日曜日に歩数を確認してみると、35,000歩にあと3,400歩ほど足りなかった。気づいたのは午後9時半だった。今日中に3,400歩を歩けば、11個目のスタンプがもらえる。
どうしようか…。
歩かなくったって、いいじゃない。そんなちっぽけな事。今回は諦めよう。
いや、せっかくここまで歩いたんだから。あと、たったの3,400歩じゃないの。
トムとジェリーのワンシーンじゃないけど、耳元で二人の私がささやく。
結局、今週歩いた31,600歩を無駄にするのもしのびなく、歩く事に決めた。
夜のウオーキング。
午後9時半過ぎなんて、まだ早いうちだとは思う。若い頃は怖いもの知らずだった。
でも今は、生きてきた年数の間に色んなニュースを見て来た。日中だって何が起こるか知れないこの世の中。夜暗くなってからなら、犯罪に巻き込まれる確率だって、日中よりは高まるだろう。
でも、歩こう。
夫に「3,400歩、歩いて来る」と伝えて、9時40分過ぎに家を出た。
気温は28度。半袖のTシャツとジーンズで出て来たが、歩くにはさほど暑さも感じない夜。
歩きながら歩数を数え、100歩ごとに指をおる。1,700歩になったら引き返そう。それで往復3,400歩になる。
明るい道を選んで歩く。
向こうから背の高い、ロングワンピースの若い女性が歩いて来る。
それを目で確認しながら、色々考えていた。
夜道は特に若い女の子は危険だけど、私も暗闇なら間違えて襲われる可能性だって無きにしもあらずだよなー。
そんな事を考えながら、ロングワンピースの娘(こ)とすれ違った瞬間、彼女が突然「ふ~ん」と言った。
ビックリした。何の前触れもなく「ふ~ん」。
まさか私の心の声が、聞こえたわけじゃあるまいな、と思い振り返ると、彼女は手にスマホを持っていた。もしかしたら、コードレスのイヤホンを使って誰かと電話で会話してたのかな?会話相手への相槌の「ふ~ん」だったのか?よくわからないけど、そう思うことにした。
遠目にもう一人、人影が見えた。車のライトに浮かび上がるシルエットはかなり細い。男性だろうか。漫画に出てくるような細さだなあと思いながら、歩数のカウントに気をそがれ一瞬目を離した後、前方に目をやると、もう姿は無かった。
消えた?いや、まさかね。
側に大型のマンションがあったので、恐らくそこへ入ったのだろう。
街灯に照らされているとはいえ、あまり出かけることのない夜の時間帯。何かに付け、不思議な出来事に結び付けたがる自分がいる。
なかなか歩数が増えない。何せ片道1,700歩。
平岸街道まで出た。このまま進むと、丁度墓場の辺りまで行ってしまうなあと考えながら進んでいたら、1,600歩の途中で墓地に差し掛かってしまった。
昨年の夏、ここで日中に夫と奇妙な体験をした場所だ。
どうか何も起こりませんように。そう思って体を墓場側から道路寄りに移した瞬間、右腕に何かがまとわりついた。
驚いて、腕を払ったが、払っても払っても、まとわりつくので、悲鳴を上げる代わりに思わず駆け出した。その間も腕を払い続けた。
その姿、他人から見たらどんな図だったろう。走る変な人に見えたに違いない。
よくよく確認してみると、どうやら蜘蛛の巣のようだった。少し冷静になって、何とか取り除くことが出来た。
それにしても不思議だ。
夜とはいえ、結構歩いている人もポツポツといるのに、蜘蛛の巣にかかるとは。張りたての蜘蛛の巣だったのか。運の悪い事だ。
まさか、蜘蛛の糸と一緒に、体に蜘蛛が付いていたりしないよなあ。
得体のしれない恐怖から、今度は蜘蛛という現実的な恐怖へと変わり、歩きながら何度もあちこち体を払った。
そして、走り出したところから、すっかり歩数のカウントは頭から飛んでしまったが、多分1,700歩は超えたはず。墓地から折り返し家方向へと戻る。
ジョギングしている女性とすれ違った。墓場方面へ走っていったけど、蜘蛛の巣は私が取り除いておきましたよと心の中でつぶやいた。
夜道、背後からの自転車も結構恐怖だ。
ひったくり事件をよく耳にする。
何台か背後から自転車が来て通り過ぎたが、家の近くになって複数の自転車がスピードも落とさずに走って来たのには、かなり驚いた。1台また1台と合計5台が連なって走り去った。それも、ちょっと怖かった。
結局のところ、蜘蛛の巣の件を除けばいたって平和な夜道ではあった。
およそ30分ちょっとのウオーキング。
35,000歩達成。11個目のスタンプを獲得。
しかし、ドリンク獲得の道は遥か遠い。