Tの時間

なんでもない日常のできごとや思いのなかで・・

朱鷺色のナゾ

2021-06-09 22:49:10 | ポエム&エッセイ

過去に書いたいくつかの エッセイ を繙き
今更ながら感性の瑞々しさを羨ましく思うこの頃です
いまではまともな文章ひとつ書くにも時間がかかるようになりました ....... 



朱鷺色のナゾ

母はとても絵を描くのが上手だった

子供の頃一緒に絵を描いて遊んだ記憶はほとんどないのだけれども

いまでも断片的に思い出すことがある

 

一枚の画用紙に女の子の絵を描いてくれた

― それがわたしを描いてくれたものかどうかはハッキリしない ―

色を塗りながら母は言った

「お母さんは 朱鷺色が一番好きじゃよ」

「トキ色ってどの色?」

母が指差したその色はとても鮮やかな濃緑だった・・・と記憶している

以来 わたしはその鮮やかな濃緑色をトキ色だとずーっと思ってきた

 

小学三年のときだっただろうか

学校で恒例の眼の検査があり視力には何の問題もなかった

いろんな色した小さな水玉の集合したものの中に文字が表示されている本があり

「なんに見える」と先生が質問する

一枚だけどうしても文字に見えないのがあり

「色弱」と言われた

以来 通知表には「色弱の傾向あり」と書かれるようになった

 

後日誰にでも読めない1枚があることを知った

いったい何がどうだったのか・・・

 

だからといって普段の生活には何の支障も感じなかった

時折り 色の表現が他の人と微妙に違うことがあったことを除けば・・・

 

そのうちトキ色が朱鷺色だということを知るようになった

それでも朱鷺色が濃緑色だということを疑わなかった

なぜなら朱鷺という鳥を見たことがなくその存在すら知らなかったからである

 

あるとき母にきいた

「お母さんの好きな朱鷺色ってこんな色?」 と濃緑色を指差した

驚いたような顔をして母は言った 「いいやー」

なんとも言えない衝撃が身体を貫いた

 

そして初めて朱鷺色のナゾがわたしの中で氷解していった

薄々気づいていた朱鷺色の語源・・・

やはりそうだったのか

( 2003年1月31日 記 )