本当は衣食住足りて、子供達も巣立ち、経済的にも度を超えた贅沢さえしなければ、普通に暮らせるこの上ない状況に置かれていると言うのに、気分はふさぎ気味だ。どれだけ幸福な状況なのか自分に言い聞かせてみても、わかってはいるのだが、気分が落ち込んで行くのを止められない。
毎日が同じ日々。何も変化がない。それは、誰にとっても本来ほぼ同じなのだが…。
退職後の平々凡々な日々。パートの職にはついたものの、何の為に生きているのだろうかと、しょうもない事をまた考えてしまう。
昨日少しへこむ出来事があった。
買い物に出かけた時、信号待ちで買い物カートを押したお婆さんと並んだ。70代後半くらいだろうか。
信号がそろそろ青に変わろうとしていたが、まだ赤信号の内に、彼女はカートの前輪を早々と歩道から道路へ下ろしてしまったのだった。かなり太った方で、足も悪そうだった。そのまま車輪が惰性で転がって道路に進んでしまったら大変と思い、お婆さんの体をそっと制するように、「まだですよ」と声をかけた。
するとお婆さんは、「わかってます」と不機嫌そうに振り向いて、さらに「ちゃんと、見えてるんだから!」と言った。それは、馬鹿にするな!とでも言うような感じだった。
私はそんなつもりでは無かった。あまりにも意外な言葉が返ってきたので絶句してしまった。
そして、今のは私のお節介だったなと少し反省した。余計な先読みをして行動してしまった。本当に危険な時に行動すべきだったのだ。
でも、同じ状況で私が彼女の立場だったらきっと「どうも」ぐらいで済ませたのにな、とも思った。あんな態度を彼女がとったのは、きっとこれまでの人生、あまり幸福では無かったのかもしれない、と勝手に想像した。
そんな事があって、ますます気分が落ち込んだ。
いつもだったら、新聞でも本でも読んでいればある程度楽しいのだが、何もする気が起こらない。
このままではいけない。何の不安も無い、こんなに満ち足りた生活がありながらふさぎ込んでいては、何だか不幸の最中にある方々に申し訳が立たない様な気がする。
こんな時のために、気分が落ち込んだ時に読むべき本とか、気分が上がる言葉などを用意もしてあるのだが、今は読む気も起こらず。でも、気分を上げる為、とにかく自分が好きなものが何であったか、改めてピックアップしてみようと努力した。
今日は歌を歌う気もせず…。
そうだ、映画だ。気分転換に映画でも観に行こう。映画のチケット予約をしようとしてみたけれど、目的の映画は今からでは開場の時間に間に合わなかった。
それなら、そうだ、サブスクの映画を観よう。
早速アプリを開き、何を観ようかと画面を見たら「ハニーレモンソーダ」がトップに上がっていた。ジャニーズ、SNOW MAN のラウールと吉川愛ちゃん主演のラブストーリー。
自分に自信の無い、いじめられっ子の優等生羽花(うか)ちゃん(吉川愛)が、ラウール演じる三浦界くんに助けられながら、自己を肯定していく恋愛物語。
吉川愛ちゃんは、私の好きなお芝居が上手い女優さんだ。
二人の成り行きを観ているうちに、楽しくなった。吉川愛ちゃんの笑顔がキラキラしていて、かわいい。
おばさん(お婆さん)の好物、恋愛物語。
今日はこれで一件落着。
あの手この手で、自分の気分を引き上げながら、老後を楽しく生きなければ…。