を手に入れて、警官を見たらがむしゃらに撃ちたくてならない男を描いている.何も考えることなく警官を撃ってしまったが為に、警官に撃ち殺されることになった結末は同じなのだけど.
けれども、『砂丘』では、パーな女の子だけど、ラストで彼女の純真な心を延々と描いて、その心によって考えさせるように描かれている.

付け加えれば、しょうもない映画.
女が警察に密告した事と、撃ち殺されることになった事が、心の中できちんと結びつきはしない.
女に対して優しさがないから女は警察に密告したのであり、警察官を撃ち殺してしまったが為に、拳銃を拾おうとしたら撃ち殺されてしまった.
単に成り行きでそうなった話しに過ぎないといえる.

男は自分のことをアホだと言った.それでも自身は拳銃を所持していたかったけれど、たまたま盗んだ車の中に拳銃が有ったがために、その銃で警察官を撃ち殺してしまったのであり、また、最後のシーンも仲間が渡した拳銃をいらないと突き返したのに、投げてよこした拳銃を拾ってしまったに過ぎなかった.
この点から、銃を手にしたが為に最低の結末になった、銃さえなかったら男は殺されることは無かったといえるが、それを言うのなら自動車泥棒をしなければこんなことにはならなかったのであり、自動車泥棒を止めろと言うべきである.
悪いことをやっても拳銃だけは持つな、と言いたいのであろうが.

男は女が密告したことを怒りはしなかった.ほれた女のやったことに従って警察に捕まる覚悟でいたのだったが、仲間が投げた拳銃を拾ったが為に撃ち殺されたしまった.
と言うのならば、撃たれてから逃げた事をどう考えればよいのか?.
殺人をしてしまったら、女にほれて改心をしても遅い、と言うのならば、その様に描くべきであろう.





盗んだ車の中にピストルがあった
俺はアホーだ、バン、バン.....

すぐに白バイが追ってきて
で、警官を撃っちゃった


いらないと言ったのに、仲間が警察と戦えと、ピストルを投げてよこした
拾わなければ良いのに、なんとなく拾ってしまって.....
当然のように警官に撃たれた


自動車泥棒なら、捕まったって刑は知れてる
けれども、警官を撃ち殺してしまったら.....
ピストルなんか持つからこんなことに
アホーはピストルなんか持っちゃ駄目